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あなたの会社には仕事の生産性を上げるスキルパッケージがありますか?

ニューチャーネットワークス
代表取締役 高橋 透 / チーフコンサルタント 張 凌雲

 現在安倍内閣は「最大のチャレンジは“働き方改革”である」として、長時間労働の是正に取り組んでいますが、最近のニュースでも明らかなように、依然としてこの問題が解消しない企業が多く存在しています。
 新興国との価格競争、デジタル化、ネット化などの現在の環境下において、業績を維持するために私たちの仕事の量とスピードは減少することはありません。そのような環境の中で「仕事の生産性を上げる手段を持っていますか?」と言う問いに明確な答えを返すことのできる企業は何社あるでしょうか。業績目標は従来通り、もしくはさらに高く設定される一方で、「労働時間は削減せよ」とトップダウンで指示している会社が多いように思われます。
 弊社では、生産性を改善するスキルパッケージの導入が急務と考えています。スキルパッケージとは、全社員が入社1年目、遅くとも3年目以内に身につけるべき基礎的な改善手法や会議の進め方、仕事の仕方の方法論です。一見当たり前と思われる基礎スキルですが、きちんと会社共通の基盤として共有され、それを元に個別の仕事が進められなければなりません。弊社では、このスキルパッケージが共有されていないことによる生産性の改善余地は少なくとも10%以上存在すると予測しています。

■GEのワークアウト、トヨタの改善、日産のV-UPに対する考え方

 米国GEのワークアウト、トヨタの改善、日産のV-UPなど、高業績企業は社員全員を巻き込んだスキルセットを持ち、その普及、実践に関しては経営トップ、管理職が率先してリードしています。なぜなら生産性の問題は会社の業績はもとより、社員のワークライフバランス、競争優位性など、経営の根幹に関わることだからです。生産性に関し経営者にこの認識がなければなりません。高度な経営戦略とその実行施策は、このスキルパッケージで鍛え抜かれた組織基盤の上に存在しうるのです。
 またこのような企業の社員一個人を見ても、スキルパッケージが私生活の中でも生かされている様に思えます。たとえば安全意識やその活動は、普段の個人の自動車の運転やネット社会での情報管理などでも生かされますし、5S活動は自宅の整理整頓、子供の躾や教育などにも生かされます。また何か悩みがあっても周りの人にオープンに相談すると言った意識や行動なども、会社という場で育成されたコミュニケーション力に依ることが多いと思います。
 このように優れた業績の会社では、スキルパッケージを会社の戦略とその実行のための重要な手段として、さらには社員個人が良い生活と自己の成長を促進する個人財産として認識しています。

■スキルパッケージには ①マインドセット ②基礎スキル ③実践メソッドの3つの階層がある

 スキルパーケージというと一足飛びに業務改善、コスト改善などに取り組みがちですが、それではうまくいきません。なぜなら、意識や気持ちの面がしっかりとセットされていなかったり、ベースとなるロジカルシンキングや業務プロセスなどの基礎スキルなければ、業務改善やコスト改善などの実践メソッドに取り組むことができないからです。
 特に優秀なスタッフの方は気をつけなければなりません。マインドセットや基礎スキルは皆が当然知っているものと考えがちだからです。実際は違います。個人個人をしっかりと教育しなければ、前には進めません。そこをぐっと我慢して教育訓練することが大事です。特にICTが普及した現代ではICT依存が高まり、人のマインド、スキルを軽視しがちです。しかしいくら自動化されAIの導入が進んだとしても、人のマインド、スキルの重要さは全く変わりません。全ては「人が起点になっている」ためです。

①    マインドセットとは何か

 マインドセットとは日々の会社の仕事に対する意識の習慣です。「問題は常にポジティブに考えるべき」「仕事は常に改善していけるものだ」「常に競争を意識して行こう」「自分の意見を率直に述べることは大事なことだ」「何事もまず目的、ゴール・目標を持とう」「困難こそチャレンジの機会」といったようなことです。皆さんご存じのように実はこの意識の習慣をつくることが大変難しいのです。
 マインドセットの教育方法は大きく2つあります。一つは集合研修形式です。新入社員研修、階層別研修、管理職研修、ビジネスリーダー研修、専門知識スキル研修など、各集合研修の際に、プログラムの中にしっかりと落とし込み、教育することです。
 多くの会社で実践し効果があるのは、会社で伝承すべき先輩達の努力の歴史をエピソード形式でストーリー立てて伝えることです。米国3Mではポストイットを発明したアートフライの失敗や、偶然から大ヒット商品を生み出したエピソードを様々な場面で話しています。パナソニックでは創業者松下幸之助さんの創業時のエピソードを、ことあるごとに伝承しています。また、経営理念を展開した行動指針、マインドセットとして研修の機会に再認識するためにワークショップなどを行っている企業あります。高い精神性の重視とその歴史的継承という点で、大変効果的と考えられます。
 2つめはOJT、つまり仕事の中に落とし込むことです。経営トップや管理職の方針、目標管理、業績評価、プロジェクトの企画、実行フォロー、そして業務改善などのスキルセット実践メソッド自体に組み込むことなどです。この中でも特に一般社員が日常触れる機会の多い業務改善活動などのスキルセットに組み込むことが効果的と考えられます。
 大事なのは「なんとなく意識する」ことではなく、「明確な行動」として実践に取り組むことです。例えば、会議を始める前と終わりに重要なマインドセットを読み上げ確認する、各メソッドの中に組み込んで実際に体験させ、そのメリットを学習させることなどです。そして先輩、上司が仕事の結果に関わらず、マインドセット面をしっかりと見届け、よい場合には「君はしっかり考えて取り組んでいるね。ありがとう」と、しっかりと褒めることが大事です。「意識→行動→褒められる」を習慣にするのです。

