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世界を動かすインドの力

タタコンサルタンシーサービシスジャパン株式会社 取締役会長
梶 正彦

「グローバル・エイジ」のリーダーからの提言

2013年1月17日の弊社賀詞交換会にて、タタコンサルタンシーサービシスジャパン株式会社取締役会長の梶正彦様に、最新のインドビジネス事情についてご講演いただきました。本コラムは、当日の梶氏の講演録を(ご本人の許可をいただき)掲載させていただきました。

■インドに注がれる世界の目

 私とインドとの関わりは、私が学生のときからですので、40年を越えました。日本山岳会学生部としてヒマラヤ遠征に行ったのが、最初のインド訪問でした。それからインド人やインドとの関係を、長い間、続けてきています。
 はじめは、山が好きで訪れていました。20年くらい経ってから、ビジネスで行くようになります。最初のうちは「ビジネスでインドなんかに来るんかいな」と思っていました。
1990年に、いよいよインドも経済の自由化をします。これは中国に遅れること約10年でした。ところが、中国が自由化した1980年と、インドが自由化した1990年では、世界の経済情勢も違っていました。1980年代はバブルもあり、非常に経済情勢は良かったのですが、1990年ごろはあまりよくなかった。しかも中国のように思い切って自由化するというわけではなかったこともあり、なかなかテイクオフしませんでした。
 そしてご存知のように、2000年になったあたりから、だいぶインドの状況が変わってきました。日本との関係でも同様です。2005年に、中国で日貨排斥運動が起こり、北京の大使館が投石にあったり、上海の日本料理屋が壊されたりしました。それまで中国一辺倒だったのですが、これは中国だけに任せておけないな、というワーニングになったわけですね。そのころから、インドの企業にCEOが直接訪れるようになってきました。
 今、インドブームが起きていて、インドビジネスについてはまさに正念場ではないかと思っています。あとで触れますが、日本勢は韓国企業に置いていかれています。
 言い古されていることではありますが、インドが注目される一番の理由は人口です。21世紀の半ばには、中国を抜いて世界で一番になります。中国はいわゆる一人っ子政策で少子高齢化が急速に進みますが、インドの場合は人口ピラミッドを保っていきます。若年層や労働人口という、消費を進めるであろう層が少なくならずに、世界でも珍しくピラミッド型の人口構造を当面持っていけそうという国ですね。
 現在の日本とインドのビジネスがどうなっているかというと、まだまだです。日本からの輸出額は、対インドは対中国の20分の1。輸入額では30分の1です。直接投資は、一昨年からすればだいぶ増えて対中国に近づいていますが、累計では非常に少ないです。そしてインドの在留邦人数はまだ5,000人くらい。一方中国の在留邦人数は12万人です。さらにショッキングなのは、日本で勉強しているインド人留学生はせいぜい500人くらいしかいません。なんとか増やせないかと思うのですが、やはりインド人からすると、語学の面からも金銭的な面からも、日本で勉強するメリットを見つけられないというのが現状です。これも日本の国際化に対する課題の一つだと思います。
 6~7年前に、フリードマンが『フラット化する世界』という本を出しました。当時はまだグローバル化に対する反応はあまりありませんでしたが、今はだいぶ環境が変わっています。
 そもそも、グローバル化というのは、スペインやオランダ、イギリスが世界を植民地化していくという、国家の単位で起こったわけです。その後、二度の大戦を経て最近までは、多国籍企業がグローバル化の先兵になった。そしてコンピュータやコミュニケーションの発達で、個人が国境を越えていろんなところに行き始める、という世界になってきているんですね。
 『フラット化する世界』の中で書かれている話をご紹介します。アメリカの北東部の地方の男性なのですが、大学を出て何をするかと考えています。彼はこう考えます。ITはやめたほうがいい。インド人ばっかりだ。モノを作るのも大変だ。中国人がいっぱいいる。そうすると、インド人と中国人が入ってこないような、市役所に勤めて雪掻きをするのがいいんじゃないか。たとえばこのような脅威論があったんですね。先進国でやっていることも、結局はインドや中国での価値に収斂してきてしまうということです。
 このときあまり注目されなかったのは、先進国の消費はかなりサチュレートしていて、これからは途上国の消費がすごいということです。先進国全体でせいぜい10億人しかいなけれど、新興国は20億人とか30億人の人口がいて、彼らが消費社会に入ってくるのです。このような視点はこの3年くらいで、日本でも言われるようになっていますね。
 日本がインドで出遅れているのは、たとえば家電にしても、もともとインドには、シンガポールやマレーシアの駐在員が出張で来ている場合が多かったのです。サムスンやLGはインドに根を張り、インド人向けの洗濯機とかインド人の食生活に合う冷蔵庫を作っていたわけですから、これは敵うわけがないという状況でした。自動車はスズキが圧倒的に強いのですが、二番手はタタと現代で、スズキを除いたトヨタ、日産など全部合わせても現代に全然敵わない状況になっています。
 最近、家電では単月で、ソニーやパナソニックが善戦するようになっています。ここにはポジティブなサインがあると思います。インドに来ている若い日本人が、どのインドスターを使うと自分たちのイメージに合うとか、どのクリケット選手がいいとか、そういう話をするようになってきているのです。10年前の世代は、週末にバンコクに息抜きに行くとか、そんな話題でした。今の若い人はガッツがあるという意味で、嬉しいことだと思います。

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