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正しい働き方改革をしていますか?

ニューチャーネットワークス シニアコンサルタント
張 凌雲

 1月25日に公開したコラム、vol.100「あなたの会社には仕事の生産性を上げるスキルパッケージがありますか?」では、仕事の生産性を上げるためには組織・個人がスキルパッケージを身につける必要性があることをお伝えしました。当該コラムから約2ヶ月経ちましたが、その間に残業時間の上限規制、プレミアムフライデーの実施や、流通・外食業界の労働力不足による営業時間短縮等、職場の環境改善や働き方の意識改革への取り組みが一層の経営課題となっています。
 各社は業務時間を少なくするため、残業時間の届け出制、夜8時以降のPCの強制シャットダウン、朝方勤務へのシフト等の施策導入を試みていますが、現場では業務に支障をきたしています。業務量を減らさないまま残業時間をのみを引き下げても自宅でのサービス残業が増えることや、一つの仕事にかけられる時間が減るためにいずれ製品・サービスの品質や商品企画力の低下等、企業の競争力を削ぎかねないという懸念が生じています。限られた時間内で従来と同様、もしくはそれ以上の成果を出すためには、仕事のムダを無くしスピードを上げなくてはなりません。
 今回のコラムでは、お客様と生産性向上に取り組んできた中で実際に直面した問題と、それに対して効果的であった取り組みを紹介致します。

 

■生産性向上が進まない現場の実態

 生産性向上のために制度や規程の変更、また業務のIT化等を行っていても、労働時間が一向に減らない組織は沢山あります。そのような組織では、仕事に対する考え方や取り組み方を変えておらず、仕事のルールも徹底されていません。以下に、その代表例を挙げていきます。

①    仕事を捨てられない
 仕事が減らない大きな要因として、「以前から行っているから」と何となく仕事を行っていることが挙げられます。担当者が仕事の目的や意義を考えずに、前任者からの引き継ぎ仕事を行っているためです。第三者から見ると止められるような仕事内容であっても、担当者はその仕事を止めることによるミスの発生や品質低下等のリスクばかりを懸念してしまいます。上司から業務量を減らすために「ムダな仕事はするな」と言われていても、止めることによるリスクを恐れてなかなか踏み切れない場合が多くあります。

②    残業を組み込んだ仕事の段取りが常態化している
 残業時間が一向に減らない人の特徴として、残業時間を組み込んで仕事に取り組んでいることがあります。そのような人は、8時間でできる仕事も残業含めた12時間の枠で段取りを行っています。そのため、自ずとムダな作業や余裕時間が増えてしまいます。

③    特定の人に作業が集中している
 「課長が捕まらないために内容を確認してもらえず、先に進めない」、「○○さんに仕事を頼んだが忙しすぎて対応してくれない」等、特定の人に作業が集中している組織は、そこがボトルネックになって組織全体の生産性が落ちてしまいます。忙しすぎる上司は、部下への指示が直前、または曖昧になってしまいがちです。この場合、仕事を振られた人は緊急対応で残業が増え、また仕事内容を理解するのに時間を要してしまいます。

④    作業スキルが不足している
 仕事のスピードが上がらない原因の一つが、資料作成に時間がかかることです。PCのキー入力のショートカットやオフィスアプリケーション機能に関する知識の有無によって、作業効率に大きな個人差が生じています。資料の企画構想に時間がかかることはありますが、データ入力や分析、図表作成といったPCを使った「作成作業」の遅さが、仕事の時間を増しています。

⑤    資料や情報を探すのに時間がかかる
 資料を作成する際に、求めている情報がなかなか見つからないことがあります。過去の資料がどこに保存されているか分かない、見つかったとしてもバージョンがいくつもありどれが最新だかわからないといったことも頻繁にあります。紙の書類は管理ルールが決まっているのに、デジタルデータの保管に関してはきちんとしたルールが設けられておらず、保管方法やファイル名のつけ方が人によって異なっている場合があります。

こういった理由から、資料作成時間のかなりの割合を探しものに取られる、もしくは資料が見つからなかったために再度同じような情報収集や分析を行い、作業が重複するという非効率さ生じてきます。

 

■業務量を減らすための取り組み

 上記のような実態に対し、どのように対処すればよいでしょうか。弊社がお客様の業務改善を支援させていただいてきた中で、効果が得られた方法を例として以下に述べていきたいと思います。