②    基礎スキルとは何か

 基礎スキルとは、職場で多様な人々と効率的に仕事をするための組織共通の思考や行動スキルです。そのスキルは、「思考」「コミュニケーション」「実行」の3つに分けられます。
 「思考スキル」は、問題解決のプロセスを前に進めるために必要となる、本質的問題を発見し、問題解決策を立案できるスキルです。ロジックツリー、フィッシュボーン、KJ法、システムシンキングや業務上の課題を見つける業務プロセスマップなどがあります。

 

思考スキル

 

業務プロセスマップ

 

 「コミュニケーションスキル」は、自分も含めたチームの力を最大限に引き出すためのスキルで、自己の意見を簡潔に伝えるためのプレゼンテーション力、ミーティングやディスカッションの議論を活発化させるファシリテーション力などです。
 「実行スキル」は、ゴールまでのシナリオを描き、確実に目標達成するためのスキルです。組織を引っ張るためのリーダーシップ、またはリーダーを補佐するフォロワーシップや、実行管理のスケジュールマネジメントやKPIマネジメントがあります。
 基礎スキルを会社に定着させるには、個人と組織での取り組みがあります。個人では、研修での考え方の理解とケーススタディによるトレーニングで身に着けます。組織では3つの取り組みがあります。1つは、トップダウンで使うべきスキルを示し、問題解決の共通言語化を図ることです。使うべきスキルが明確になっていれば、なにか問題があっても「まずフィッシュボーンで原因(要因)分析を行おう」など、問題発生から問題点の発見、解決策検討のサイクルを早くします。
 2つめはツール化することです。共通のスキルを身に着けても、会議で特定の人のみで意見やアウトプットを出したのでは意味がありません。スキルセットでも述べたように、メンバー全員が意見し、納得できるアウトプットを出せる環境を作る必要があります。そのためには、付箋を使ってメンバー全員が同時に考え、模造紙やホワイトボードに貼って共有化するなど、ツールを使ってスキルを使う型を作ります。

 

コミュニケーションスキルを上げるツール

 

 3つめはフィードバックすることです。これは特にコミュニケーションスキルを上げるために必要です。プレゼンやファシリテーションを行った人に対して、評価視点を決めて参加者がフィードバックしてあげることです。あらかじめフィードバックシートを用意しておき、ミーティングが終わった時点ですぐに行います。フィードバックは、素早くやらないと意味が薄れてしまいます。後日フィードバックされても、本人は「あ、あの時のことね」とあまり問題を意識しなくなります。

 

ファシリテーターフィードシート

 

 生産性改善で必要とされる基礎スキルは、現場のオペレーションの問題を把握し、それを解決するために必要なものになります。具体的には、以下が挙げられます。

  • 業務上の問題点を特定する「業務プロセスマップ」
  • 問題の原因を分析し、解決策を導く「ロジックツリー」、「フィッシュボーン」、「システムシンキング」など (1つ、もしくは2つの手法を使う)
  • 課題を優先順位付けする「ペイオフマトリクス」
  • 会議を効率的に進める「ファシリテーション」、「プレゼンテーション」
  • 改善成果の進捗を管理する「KPIマネジメント」

 基礎スキルは、組織のどのような取り組みテーマでも必要とされるものにするべきです。普遍的なスキルを身に着けることで、自社にとどまらず、他企業と仕事をする時でも使え、他社と協業する時でもスキルを発揮し、自社の人材価値を高めることになります。

③    実践メソッドとは何か

 実践メソッドは、業務やプロジェクトの目的を達成するための取り組み方になります。対象となるテーマの規模・範囲、達成目標のレベルや期間に応じて決定します。実践メソッドとしては、TQC、ブレークスループロジェクト(90日間目標達成)、ワークアウト、シックスシグマなどがあります。実践メソッドは、マインドセットと基礎スキルがメンバーに落とし込まれた状態で取り組まなければなりません。気持ちが入っておらず、スキルも備わっていない状態では目標達成に時間がかかる、期待した成果が出ないという結果を招きかねません。また、いずれの実践メソッドを用いたとしても、以下が守られていなければプロジェクトの継続性が保たれず、いつの間に消滅してしまう可能性があります。

  • 達成目標をブレークダウンしたプロセス目標を設定する
  • 実行の主体者を明確にする
  • 目標に対する進捗を短いスパンで定期的に確認する
  • 終了期限を明確にする
  • 成果が出ない取り組みはひきずらず、早い段階で見切りをつける
  • 成果が出た取り組みは、トップ、上司が褒める、評価する(やる気にはずみをつける)

 実践メソッドを組織に定着させるには、それを経験することが重要となります。そのためには、まず、実践メソッドに精通したリーダーを育て上げることです。そのリーダーがプロジェクトのリーダー、または伝道者(インストラクター)として、メンバーにメソッドを教え込ませ、次のリーダーとなる人材を育てあげていくように、人材育成をプログラムとして組み込み、取り組んでいきます。

■スキルパッケージにより、問題意識を行動・成果に結びつける

 組織の生産性を向上させるには、社員一人一人に日々の仕事を常に良くするという意識が求められます。しかし、生産性向上に対する意識を強く持っていても、改善方法や実行手段がわからなければ、なかなか行動に移せないものです。問題を顕在化させ、実際に行動を起こし、成果まで達成できるためのスキルパッケージを持つことが、その手助けになります。
 仕事の生産性を上げるスキルパッケージの一つ一つは、必ずしも先進的なものである必要はありません。一般的な考え方・手法で取り組む方が受け入れられやすく、効果的です。組織のメンバー全員が同じ心がけ、考え方と一定のスキル・知識を持ち、それを軸として、円滑なコミュニケーションを図りながら生産性向上に取り組むことです。

 

 

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