年の瀬にあらためて感じる3つのこと
早いもので2015年もあと数日となりました。
弊社は技術とグローバル化に強い経営・事業コンサルティング会社を目指してきておりますが、おかげ様で創業20周年目になります。2015年は、ウェアラブルバイタルサインセンサーに関する新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)様の委託事業の実証実験など、IoT(Internet of Things)に関する複数のプロジェクトに関わることが出来ました。経済産業省様、NEDO様はじめ多くの企業の方々、大学で研究をされておられる先生方、医療機関の方々など、分野を超えた多くの皆様のご支援のおかげと心から感謝しております。来年2016年も日本の素晴らしい技術、製品・サービスを世界に広めていく仕事に集中していきたい所存でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
さて年末に当たり、今年一年私自身が肌で実感した戦略に関する視点をいくつかお伝えしたいと思います。皆様の来年以降の経営・事業戦略のご参考になれば幸いです。
①自社の製品・サービスを離れて未来の社会の視点で発想を広げる工夫をすること
大雑把に言えば20年以上前多くの産業では、技術が新しい製品・サービスをつくり、市場を創り出してくれました。しかし社会や市場が成熟した現在では、社会や市場の変化とその将来像がサービスそして製品、それを実現する新たな技術を要求します。発想の起点を技術や製品・サービスからではなく、市場や社会からに変えなければなりません。しかし多くの企業や研究機関ではそれが十分できていません。
そういった現象を表すこととして「技術、製品、事業のロードマップが描けない」と言う話をお聞きします。技術、製品、事業のロードマップは、その前提となる市場ロードマップが描けていなければ作成できません。市場ロードマップは市場でどのようなイノベーションが起こりうるかを予想したものですが、市場を取り巻く社会の動向がベースになります。従って自社の技術や製品・サービス、事業のロードマップを作成するにはまず、市場や社会のロードマップを描く必要があります。
しかしながら実際の業務の現場では、自社の製品・サービスを離れて市場全体、さらには社会全体がどうなるかを考える機会はほとんどありません。また社内のメンバーだけで考えたとしても、発想が似通ってしまっていて中々アイデアが広がりません。
市場や社会的な視点で発想するには、発想するメンバー構成がミニ社会の様なメンバーで構成されていなければなりません。そこで私がお勧めするのは、立場や業種を超えた人が集まってディスカッションする場を持つことです。例えば、ヘルスケア関連の製品・サービスであれば、医師、看護師、薬剤師などの医療関係の方々、行政の関係者、企業の人事労務部門の方、食品、スポーツはじめヘルスケア関連産業の方々などです。ベテラン管理職だけではダメです。若い人、シニアの方々も必要です。しかも日本国内だけでなく海外の関係者もその場に参加するとさらに良いと思います。
そういった方々が本当に集まるのか?と言う疑問が湧きますが、そこでポイントになるのは社会的視点での魅力的な問題提起力だと思います。魅力的な問題提起をして「このことをディスカッションする人、この指とまれ」と広く発信することが必要となります。そこには何か面白そう、参加してみたいと感じさせるメッセージ性が大事です。例えば「認知症の方々の気持ちから学習し、互いに楽しくやっていける街づくり」と言った逆転の発想が必要です。
魅力的な問題提起を繰り返しながら多種多様な方々と対話を続けていく中で、自社の技術、製品・サービスの強みが自然と見えてきて、イノベーションの兆しやタネが見えてきます。そういった地道な努力の積み重ねがあって初めて、社会や市場の将来イメージが見えてきます。社内だけのメンバーで何回かディスカッションしただけで市場や社会の将来イメージが見えるはずはありません。発想力が乏しいのではなく、インプット情報や発想する場そのものが乏しいのです。ポイントは「未来の社会に向けた魅力ある問題提起」です。決して「答えそのもの」ではありません。社会に問う力だと思います。
②偶然を取り込む力を身に着けること
「たまたま出会えた」「ご縁は不思議なもの」「予期しなかった受注で何とかつないだ」一見不安定な感じがする話ですが、私の周りのハイパフォーマンスな方々は、その「偶然」が続いている人が多いと思います。単に「運がいい」では片付けられない何かがあります。