①    業務の見える化をもう一歩進める
 業務の見える化や棚卸を目的として、多くの企業が業務一覧等を作成しています。しかし、業務内容と担当者の一覧を記しただけでは、各業務の負荷の大きさや必要とされるスキルレベルまでは見える化されません。業務のスキルレベルと担当者の能力のミスマッチが大きいと、仕事の停滞や担当者に過度のストレスを与えることになります。
 各業務で求められるスキルレベルを見える化することで、身につけるべき能力が明確になり、個人の成長目標の設定や、組織の生産性を高める人材の配置に活かすことができます。

②    仕事の時間軸を見直す
 例えば資料を作る際に、「~の資料を作るのには何時間かかる」と積み上げで考えていては、作成時間がどんどん膨れ上がってしまいます。特に企画業務等は「完成」の水準が人によって異なるため、その傾向が顕著に現れます。ゴールが見えづらい“完成”に照準を合わせずに、「1時間で~の資料を作る」と限られた時間内に最大限のパフォーマンスで仕事に取り組むべきです。最短の時間で仕事を行う前提でスケジュールを組むことでムダな仕事が削ぎ落とされ、本当にやるべき仕事のみが残ります。

③    権限移譲をする
 仕事が停滞する理由に、上司の確認、許可を取らないと進められないということがあります。お客様の業務改善支援をしているときに「仕事の生産性を上げるために何が必要ですか?」と聞くと、「権限移譲してもらえれば上司から返事待ち時間が減って仕事が捗る」という意見がしばしば得られます。権限移譲が進まない原因として、上司が部下のアウトプットに対して信頼して任せられない、内容が自分の考えと違うため納得しないということがあります。この原因の根本には、上司と部下のコミュニケーション不足があります。ある会社では、忙しくてなかなか捕まえられなかった課長が毎日30分以上、部下から自由に相談を受けるための時間を設け、仕事のすり合わせや決裁事項の確認に充てたところ、仕事の滞留を削減することができました。
 また部下も、上司による確認作業を慣例的に必須だと思い込んでしまっていることも多くあります。本来は確認作業が必要ないもの対し、これまで行ってきたからと上司と自分の仕事を無駄に増やしている状態です。上司と部下で定期的に業務の見直しを行う必要があります。

④    PCスキルを高める
 製造現場で生産性を高めるため熟練者から作業を学ぶのと同様に、PCを使った資料作成も作業が早い人から学ぶことが効果的です。オフィスアプリケーションに関するマニュアルやノウハウ本もありますが、その内容は必ずしも自分の仕事に活用できるものとは限りません。資料作成が速い人が、普段作成している資料をもとにテクニックを伝える社内講習会を開く等、実践的なPCスキルを学ぶ場の提供が有効です。
 私自身、先日会社の同僚にパワーポイントの機能を教えてもらい、作業が格段に速くなったことがあります。GEや資生堂のようにITスキルに精通した若手社員が、ベテラン社員に知識やテクニックを伝えるリバースメンター制度を導入している企業も出てきています。ソフトウェアが進化するのと同様に、個々人のPCスキルも常にアップデートすることで、日々の作業効率が向上します。

⑤    資料や情報の整理整頓を行う
 デジタルデータの保管ルールの徹底が進まない組織は、過去の資料まで含めて保管ルールを適用しようとしています。過去のデータまで対象にすると、担当者の頭には膨大な作業が浮かんでしまい、整理整頓がなかなか進みません。まずは現在作成している資料とこれから作成する資料について、ファイルの保管場所、ファイル名のつけ方の徹底から始めることが現実的です。

 

■生産性向上は思いやりを持つことから始める

 働き方改革の第一歩は、お互いの仕事に対する考え方ややり方を確認することから始めることです。組織メンバーの仕事のやり方を知ることで、効率的な仕事の仕方、もしくは非効率・非生産的な仕事が明らかになります。
 今回取り上げた事例は、「生産性を上げるために何がボトルネックになっているのか」と、上司・部下含め組織メンバーで話し合って明らかになったことです。仕事の生産性を上げるためには、自分自身の生産性向上だけでなく、仕事を受け取る・受け渡す相手の生産性も向上させなければ、自分の仕事の手待ちや手戻りが発生することになります。
 自分本位で仕事を組み立てるのではなく、相手のために打合せの時間を割く、仕事を効率化させるアドバイスをする等、相手を思いやりお互いが働きやすい環境を作ることが重要です。

 

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