自分オリジナルのビジョンを持つ
どんな厳しい環境にあっても自分らしく生き生きと仕事や生活ができ、充実した成果を出したい。しかし今日の様な変化が厳しく、あっという間に自分が取り残されそうな時代では果たしてそれができるかどうか不安。これは若い人に関わらず、40代、50代のミドル、シニアにも言えることです。私は、ぼんやりでもいいから自分内面から出てくる夢を持つことを薦めています。それは一人で時間を忘れ、ニヤニヤしながら空想するような夢です。その夢が毎日の仕事、生活を意味あるものにしてくれます。
毎年大学で春学期にコンセプト企画を授業で教えています。毎回、授業のメモとそこからの気付きや学びに関する簡単なレポートを書いて提出してもらっています。それに毎回短いコメントと評価を書いてフィードバックしていますが、いろんなものに追われている私にとっては、100人ちょっとの学生のレポートを毎週見るのは結構しんどい仕事です。確かにしんどい仕事なのですが、結構な発見や学びも多くあります。それは、学生の迷いとか悩みとか、やる気とか、だるさといった正直な感情、思いに触れられ、そこから私自身学が得られるからです。
そういった中で3週間前に「本授業での目標は何か」を問うてみました。1回目は90%の学生が「学生企画とやってみたい」「将来広告みたいなことをやってみたい」「発想を広げたい」といったきわめて漠然としたものを書いてきました。この授業は7月半ばに終わります。14回の授業で実施することはシラバスに書いてあります。ほとんどの学生はそういったものを全く気にもせずに漠然と目標らしきものを書いてきました。私はそれを一旦肯定して、その上で修正するように言いました。
なぜ一旦肯定したのか?具体的な目標になっていなくても漠然としたしかし「率直な思い」を持つことが意外に大事だからです。就職でも、学業でも、環境によって良くも悪くも左右されがちな中で、あまりにもクリアな目標を持ち固定的に考えるとチャンスも逃してしまいます。他人に押し付けられた目標でなく、少し位のほほんとした内容でも自分のやってみたいことを書いてみる。その中に何かしら自分らしさが見えていれば、そこから自分が将来没頭できるものが見つかるきっかけができるかもしれません。そういったふっと浮かんでくる「思い」を考える時間こそが学生時代の特権だからです。
学生たちには、漠然とした思い、目標を肯定したあと、その思いを少しでもリアルにしてみるための気合をいれた短期の目標、つまりこの授業の終わりの7月半ばをゴールにした具体的な達成目標を書いてみるように言いました。
目標を書くのは難しいものです。3回の授業に続き、4回目の授業でもう一度目標を書いてもらいました。しかしまだ80%以上の学生があいまいな目標のままです。レポートを読むと「将来何をやるべきかが解らなく悩んでいる」といった人が多く見られました。そこで授業で「何をしている時が没頭できる?」「時間を忘れて取り組めるものは何?」と問いました。「ダンス、音楽、ゲーム、おしゃべり、勉強何でもいい。だけど誰かが喜んでくれるものをしたいね」「悩んだときは夢を『仮置き』してみよう。変わってもいいんです」とも言いました。大事なことは少し力を抜いて、自分の内面からやってみたいことのイメージをつくりあげることが大事です。
そこで連休明けの今日、5回の授業でもう合計3度目になりますが改めて目標を書いてもらいました。その際記入欄を2つに分けました。①将来のビジョン(夢、少しばんやりしていてもいい)と②本授業で達成したい“具体的”な目標です。今そのアウトプットを見ていますが50%の学生が将来ビジョンと授業の目標がそれなりに書けていますが、50%はまだ駄目です。
私はビジョンと目標の問いを、これからも授業の1回おきに書いてもらおうと考えています。いろんなことを学び、ビジョンが明確になったり、変わったりする人も多いはずです。目標も授業の後半、終わる頃になって変わる人もいると思います。極端な話それでもよいと思います。大事なのは自分の好きなことをビジョンに掲げ、短期の目標として設定することを通じて自分の夢を追いかける自分なりの思考のリズムとテンポを身に付けることです。
さて我々社会人のことを振り返ってみるとどうでしょう。小さな会社やベンチャー、またはフリーランスであれば会社のビジョンと個人のビジョンの方向が同じで、個人的にも充実した具体的な目標を持てているかもしれません。しかし伝統的で大きな会社だと正直そうも言えないことも多いのではないでしょうか。自分では全く腑に落ちない戦略ビジョンや目標が上から示され、同時に業績連動型の目標がセットされ、有無を言わさずその必達が要求されていることの方が多いと思います。今の日本の大企業では好きな通りにはさせてくれません。思う通りに行かないことばかりだと思います。それが現実だと思います。
しかしそれでもやはりしぶとく自分なりのビジョンや目標を持ちたいものです。なぜなら夢や目標を持つことで、仕事に意味を感じ、無限大のパワーが出せるからです。仕事をしても疲れないどころかやればやるほどもっとやりたくなる循環を回すことができるからです。
状況によっては、その個人が持つビジョンや目標が会社のそれと違っていてもいいと思います。まず自分のやりたいこと、やるべきことを持つことが大事だと思います。意外にも仕事の中でいくつか自分のビジョンや目標と関連したものが出てくるかもしれませんし、発想の仕方によってはそれに近いものもあるかもしれません。また粘り強く我慢し、情報発信していると配置換え、転勤でチャンスが巡ってくるかもしれません。転職や独立のチャンスだってあるかもしれません。
学生のケースは社会人の方に比べ未熟なケースかもしれませんが、意外に我々は個人的で本音ベースのビジョンや目標を描けていないことが多いのではないでしょうか。たとえビジョンや目標がはっきりと明確でなくても、ぼんやりでもいいから自分オリジナルのものであるべきです。
かつて20年以上前は、個人的なビジョンや目標は持っていなくても、平均的な達成感を味わうことができました。しかし今の時代は、経済、社会が低成長な上、環境変化も激しく、個を軸にした自分オリジナルなビジョンや目標を持って、仕事に意味や達成感を感じる環境を自ら意識してつくりあげていないと、周りに振り回され、あっという間にやらされ感が募り、大きな疲労感に包まれてしまいます。下手をすると精神的に病んでしまうことさえあります。
すこしぼんやりしていて、ぬるくてもいいので、内側からふつふつと湧く自分オリジナルの思い、ビジョンを持っていたいものです。そういった思いやビジョンは、自分の生活、仕事など人生の多くを意味あるものにしてくれると思います。ぜひそんな時間をとってみて下さい。