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高業績のプロフェッショナル、エグゼクティブはなぜ“健康”を重視するのか?

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 アスリートに関わらず、優れた小説家、研究者、ビジネスパーソンなどプロフェッショナルやエグゼクティブは“健康”を維持、向上させるために時間とお金の投資を惜しまない。彼らは高業績を出すために自分に合った“健康習慣”、つまり食事、運動、排せつ、休息、睡眠、マインドまでをベストな状態にバランスさせる技を身に付けている。一方健康関連ビジネスを見ると、様々な健康食品、運動器具、最近ではウエアラブルバイタルセンサーなどのICTを活用した健康管理機器まで多くの製品・サービスが出ている。しかしその多くはユーザーにとって効果が発揮できていない。中には企画製造している企業の社員さえ使用しないものも少なくない。その理由は健康関連製品・サービスの手段の目的化と没個性化にある。つまり健康とは、各人が与えられた心身の特性を十分に発揮して人生を価値あるものにするための基盤であり、そのため個々人独自の“戦略”とその“運営”が必要だからだ。健康ツールやサービスを使う側のユーザーも、開発提供する企業や研究者もその点を十分理解しないと、政府、行政などが提唱する健康社会は望めない。

■今や20代から意識しはじめる“健康”

 昨年の大学の授業でのことです。内定が決まっていた4年生の男子学生が授業のプレゼンついでに話してくれたことが大変印象的でした。

「以前私は今よりも10キロも太っていました。隣にいる○○君に誘われてフィットネスで体を鍛えたら、ダイエットができただけでなく、学校も休まず来るようになり、悪かった成績もかなりよくなりました。ウソだと思うでしょう。本当なんです。体だけでないんです。意識も変わるんです。」その男子学生の熱弁に、授業に参加していた多くの学生は、普段の私の講義よりも真剣に集中して聴いていました。

 その場から私が気が付いたこと、それは多くの学生が、すでに20歳代から直観的に「身体の健康と思考力、集中力などの精神、思考は強く結びついていることを理解している」ことです。私たち昭和な世代の20歳代と言えばコンパで夜遅くまで大酒を飲み、昼過ぎまで寝ていて、深夜に小説を読んだり、語り合ったりでした。時代に関わらず20歳代今でも時にはその様なこともある様ですが、時代の価値観は大きく変わってきています。

 

■アスリートばかりでなく優れたアーティスト、研究者、ビジネスパーソンは健康を維持、強化する習慣を持っている

 身体を鍛えるためだけでなく、創造力、思考力、集中力などの意識系、思考系を鍛えるために、身体の健康維持、向上に努力する人が実に多く見られるようになりました。世界的に著名な小説家である村上春樹氏は、毎日ジョギングを欠かさないと言われています。そのことを自らの著書「走ることについて語るときに僕の語ること」(文春文庫)で語っておられます。iPS細胞の研究でノーベル平和賞を受賞された京都大学の山中伸弥教授もマラソンに挑戦し、2月21日(日)に開催された京都マラソン2016でも自己ベストを記録されたようです。また多くの芸能人やアーティストが毎日の食事に注意を払い、また時間を惜しんで身体トレーニングを行っています。過去の健康ブームとは違った、身体、精神・思考活動トータルのパフォーマンスアップを目指した新世代の“健康”がメインになってきていると言えます。

 

■食事、運動だけでなく、排せつ、休息、睡眠、マインドまでを統合的にベストな状態に

 健康意識や行動は、カロリー制限や糖質コントロール、栄養バランスなどの食事、歩行数、起立時間などの運動量、姿勢だけでなく、尿や大便などの排泄、つまり腸の健康状態、睡眠の質、交感神経、副交感神経のバランスやそのためのマインドの状態(マインドフルネス)まで広くかつ統合的なものとして一般にも認識されるようになってきました。

「それなら昔から“心身の健康”などと呼ばれてきたことと同じだ」と言いたくもなりますが、時代の変化でしょうか、ICTの発達もあり、過酷ともいえる業務の多忙化などがすべての仕事で日常になった現代、身体を置き去りにした偏った精神、思考活動が過去よりも多いのだと思います。仕事、生活環境が大きく変化しているなかで、原点にもどって統合的な心身の健康がより一層求められるのだと思います。

