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「スモールスタート重視の商品開発計画」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第57回

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

大きなスケールの商品開発は企業を疲弊させる

自動車業界は今、5年に1度のフルモデルチェンジの商品開発サイクルを見直しているようです。なぜなら大きなスケールでの商品開発は、多くの投資を必要とする割には売上が上がらなくなっているからです。顧客もまた、せっかく新車を買って1、2年でフルモデルチェンジされると損した気になり、それがちょっとしたストレスとなります。そのため買い換えをやめて、いま乗っているクルマを継続して使う顧客が多いのです。

またクルマはスマートフォンやそのアプリなどと比較して、短サイクルでのバージョンアップがなく、古いスタイルのままで使用し続けなければなりません。その結果クルマは、世の中から遅れている感じをもちながら利用しているのだと思います。バージョンアップが可能なカーナビのマップなども、バージョンアップは有料であることが多く、そのコスト負担感から、バージョンアップもしない人が多いと思います。バージョンアップが無料のGoogleマップで十分と考える人が多いと思います。

実際は簡単なことではありませんが、クルマの商品も、固定と変動の機能を分け、変動の機能を常にバージョンアップするようにし、常時顧客に新しく快適な顧客経験価値を提供し続けることが必要なのだと思います。そのためにはクルマおよびクルマの会社と顧客が常にオンラインでのコミュニケーションを通じた新たなニーズの吸収と、それを受けた短サイクルでの提供機能のバージョンアップが必要なのだと思います。

顧客経験価値重視の商品では一気にドカンと開発しない

顧客経験価値重視の商品開発は、明確な世界観と顧客経験価値ビジョンを持ち、最小限の商品とビジネスモデルを開発し、オンラインで顧客とコミューケーションしながら学習を重ね、漸進的に商品をバージョンアップさせていきます。数年に一度、大がかりな商品開発プロジェクトを組織化し、市場調査を行い、たくさんの新機能を取り込んだ商品を開発するといったことは行いませんし、またその必要がありません。スモールスタートで始め、顧客経験価値を、顧客と一緒に創り上げていきます。そのために顧客と世界観を共有し、顧客と友人のようなパートナーシップを構築しコミュニケーションを活発化させます。

ビジネスのスモールスタートは、顧客と世界観を深く共有し、質の高いパートナーシップを構築することを可能とします。それによって商品に関するマネジメントの範囲を限定し、柔軟でスピーディーに対応することができ、組織の学習が進みます。

このようなことから規模が小さくても顧客経験価値に関する情報が絶えずオンラインで入手できるビジネスモデルを構築することは大変重要となります。オフラインの情報収集は、時間とコストがかかり、データ化するためには入力の手間がかかりますし、どのようなタイミングの情報なのかがわかりにくくなり顧客経験価値の実態がつかみにくく、また顧客へのレスポンスも遅れます。

パートナーの進化を柔軟に取り入れることも重要

アライアンス関係にあるパートナーの進化を柔軟に取り入れていくこともまた大変重要なことです。最小限の基本的なビジネスモデルを構築しオンラインで顧客からのフィードバックを受け、その情報をパートナー企業に提供して、彼らが新たな商品、サービスを開発してくれれば、顧客経験価値は少ない負担で進化させることができます。顧客の経験価値情報を囲い込むのではなく、アライアンス関係を結んだ上で、効果的なタイミングでパートナーに提供することで互いに大きな負担なく、顧客経験価値を向上させ、競合のエコシステムやビジネスモデルに対して優位性を持てるのです。

顧客経験価値重視の商品開発計画

このようなことからわかる通り、顧客経験価値重視の商品開発計画とは、自社内だけで閉じた詳細な開発計画ではなく、大きなビジョンや大まかなロードマップを描き、それらを実現する技術を社内外から獲得し、常に試行していく活動が主になります。つまり顧客経験価値重視の商品開発計画では以下のようなことを検討します。

  • 3年から5年の達成したい顧客経験価値ビジョンとロードマップ
  • プラットフォームやビジネスモデル開発のロードマップ
  • 社内外からの技術・スキルの獲得や開発のロードマップ
  • 商品企画開発のロードマップ
  • すでにリリースされている商品を通じたPoCの実施計画
  • 上記を実現させるためのヒト、モノ、カネなどの必要リソース

開発された機能などがリリースされ、すぐに収益として獲得され(売上計画)、効率よくそれが次の投資(投資計画)に回るような、小さな進化→新たな顧客経験価値→一顧客からの収入増加、または新規顧客の獲得→収益獲得→次の投資というサイクルを短期間でまわしていくイメージを計画で表現するのが理想です。

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