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社内イノベータ発掘と高利益マネジメントサイクルの構築①

ニューチャーネットワークス 取締役 シニアコンサルタント
福島 彰一郎

 生産財メーカー向けにビジネスセミナーを弊社では月1回程度開催しているが、主催するセミナー会社とどのようなテーマ・キーワードに、技術者や管理職の関心がありそうかをよく意見交換をする。昨年は多くの製造業で足下の利益が出ていたこともあり、どの製造業も中長期のロードマップについての関心が高かった傾向がある。

しかし、年を開けて2月上旬からは、リーマンショック以来といわれる10日で1ドルあたり10円も円高になるという変化が突然起きた。日銀の黒田総裁の想定している黒田ラインの1ドル115円も軽く突破してしまい、1ドル110円台までいってしまったのである。その結果、輸出系を中心に多くの製造業で株価は低迷、景気も急にリスクオフモードになってきている。そのような変化の背景には、中国経済の低迷、原油安、資源依存の新興国の低迷があり、そして最後の砦といわれる米国市場もさすがに一人では牽引しきれないだろうといわれている。

2月27日に閉幕した(G20)財務相・中央銀行総裁会議で「すべての政策を総合的に用いる」との共同声明があったものの具体性はなく、その後の金融市場の反応をみていても、リスクオフモードはしばらく続きそうな気配である。さらに米大統領選挙のトランプ氏の躍進はますます経済の不確実性を高めてしまっている。申年は「騒ぐ年」という相場における格言があるらしいが、ここまでマクロ経済の環境が激しいと事業の戦略をつくる意味がどこまであるのかと顧客企業にコンサルティングや研修をしながらついつい考えてしまう。

そして企業もリスクオフモードになり、今年はどうサバイバルするかというテーマへ製造業の関心が強まりそうである。そこでは縮小する市場において、確実に受注し、市場シェア・売上げ・利益を出していくかが重点課題となる。営業力強化、業界再編にともなうM&A、無駄を省き筋肉質になるためのオペレーションの効率化&組織変革などやらなければならない。

いつも顧客に会うたびに言っており、以前のコラムでも書いているが、事業環境は厳しくなろうともそれはライバル企業も同じ状況。ならばそれはそれで、独自の視点を持っていろんな角度から環境変化をポジティブにとらえて事業機会を見いだしていくしかない。厳しい環境から新しいビジネスが生まれることもよくあることである。景気よし、不景気さらによしである。ライバル企業の力が弱れば市場シェア拡大のチャンス、また景気のよい時には組織内で合意を得にくかったドラスチックな変革をして筋肉質になるチャンスでもある。経済は循環するもの、次の景気回復局面を睨んで、経済が底の時に仕込みをしていく。事業をリードする者は、活用した経営資源から利益を生み出す責任があり、「投資家」にならなければならない。使われる立場のサラリーマンは「損益計算書的な思考」軸でよいが、投資家の「貸借対照表的な思考」軸へのギアチェンジが求められる。小職も昨年のリスクオン向けの思考モードを切り替えて製造業の顧客がなんとかサバイバルできるよう、顧客と一緒に悩み・考え、支援させていただきたいと思う。

 

■  高利益製品を連続的に創出するためのマネジメントサイクル

さて前回まで1年ほどに渡り、「高利益のための生産財マーケティング」というテーマでコラムを執筆してきた。コラムの後半では「高利益製品を連続的に創出するためのマネジメントサイクル」(図1)を紹介したが、ここに数ヶ月ほどは、10社ほどの国内・生産財メーカーの企業内研修やコンサルティングプロジェクトの中で、このサイクルを示し、自社で現状どの程度このサイクルができているかをヒアリングしてきた。

 

高利益のマネジメントサイクル図1

 

少し長くなるが声の内容としては次のようになる。まず圧倒的に多かった声は、サイクルのうち『ステップ1.「ニーズ集約」と「重要な共通ニーズの抽出」』が自社は全く出来ていないというものであった。下記は『ステップ1.』についての主な声である。

・多くの技術者が入社以来、顧客に会うのはクレーム対応のみで、顧客と対話し、ニーズを見いだすことの重要性を理解していない。
・技術者は目の前の開発やクレーム対応などで時間がなく、次の新製品開発のための顧客ヒアリングなどやる時間がない。
・顧客ヒアリングするためには、遠方の顧客まで行く必要もでてくるが、経費節減のため交通費・宿泊費が出にくい。複数人で行ければよりよい議論できる場合でも、誰か一人で行けとなる。
・技術者から顧客にアプローチしようとすると、営業としては顧客にいい加減な話をされても困ると考え、協力的でない。きちんと資料や試作を用意しないと連れていけないと営業に言われてしまう。
・ニーズ把握も含めて市場調査の基本的なやり方が分かっていない技術者が意外に多い。
・ニーズを整理するための共通フォーマットなどなく、集約する機能・担当がない。
・営業のもってくるニーズ情報は価格や数量、購入時期などが多く、製品の企画・開発に役に立たないことが多い。
・営業のレポートもみても、鮮度が低い、活字のみでは顧客のニュアンスがわからない。
・営業も時間がタイト。顧客が大組織なら複数の担当者に対応することになり、さらに自社側も複数のメンバーを巻き込む必要がある。顧客側と自社側との間のコーディネートで工数を相当とられて、次の新製品のためのヒアリングなどしている暇がない。
・営業が新製品開発を自分のミッションと認識していないし、目標管理にもそのような評価視点はない。
・技術者は開発・生産についての評価、営業は営業活動についての評価に閉ざされてしまっている。価値あるニーズ情報をもってきても目標管理で評価されないので必要性は理解していてもついつい後回しとなり結局やらない。

