事業バリューアップ ~収益改善は、売上・コスト・利益の見方・考え方を変えることから始める~
「売上は増加しているのに利益が思うように上がらない」、「売上の減少以上に、利益が減少している」という企業は、売上・コスト・利益の捉え方を誤っている可能性があります。収益性の高い企業が利益は求めるものとして捉えているのに対して、収益性が低い企業では利益を結果として捉えがちです。
収益改善の取り組みにはさまざまな手法がありますが、収益改善企画を始める前に、まずは数字の見方、考え方を変えることが重要です。
■売上・コスト・利益の3つの捉え方
まず、売上・コスト・利益の間には、以下のような関係が成り立っています。
① コスト + 利益 = 売上
② 売上 - コスト = 利益
③ 売上 - 利益 = コスト
コンサルティングや研修の場で「上記3つのうちで、最もしっくりくるものはどれですか?」と質問をすると、業種業態によって異なるものの、①または②の式を選択する人が多いです。いずれも計算式としては間違いではありません。しかし収益改善のためには、③の見方・考え方を持っていなければなりません。
①コスト+利益=売上
コストに利益を上乗せして売上を決める、コストベースの積上げ方式の考え方です。この考え方が浸透している組織では、以下のような状態になっている可能性があります。
- コストに対する感度が悪くなりやすい。特に事業特性上、品質・安全が重要視される場合は、過剰なコストアップ要求を受け入れてしまい、コスト高の収益構造になりやすい。
- 市場、顧客の要求価格と乖離した価格設定になりやすい。競争環境に置かれた場合には、市場シェア低下による売上、利益減少に陥る可能性が高くなる。
- コストダウン活動を行っていても、他業界のコストダウンと比較すると、まだまだコストダウンの余地がある場合が多い。
自社の事業、製品・サービスが独占的市場にある場合は、この考え方でも問題ありません。しかし、市場自由化や競合製品・サービスの出現は、将来的に起こり得ます。このような企業は、競争市場となっても、参入企業との競争に勝ち、利益が出せる収益構造への備えに早期に取り組む必要があります。
②売上-コスト=利益
利益は売上とコストを差し引いた残りであるとする考え方です。この考え方の問題点は、利益を企業活動の「結果」として捉えてしまうため、まず売上目標やコストダウン目標を達成することが重視されることです。組織的に利益目標達成に対する意識が弱くなり、目標達成に対する責任も曖昧になる傾向があります。
このような考え方が浸透している組織では、「顧客の値下げ要求が強く、結果として目標利益に達しなかった」という声をよく耳にします。製造業であれば、値引きをしてでも受注を獲得することは、工場の稼働率やシェア維持のために時として必要です。このような場合、「販売価格を下げるなら、コストダウンも同時に考えなければならない」という点を徹底しなければなりません。しかし実際は、赤字にならない限り価格を下げてでも受注することが最優先されるものの、価格下落分のコストダウンを実施できずに、収益性が悪化する企業が多く存在します。
その他、以下のように売上やコストダウン目標の達成を個別最適で取り組んでしまい、収益改善が進まない場合があります。
- 受注拡大、販売価格下落防止のために、当初予算よりも多くの販促費をかけてしまう。
- 売上規模が小さい顧客にも、大口の顧客と同様の営業工数を多くかけてしまう。
- 売上確保のために、特注品対応、短納期品を受注し、製造コストが増大してしまう。
- 自部門にとっては最適なコストダウンを行ったが、前後工程で手待ち時間が発生し、全体の作業時間は増加した。
- 工場の生産性は向上したが、その工場で作れる製品の受注拡大、開発が行われず、稼働率は向上していない。
③売上-利益=コスト
提供する製品・サービスに対して、どれぐらい利益を取りたいか(取る必要があるか)を決め、許容できるコストを決めるという利益ベースの考え方です。
②の利益が企業活動の「結果」として捉えられるのに対して、③では、利益を「目標」と捉えます。コストに関しても、②では売上を上げるために「使いたいコスト」と捉えられます。一方、③では売上、利益を上げるために「使えるコスト」として、コストを予算化して管理します。
③では、売上が下がれば、目標利益を下げない限り、使えるコストも低くなります。儲けが出ない顧客には、当然コストをかけることができません。収益改善は利益確保が第一です。価格競争が激しい市場で価格を維持できないのであれば、低コストの製品開発、低コストで製品供給できるビジネスモデルへの見直しを行わなければなりません。「売上-利益=コスト」という考え方は、収益性を向上・改善するためのイノベーションや抜本的な改革を必然的に要求します。
「売上-利益=コスト」の見方、考え方を持つことによって、これまで聖域として踏み込めなかった、以下のような取り組みに着手することが迫られます。
- 手間がかかるが取引量の少ない顧客に対する取引方法の見直し
- 自社が機能補完している販売チャネルの見直し、選別
- 利益率の低い製品に対する販促費用の見直し
- 自社物流の廃止、他社との共同配送
- 生産拠点の見直し、外注委託の活用
■数字の見方、考え方を変えることでイノベーションが生まれる
「売上-利益=コスト」の考え方からイノベーションを起こした企業の例では、ユニクロがあります。ユニクロは、低価格、高機能製品を大量販売し、業界ダントツの売上高と利益率を実現するために、低コストでの大量生産・販売ビジネスモデルを構築しました。それが、徹底した低コストでの材料調達、安価な労働力を確保できる拠点での製造と、大量に製品を売るための店舗を用意するSPA(製造小売り)のビジネスモデルです。
また古い例ですが、大量生産によって市場・利益創出を実現した自動車のフォードも同様だと考えられます。当時、フォードは500ドルの車を生産すれば何百万台も売れると考えました。そこで、500ドルの車を売っても利益が出るコスト構造にするため、大量生産の組み立てラインというイノベーションを生み出しました。
大幅な収益改善を実現するためには、既存の枠組みにとらわれないイノベーションが必要となります。「コスト+利益=売上」、「売上-コスト=売上」の両式の概念では、現状のコスト構造ありきで考えたコストダウン計画が検討されます。一方「売上-利益=コスト」では、売上、利益を確保するために最適なコスト構造、企業が保有すべき経営資源は何かを考えさせられることになります。
既存事業の収益性が一向に改善しない企業は、現有の経営資源、ビジネスモデルを基にして、どうやって利益を確保するか考える傾向があります。抜本的な収益改善を図るには、使えるコストを明確にし、限られたコストの中で何を活用し、何を無くし・止めるかを常に考えなくてはなりません。利益を求めることを直視することで、長きに亘って利益が得られるのです。