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「顧客経験価値を重視するとPlace(小売・流通)はコミュニティになる」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第54回

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

「経験すること自体」がかつての販売の場に取って代わってきている

顧客経験価値が重視される中で、マーケティング4PのPlace(販売、流通チャネル)の考え方も大きく変わっていきます。プロモーションが大規模なマス広告をうつのではなく、SNSでの顧客の口コミ、「いいね」などの評判や顧客同志の共感などによって広がっていくのと同様に、購入する「場」も変わっていきます。店舗などのリアルな「場」よりも、自分の関心のあるコミュニティに近いオンラインで購入する機会が急速に増加してきています。購入する対象も、モノからサブスクリプションやリカーリングなどのサービスの購入に変化してきていることから、購入する接点自体が単に展示しているものを見たり触ったりするだけでなく、使ってみる、使い始め「経験すること自体」がかつての販売の場に取って代わってきています。つまり提供者側と顧客が直接つながり、直接販売する形態が多くなっているのです。

トヨタ自動車がトップダウンで始めた自動車のサブスクリプションサービスのKINTO(キント)は、初期費用も車検、保険費用もなしで、月々のサービス料だけでトヨタ車の経験をスタートさせることができるという機会をつくり、長い期間の顧客との関係の構築を試みています。KINTOはスマートフォンでも申し込みができます。よく考えてみるとクルマを持っていない新規ユーザーが駅から数キロもある国道沿いのメーカー系列のディーラーに行くことはほとんどありません。KINTOのようなネットでの接点とそこから生まれる経験の機会が今後の実質の販売チャネルになります。

経験の場としてのリアル店舗のポジションの変化

一方、リアル店舗も販売の場として店舗数を多く出すのではなく、質の高い経験の場、ネットでの口コミを誘発する場に変わってきています。顧客と店員が自由に友人のようにコミュニケーションする場としてのアップルストア、米国テスラのクルマを置かない店舗などがその良い例です。ビックカメラやヨドバシカメラなどの量販店であっても、店舗販売からネット販売に軸足を移し、店頭で見て、使ってみて、その場でネット注文し、早ければ当日、翌日には自宅に届くように販売の方法を変化させてきています。ドローンなどは店内にお気に入りの商品を試してみるコーナも設置して、その場でエキサイティングな経験ができるようになっています。

オウンドメディアや自社雑誌の発行による世界観の共有とそのコンテンツとしての商品

また米国で始まったD2C(Direct to Consumer)と呼ばれる、「ブランド力を持つ製造小売り×テック企業(ネットを活用)」という新業態のスタートアップも飛躍的に成長しており注目されていますが、そのD2Cでは顧客に自社の世界観を伝えることに注力しており、オウンドメディアとして自社WEBサイトやクオリティの高い雑誌など、顧客経験価値を共有することを重視しています。販売の場や形態も、その独自のコミュニケーションの中の一部として位置づけられています。モノをつくって、どこかに置いてもらって買ってもらうために、単純にその場を増やすのではなく、モノをモノとしてではなく、顧客経験価値のためのコンテンツのひとつとして位置づけ、顧客経験価値や顧客との対話の中に、無理なく、自然と入れこむ方法をとっています。

流通小売りのポジションの変化

このような方向性から読めるのは、従来のように、メーカーがリアルの小売りに対して商品を売り渡し、顧客との接点のデータは小売りが支配し、その支配力を梃子にメーカーに有利な交渉をするのは難しくなります。顧客経験価値を追求し、実現する企業は、顧客と世界観にもとづく経験という長い時間軸でシームレスにつながっていきますので、従来の小売りが持っていた販売時点だけの薄い顧客接点は実質無力化される可能性があります。流通小売りもまた現在の顧客接点を基盤に独自の顧客経験価値を提供しなければ生き残れなくなってきています。

提供する顧客経験と経験データの取得、クイックなフィードバックが大事

Place、販売チャネルという概念はだんだんなくなり、まずは顧客経験価値が最重要で、それを実現させるためのコンテンツとしての商品があり、実現手段としてのビジネスモデルがあるという理解が大事です。商品を企画して、大量に売るために低価格化や無理なプロモーションを行うのはだんだん通用しなくなっていき、世界観を共有し、顧客経験を顧客と創り出すための「コミュニティ」が隠れた販売の場となると思います。

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