新製品・新事業はトップダウン型で行わないと失敗する
2008年9月のリーマンショック後の世界景気の落ち込みや、2011年3月の東日本大震災など、思い起してみればここ数年、日本企業は多くの困難を乗り越えてきました。現在は消費税率アップ前の受注ピークも何とかこなし、新年度が開け、一息ついている企業が多いように思えます。新聞では2013年度の利益が過去最高益と告げる記事も多く見られます。
しかし現実を見ると、日本の屋台骨産業であるエレクトロニクスは依然として危機的状況のところが多く、その日本経済全体への影響も少なくありません。また中国では金融不動産バブル崩壊の足音が聞こえてきているように感じます。その他にも中国と周辺国の領海をめぐる衝突、ロシアのクリミア半島支配問題など、世界経済が一変する要因はいくらでもあります。
そのような中で、危機意識と成長意欲の高い企業は、今こそ事業構造を変革する絶好の時と捉え、新事業開発を進めています。ビジネスの肝は“先取り”であり、“スピード”です。そのようなアクションは素晴らしいと思います。
しかし、そこで問題があります。多くの会社が新製品・新事業開発のプロジェクトをミドルまたはボトムアップで行っていることです。ボトムアップがいけないのではありません。ボトムアップにあまりにも依存し過ぎなのです。
新ドメイン・新ポートフォリオをつくり出す新事業開発は、強力な経営トップ主導で行わなければ、ほぼすべての産業で、失敗する確率が極めて高いと言えます。なぜなら、近年の新製品・新事業開発に求められる戦略要件が20年前とは全く異なるからです。
何が20年前と違うのか。1つは事業規模の大型化です。1製品だけを市場に出しても勝てません。一定規模の領域で、しっかりした品揃えで、連続して製品を出さなければ、競合に簡単に駆逐されます。2つ目は、差別化の要因が、製品や技術だけでなく、エコシステムやビジネスモデルといった社外の企業、組織との関係性も含めた“構造”にあることです。3つ目は、時間の問題です。今の時代では、「少しずつ市場参入する」はあり得ません。やるなら一気呵成に参入し、短時間で確固たる市場地位を築かなければなりません。
このような新事業開発の戦略要件を満たすには、経営トップがすでにかなり明確な仮説を持っていること、そしてそれを実行して成長するための投資リスクを取る覚悟があること、そして成長しなければ生き延びられないという危機感を強く持っていることです。
しかしながら近年の多くの会社の経営トップは、リストラ型、調整型、部門代表型で内部昇格した方が多く、新規事業開発の修羅場を乗り越え実際にそれを成功させた方は極めて少ないのが現状です。中には役員全員が新事業開発の経験のない企業もあります。そのような企業では、新事業に対するトップの反応は2つに分かれます。1つは、ボトムアップに対する安易な賛成型です。安易に賛成するだけあって、大きな投資はありません。「経費の範囲でやってくれればよい・・・」となりがちです。もう1つは、規模、利益率など現業と同じような条件で新事業を審査し、断固拒否するタイプです。新事業を短期間で現業と同レベルの業績にもっていくのは現実的ではありません。
ではトップダウンで新規事業を進めている会社の経営トップはどのような資質を持っているのでしょうか。まず考えられるのはトップ自らが事業機会を求めて活発に動いていること、そのためのグローバルなネットワークを持っていること、投資判断などの抜群のビジネスセンスをもっていることなどです。そのすべての前提は、成長への強烈な意欲です。どのような状況にあろうが、会社を成長させ続けるという強い意識です。その意志と覚悟が、投資意思決定の原動力となり、事業開発のスピードとなります。
一方、そのような強烈なトップの下ではボトムアップ力が低下するという心配もありますが、経営トップがしっかりとした戦略仮説を持っていれば、かえってその下で自由でかつ現実的なアイデアがボトムアップされます。やはり事業の具体化には現場の力によるボトムアップが欠かせません。
このような話をすると、「うちのトップはそんな器じゃないし・・・」という愚痴が聞こえてきそうですが、その場合、私は以下の3つの対策を提言します。
提言1:ミドル・シニアのスタッフが経営トップに代わって集団で新事業戦略を構想し、経営トップにミドルアップすることでトップダウンを引き出し、同時にボトムアップを引き出す挑戦をすること
提言2:社内だけで新事業戦略を構想するのではなく、外部のネットワークを使って、競争優位性があり、実現可能な新事業戦略を短時間でつくりあげること
提言3:次世代をリードする人材を発掘し、そのメンバーを新事業開発にアサインして退路を断った状況で挑戦させ、新しいリーダーをつくること
現実を考えると、創業者系の経営者ではないサラリーマン社長で、トップダウン経営ができるトップはかなり少ないと思います。したがって、今後の会社の成長には、社内の45歳以上のミドル・シニアがキーになるのです。日本企業ではミドル、シニアが捨て身で仕掛けるパワーが最も重要なのです。保身ではいけません。自ら成長への強い意志と覚悟を持ち、ミドル・シニアの力でトップダウン型の新事業開発を成功へ導きましょう。