「交換価値ではなく顧客経験価値でのプライシング」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第52回
価格はかつて交換価値を表すものでした。例えば、1個500円であればそれに相当する他の商品を思い浮かべ比較し、その妥当性を判断します。しかしカテゴリーに関わらずビジネスモデル戦略を駆使することでサービス化する商品が多くなるに従って、単純な価格比較を意識した価格戦略では通用しなくなってきています。サービス化は、ハード売りきりのビジネスだけでは見えない顧客のコストやベネフィットを取り込み始めています。
顧客は価格だけでなく自身が負担する商品対価以外のコストも考え購入します。例えば、商品の機能を引きだし活用するために使い方を学ばなければいけないこと、商品の修理、メンテナンスコスト、商品がハードウエアであればその置き場、保管の負担、または廃棄コストなどです。コストと同様に顧客は、商品提供者の提供プロセスにも注目し、それを楽しんだり、利用し価値を感じたりするようになってきています。単に「ワイン」という商品を購入するだけでなく、そのワインの原料となるブドウの産地の情報や、ワインの醸造プロセスなどを知ったり、一部体験したりといったベネフィットにも価値を感じています。
このように、かつての交換価値視点での表示価格は、顧客が負担するコストとベネフィットのすべてを表していません。従って、顧客がいつどのように商品を使用し、どんなコストを負担し、ベネフィットを得ているかを詳しく理解すること、つまり顧客経験価値を加味した価格戦略が必要です。
顧客経験価値重視の価格戦略
近年、顧客経験価値を考慮した価格戦略が普及してきています。サブスクリプションやリカーリングなどです。サブスクリプションとは、ある商品を一定料金で、一定期間サービスを受ける権利です。音楽配信、映画、雑誌、新聞などではサブスクリプションが当たり前になりました。サブスクリプションは商品をその都度購入するのではなく、一定期間使用し続けられます。支払いの手間がかからず、使用の量を気にすることなく使えます。サブスクリプションはおもに以下のようなサービス形態があります。
①定額料金でサービスを限度なく利用できる
一定料金を支払えば、ある範囲のサービスを限度なく利用できる形態。雑誌、映画、音楽などではこの方法をよく採用しています。ヘビーユーザーには大変ありがたいサービスです。しかし利用頻度の少ない顧客には割高かも知れません。解約を忘れてしまうというリスクもあります。
②定額料金で無料サービスがより便利に利用
通常は無料でサービスを受けられるが、定額料金を支払えば、より便利になる形態。YouTubeはYouTube Premiumに入会し、お金を支払えば広告なしでバックグラウンド再生、オフライン再生が利用できます。
③定額料金で一定量のサービスを利用
サービスに加入すると、一定量の商品が定期的に送られてきたり、一定量のサービスを受けられたりする形態。1ヶ月1万円支払うと選別されたワイン7本が毎月送られてくるといったものや、年会費3万円支払えば、好きなコンサートの座席が10回予約できるなどです。
「リカーリング」とは一定期間内に利用したサービス料金だけ支払う形態です。シェアオフィスの会議室の利用料金などはリカーリングの形態をとることが多いと思います。
このような顧客経験価値を前提にした価格戦略は、買い取り型の価格戦略に比べ競合と比較が難しく、同じカテゴリーの比較よりも自分のライフスタイルからみて価値があるかどうかで判断する比重が高いと言えます。もちろん携帯端末の通信料や映画、音楽などのサブスクリプションは、比較するものが類似してきていますので、価格競争になりがちですが、ECサイトでの購入ポイントなどとタイアップさせ差別化し、単純比較を避けようと努力しています。つまり顧客経験価値を重視する商品開発において価格戦略を考える場合、「交換価値」よりも、商品の使用前、使用中、使用後の各段階の「経験価値」を重視しなければならないのです。