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高利益を達成するための生産財マーケティングとは(3)

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 4月1日はエイプリルフールなので、何か面白い記事を書けという声が社内からあり、身近な話題を一つ。先週、WEBで雑誌記事を読んでいると「思春期の『父の下着と別洗い』が起きない家族の秘訣」(日経DUAL 2014年12月18日)という記事に出くわしました。

 私の娘もいつの間にか大きくなり、9才。だんだん自分の意見を言うようになりました。そろそろ思春期という時期がくるのも覚悟しないといけないと思っていたこともあり、以前なら軽く流す類いの記事でしたが、いざ「別洗い」となったときの父親の心理的ダメージは結構なものとよく聞いていたので、妙に気になり読み込んでしまいました。

 記事のポイントとしては「話を聞いてくれる父がいる家庭は『思春期の娘の下着・別洗い問題』が起きにくい」とのこと。女子中高生のアンケートも載っていて、父親が娘とのコミュニケーションをとる際、娘の「話を全く聞かない」場合は38%の割合で「別洗い」となり、「話をじっくり聞く」場合は9%の割合まで「別洗い」は下がるとのことです。この場合のコミュニケーションで大切なのは、子供は“今日、身の回りで起きた出来事”について親にとにかく聞いてほしいということ。何か特別な話というのではなく、日常の何でもない話を親はいつでも聞いてくれる。それが『親は自分のことをいつでも受け入れ、理解してくれる存在なのだ』という安心感につながる。逆にやってはいけないのが、「宿題を早くしなさい!」「遊んだら、片づけなさい!!!」と「しなさい」ばかりを言い続けること。子供の話を聞く前から一方的な質問や指示ばかりすると、子供が口を挟む隙を見つけられずに、「お母さんとお父さんは、全然話を聞いてくれない…」と、その後心を開かなくなってしまうのだそうです。

 個人的に非常に参考になった記事でしたが、ふと考えると、この話は親と子の関係だけでなく、会社の上司と部下の関係にも当てはまりそうです。部下との日常レベルのざっくばらんとしたコミュニケーションのベースもないまま、一方的に質問や指示ばかりしていないでしょうか。入社したばかりの頃は右も左を分からず、指示に従うしかなかった部下も、だんだん成長するものです。知識・スキルを身につけ、自身で考えることができるようになったときに、成長した部下から「別洗いでお願いします」といわれないように気をつけなければなりません。

 仕事と家、オンとオフは別々という意見もありますが、けっこう共通している部分もあります。両方ともうまくいっていないなと思ったら、一度、自身のコミュニケーションのあり方を改めて反省してみる必要がありそうです。

 

 さて少し導入が長くなりました。連載している「高利益を達成するための生産財マーケティングとは」の続きを進めたいと思います。前回のコラム(2015年1月19日)では、高利益を上げるために生産財メーカーがおさえるべきマーケティングの7つのポイントのうち『3.マスカスタム製品の市場ポジション』について考えました(図1)。

 

3.マスカスタム製品の市場ポジション(図1)

 

 今回のコラムでは、『4.「束にした顧客群」毎のマスカスタム製品のコンセプト企画』について考えていきます。

 これは特定の顧客向けにカスタム製品を作るのではなく、複数の顧客ヒアリングから得たニーズを集約・整理し、「顧客にとって重要」で且つ「多くの顧客にとって共通」の事業課題・ニーズにフォーカスして製品コンセプト企画を行うということです。顧客の事業にインパクトを与える高利益率の製品を出来るだけ多くの顧客に売って高利益を狙っていくと言い換えてもいいでしょう。

 製品コンセプト企画の前に、出来るだけ多くの製品アイデア発想を行います。その際に製品アイデア発想でSWOT分析を使うことがよくありますが、実際にはあまりお勧めしません。多くの新製品・新事業開発のコンサルティングを行ってきた弊社の経験からいうと、SWOT分析のフレームワークは事業環境を俯瞰的にみて事業戦略の発想するのには良いですが、顧客ニーズにフォーカスした製品企画という意識がどうしても薄くなってしまいがちです。SWOTの中の項目の競合他社分析やマクロ環境分析からの製品アイデア発想ももちろん重要なのですが、利益率の高い製品をつくるには、なんといっても顧客の事業課題・ニーズに細やかにフォーカスした発想をまず行うことがポイントなります。

 有望な製品アイデアを発想できましたら、そのコンセプト化を行います。製品コンセプトは、ターゲット顧客概要、現状の業務状況・事業課題、顧客のニーズ、コンセプト・他製品との違い、製品の基本的機能・付加的機能、価格、顧客ベネフィット、コア技術といった項目について検討します。製品コンセプトは、後半の開発プロセスにおいて、各部署の「都合」「力学」などによって開発内容がブレないように使う基本方針となります。利用シーンの図、製品イメージの図などビジュアルを入れると、関係メンバーで共通イメージを形成しやすくなります。

 製品コンセプト企画において、どの機能を入れどの機能を入れないかは、「機能に対するニーズの強さ」と「機能の実現性」の2つの視点から優先度をつけて行っていきます。ニーズの強さは大きく「必須」「必要」「潜在的」「不必要」の4段階で評価します。

 「必須」はターゲット顧客の大半(80%以上など)が必要としている重要機能です。全ての顧客向けに入れるようにする共通機能となります。「必要」はターゲット顧客の一部(30~80%など)が必要としている機能です。「潜在的」は顧客から具体的な声として要望は出ていないですが、将来的に顧客が喜ぶ可能性がある機能です。「必要機能」と「潜在機能」は、顧客ごとに入れたり入れなかったりするカスタマイズ機能になります。「不必要」は、どの顧客も必要性をほとんど感じておらず、将来的にも必要とされる可能性が低い機能です。