 さらに『ステップ2.』から『ステップ4.』では次のような声があった。

・時間がないなどの理由で妥協した製品企画の元、開発を見切り発車してしまっていることが割とある。製品開発したものの、結局、売上げは今一つで努力した意味がなかった。
・顧客の要望を取り入れすぎて、結局高くなってしまっている。
・製品間でモジュール化および共通化を行っていきたいが、各メンバーとも目の前の開発で忙しく、共通化の取り組みまで時間がとれない。その結果、特注品ばかりとなり儲かっていない。
・スピーディに試作をつくり顧客と対話しフィードバックも得たいが、試作のための予算がつきにくい。予算を取るにしても社内説明向け資料作りや稟議が多すぎる。それだけで時間を食ってしまう。
・開発について社内連携ができていない。自社は大きい組織なので同じテーマをいろんな部門やグループ会社でやっているようだが、互いに何をどのようにやっているのか不明。見える化しようとすると当然、コーポレートからは重複を無くすことが求められ、下手をすると自分の部署の予算がなくなってしまい、仕事がなくなるリスクがある。よって各組織とも、良くないことと思いながらも、互いに見える化しようとしない為、全体として無駄が続く。
・設計が終わったら次の仕事に移ってしまい、製品を納入した後の顧客の反応を聞くことがない。作りっぱなしの状態である。
・海外展開している企業となると、海外拠点によって技術の得手不得手がある。たとえばEUの拠点はA技術が強く、米国の拠点はB技術がといった場合である。EUの顧客のニーズを満たすためにA技術が必要な場合、米国拠点が支援すれば良いがその連携を評価する仕組みがない。よってエリアを越えた連携がなく、グローバル企業としての拠点間のシナジー効果がない。
・海外現地法人の営業の意識レベルが低い。「売れるものをもってきて」という営業管理職がいる。売りやすい既存製品ばかり売り、新製品開発のために顧客ニーズをヒアリングしようとすることをしない。その一方で本国の技術者が海外顧客に会いに行こうとすると「勝手なことをするな」という。人事制度も売上のみ評価しているので仕方がない。
・海外展開しても、海外営業と国内の各事業部の営業がばらばらで一本化されていない。そして同じ客にアプローチして、客に迷惑をかけてしまっている。ヒアリングどころか信用を失ってしまっている。

 このような声が聞かれたのであった。皆様の会社はいかがだろうか。結構耳の痛い話ではないだろうか。図1.マネジメントサイクルはすべてのステップがびしっと動いて、連携してこその高利益を生み出す「エンジン」である。では現実問題、サイクルのまだ出来上がっていない生産財メーカーはどのようにサイクルを構築していったらよいのだろうか。

 

■  高利益製品を連続的に創出するためのマネジメントサイクル構築のステップ

これから数回のコラムにわたり、このマネジメントサイクル構築の具体的なステップについて考えてみたい。大きくステップは図2の通りである。

 

高利益のマネジメントサイクル図2

「ステップ1.社内イノベータ人材の発掘」

新しい取り組みのとき組織づくりからスタートしても実際になかなかうまくいかないという話はよく聞くことである。事業成果に向かって取り組んで行く中で、仕組みがだんだん出来ていき、そして仕組みができあがった頃には、事業環境が変わり、仕組みの形骸化が始まるのが実際ではないだろうか。その始めの事業成果に向かって動くプロジェクトがまず大切な取り組みであり、そのプロジェクトをリードするには少々「尖った人」が必要である。それは単なる技術開発者ではなく、技術を理解しながらも組織のしがらみを乗り込えて、事業成果を出せるイノベータ人材である。そのような人材の存在は少なく、そのような人材の要件を明確にした上で発掘方法の工夫が必要である。

 「ステップ2.経営トップのコミットメント、プロジェクトの支援体制づくり」

社内イノベータ一がどんなに優秀な人材でも、社内の経営資源を使える権限が十分にあるわけではない。経営トップの支援体制が必要である。

 「ステップ3.ブレークスループロジェクトの実施と早い段階での成功事例づくり・仕組みづくり」

組織に大きな変革を促すには、コンセプトだけではだめで、誰もが納得できる、あるいはせざるを得ない事業成果が必要である。そのよう象徴的な事業成果を早い段階でつくる。そのプロセスをベースに仕組みを構築していく。

 「ステップ4.実績ある社内イノベータによる潜在的な社内イノベータの育成、コミュニティづくり」

社内イノベータが沢山いるほど組織の競争力はあがるはずである。社内イノベータを組織として戦略的に育成するための体制の確立も必要である。

 

次回コラムでは、まず「1.社内イノベータ人材の発掘」について考えてみたい。

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