問題は「偶然」と考える私たちの思考にあるように思えます。「偶然」の反対は「必然」ですが、「必然」と考えているのは自分自身です。「偶然」とは自分の思考を前提にした認識です。では自分の思考が正しいのでしょうか?この変化が激しい世の中で、多くのことで過去の自分の思考が正しいとは言えません。とすると偶然起こったこと自体が社会や市場の変化を反映しているのであって、じつは「偶然」ではなくそれこそ「必然」なのだと思います。
「まじめで正直、言われたことをキチンとこなす。」管理が徹底した社風でありながら「売上業績が長期低迷している」「利益率が低い」と言った企業よくあります。共通するのは、本社の計画重視で、偶然を受け付けず、自社の発想、思考を市場や顧客にプッシュするタイプの企業です。しかしそういった組織は大きく成長する可能性を秘めています。ポイントは少し管理を緩めてあげ、周りの変化を感じるセンスをアップさせる環境をつくってあげることです。市場や社会の変化を自発的に取り入れるようになります。つまり、思い切って少し自由な時間を与えることです。もともと頑張り屋で優秀なだけにうまく回り始め出すとびっくりするぐらい成長するはずです。その際いくつかのコツが必要です。主には以下のようなものです。
- 大まかなビジョンを持つ。しかしそれは「本音でやりたいこと」であること
- 寝ても覚めてもそのビジョンを達成したいと思うこと
- 頭で考えているだけでなく、とにかく行動すること、小さな達成感を味わうこと
- 常にポジティブでいること。毎朝「今日も面白いことがあるはず」と思うこと
- 視覚、味覚、嗅覚など5感をフレッシュにしておくこと
- 時には予定外のことをやってみること
- 良い意味で受け身になってその場を楽しむこと
などです。
つまり、人の持つ自発性や柔軟性をうまく引き出し、状況に応じた問題や課題解決のアイデアが出しやすい環境をつくることです。その環境とは必ずしも自由で気ままな環境だけとは言えません。短期間で高い目標を達成しなければいけない、言わば危機的状況もよい偶然を引き寄せる環境です。
③直観的に解りやすいことを重視すること
過去と比べても私たちの周りの技術は驚くような早いスピードで進化しています。技術が進化すればするほど、製品やサービスの機能は多くなり、その構造は複雑になります。しかしその製品サービスのユーザーである人間は技術の進化のスピードほどには進化していません。技術が進化し高度化、複雑化しても、製品やサービスは人間にとって解りやすいものでなければ使われません。
そこで製品・サービスはじめ多くの物事において重視されるのは「直観的に解りやすいこと」です。技術そして製品・サービスを利用するのはあくまでも人間であることを忘れてはならないのです。最近「デザインシンキング」「デザインマネジメント」「ソーシャルデザイン」などと言ったように「デザイン」と言う言葉が使われるようになってきました。その理由は前に挙げた通り、「複雑で高度な機能を人が直観的に解るように表すことの重要さ」を強調しているためです。デザインを語るには必ずしもインダストリアルデザインやグラフィックデザインなどを専門的に学んでいる必要はありません。「シンプルで簡単に解る」もっとわかりやすく言えば「いいな」「楽しいな」「明るいな」「面白そうだな」と感じるようにすることです。そのためには自分自身がそういった感覚を持っていなければなりません。
複雑で高度なものを理解する知力は昔も今も変わらずに重要なことです。しかしそれを直観的なレベルまで変換し表現できないと、周りは理解してくれません。これからはエンジニアでありデザイナーであること、サイエンティストでありアーティストであることが求められる時代です。それを一人で行うのは難しいので、やはりチームで取り組むことが求められ、ここでも専門、価値観が異なる人や組織でのコラボレーション力が必要となります。
コラボレーションのためには「いいな」「楽しいな」「明るいな」「面白そうだな」を共通言語にし、自分自身が楽しめばと思います。そうすれば子供からシニアまで理解できるものができるはずです。
ここ数年「生きるのが難しい時代になった」と言われることが多くなっていますが、考えようによっては、自分固有の強みを使って楽しく、柔軟に、ある種ゲーム感覚でサバイブする時代なのだと思います。本コラムが何かの参考になれば幸いです。
皆様によって来年もより良い年になるようにお祈りいたします。