 一方「実現性」の視点では、「開発における難易度・開発工数・開発コスト」視点から優先度をつけます。このようにして製品に盛り込む可能性のある「機能群」をポジショニングしていきます。(図2)

 

図2、製品機能の優先度づけマップ(図2)

 

 どの機能まで実際に製品開発に盛り込むのかは、製品検討の与件によって決定されてきます。例えば、売上を3年後にあげないといけない場合、3年以上開発がかかるような、難易度が高くニーズも強くない機能は、企画に組み込むことはできない。その他、開発予算、開発要員、知財などにおける与件もあります。

 製品コンセプト企画ではさらにいくつか工夫のポイントがあります。1つ目は、類似の事業課題をもつ顧客を短期間のうちに効率的に獲得し、顧客を大きな「束」にする工夫です。例えば、製品単価であれば、装置売りでなく使った分だけ払う、リース形式にするなど、時間をかけて費用を回収する方法では、中長期的には顧客の払う費用は初期段階の一括払いよりも大きくなります。また、初期コストが小さくなれば、資金調達が難しくためらっていた顧客も購入しやすくなり、顧客数が増えます。

 2つ目は、製品コンセプトをシナリオとして考えておく工夫です。製品企画でありがちなケースとして、上市する最初の製品ばかりにフォーカスしまうケースがあげられます。最初の製品にフォーカスしすぎると、いろんな機能を盛り込みがちになり、当然のことながらコストもあがり、価格も高くなります。また1つ目を投入すれば、当然競合他社はマネをしてキャッチアップしてきて、価格競争の状態になりがちです。その際に、競合他社をふるい落とすために、上市する前から2つ目の製品、3つ目の製品も企画・開発しておくのです。それにより競合が入ってきても、すぐさま2つ目の製品を投入(二の矢)、さらに追いついてきても3つ目の製品を投入(三の矢)し、差をつけ、競合の戦意を喪失させることを狙います。このやり方には更に2つのメリットがあります。一つ目は、連続させて製品を投入することで、その製品カテゴリーにおける先行メーカーとしてのトップブランドも築くことができるということです。2つ目は、3つの製品の投入を時間軸で考えておくことで、1つ目の製品にすべての機能を無理に全て盛り込んでしまおうとせず(それをやるとコスト高となってしまう)に、2つ目の製品で入れる、3つ目の製品で入れるといった、バランスのとれた思考ができるる点です。その際、1の矢、2の矢、3の矢の製品間でもできるだけ機能は共通化しつつ、市場や顧客の変化に合わせて必要機能、潜在機能の削除・追加を柔軟に行っていくことが理想です。

 3つ目は、競合他社への差別化検討のための、競合他社のベンチマーキングです。先に述べましたが、競合他社ベンチマーキングは顧客ニーズからの製品コンセプト企画の後に行ったほうがよいです。競合分析を先に行うと競合の製品コンセプトの内容に思考が引きずられ、競合と似たような製品を発想しがちになるからです。競合他社ベンチマーキングは、バランスト・スコアカードの4つの視点から行うとよいでしょう。

 製品スペックの比較だけでなく、業務プロセスの視点や学習と成長の視点で、営業・マーケティング力、開発・生産力、人材などの組織力まで分析していくことが望ましいです。その際のポイントは、例えば次のようになります。

・競合の製品の機能をみて、顧客企業の重要な事業課題をどのくらい上手く解決しているかを洞察します。優れた機能があるということは、それを実現できる人材がいるのではないか、そこに経営資源を集中しているのではないかと考えるのです。

・製品の価格をみて、価格設定の上手さをチェックします。顧客の重要な事業課題の解決への貢献が大きいと分かっていれば、自信をもって高い値段を設定しているはずです。

・製品のコストダウンの工夫をどのように行っているのかをみて、開発力や生産技術力も推察できます。競合の製品をみて、もし簡単にできるコストダウン要素に気がついていない場合は、開発力や生産技術力はさほど大したことがないのではないかと考えられます。

・競合のWEBや製品カタログが、顧客のよくある事業課題をイメージ図でわかりやすく表現していれば、顧客についての情報収集・分析を行う能力が高いと洞察します。

・販売店の数や営業担当の数が多ければ、当然のことながら販売力が大きくなります。WEBやカタログで引き合いが発生した場合、すぐに対応し、受注まで引っ張っていく力があることになります。デモ機を用意し、顧客から声がかかればすぐに駆けつける体制ができていれば、顧客への価値伝達力が高いことが洞察できます。優れた製品だけでなく、製品の価値をいかに上手く伝えるかの大切さが分かっていることになります。

 4つ目は、ビジネスモデルやエコシステム視点からの製品コンセプトの工夫です。マクロ環境や業界構造分析までいれたSWOT分析と、ビジネスモデルやエコシステムといった視点の発想を行い、戦略レベルから製品コンセプトをさらに見直します。現実的な手順としては良いでしょう。

 さらに5つ目として、製品コンセプトのブラッシュアップのための異業種ベンチマーキングも行うとよいでしょう。それによって競合他社が思いつかないような、圧倒的に差をつけるための切り口を発想することができます。

 

 ぜひこのようなポイントを踏まえて、多くの顧客にとって重要な機能を中心とした訴求力のある製品を企画し、高利益を狙っていただきたいと思います。

 次回コラムでは、「5.製品コンセプトを軸にしたブレない製品開発」について考えます。

 

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