 学問の世界でも、栄養学、スポーツ科学、医学、心理学そして脳科学、住環境科学、情報工学、経営学など各学問領域が“人間の統合的健康”をテーマに融合してきています。

 

技術、研究の発展で健康を管理、維持するツール、やサービスが充実してきているが

 より健康が注目される中で、様々な健康食品、運動器具が発売されています。健康食品ではコラーゲン、アスタキサンチン、水素水などとまるで洋服のファッショントレンドの様に新成分ブームが到来しては去っていきます。運動機器も手を変え品を変え新製品がだされ、テレビショッピングやネット通販で販売され、使われずに粗大ゴミとして捨てられていきます。

 最近ではウエアラブルバイタルセンサーなどのICTを活用した健康管理機器、スマートフォンのアプリまで多くの製品・サービスが出ています。あくまでも印象ですが新聞、雑誌、テレビの2割以上の話題は健康に関するものです。土日の新聞にいたっては半分以上が健康に関するものです。健康に関する書籍も多く出され、カロリー制限、糖質制限、一日一食主義などなど、一般人だけでなく医療関係者にすらわからないほど多くの健康に関するツール、情報が溢れています。

 

■健康関連製品・サービスの効果が発揮できていない原因は、手段の目的化と没個性化にある

 前にも述べた通り健康に関するツール、情報が充実してきていますが、日本国内で言えば、人口構成の高齢化もありますが医療費は40兆円にも上り、高齢者でなくても生活習慣病やメンタル面での病気にかかる人口は年々増加しています。大雑把に言えば健康に関するツール、情報は効果が発揮できていないのです。

 その理由は大きく2つあると考えます。

 1つは健康ツールやサービスが、過剰なビジネス競争意識のあまり、それを普及しシェアを高めることが目的となってしまい、手段化してしまっていることにあります。人間の身体、生命は、脳、内臓、神経、血管、筋肉、骨などで構成される神秘的ともいえる複雑な均衡を維持している有機的なものです。1つや2つの方法の健康製品・サービスの導入で全体が改善されることは中々ありません。かえって健康バランスを崩すリスクさえありえます。

 2つ目は健康ツールやサービスの没個性化、一般化です。人は生まれながらの心身の特性や、置かれた生活、仕事環境、さらには地域による社会システム、文化、宗教、価値観などで個々人全く異なります。それを一般化して機械的に一元化した健康ツールの導入や行動変容のプログラムでは、すでに発病して健康を取り戻さなければならない状況でない限り中々受け入れらません。

 健康ツールやサービスの効果を発揮させるためには、個々それぞれの価値観、意識、行動や生活・仕事環境全体を把握した上で、本人も納得するパーソナルなプログラムが必要であると思われます。

 

■人は人生を価値あるものにするために努力する。そしてそのためには健康にも戦略が必要

 人は生命体なので命に限りがあり、寿命がありますが、意識するしないに関わらずだれでもその与えられた範囲で、人生を価値あるものにさせたいと考えています。健康であれば人生の目的を達成することができ、質の高い生き方ができる可能性があります。

 しかし健康状態そのものが目的ではありません。あくまでも価値ある人生を充実させることが目的です。つまり健康とは価値ある人生の土台なのです。その土台をしっかりとしたものにするためには、土台そのものをつくることを目的にするのではなく、その土台にのせる個々人の生きる価値を目的にすると考えるべきです。

 一方、先にも述べた通り人は心身の特性、価値観、置かれた環境とその変化が人それぞれ異なります。そこで生きる価値を全うさせるためには、健康に関する戦略が必要となります。ここで経営用語でもある「戦略」という言葉を使ったのは、個人の健康も企業もそれぞれが異なる固有の強みがあり、また激しい時代の変化にさらされており、決まったレールに乗っていればよい結果がでるというものではないと言うことを言いたいためです。そこには「目指すべき価値、生き延びようとする強い意志と知恵、行動力」などが必要だからです。極端な言い方かもしれませんがどんな高い地位の方でもお金持ちも、健康は誰かが守ってくれることはありません。まさに当事者意識、自分に対するリーダーシップが必要なのです。

 そう考えると冒頭に挙げたプロフェッショナルやエグゼクティブが健康に積極的に投資している理由が分かってくるのではないでしょうか。

 

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