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高利益を達成するための生産財マーケティングとは(1) 顧客の事業課題、ニーズを探って“束”にしよう

ニューチャーネットワークス 取締役 シニアコンサルタント
福島 彰一郎

 昨今の為替の変化というのは実に荒っぽいもので、あっという間に1ドル110円になり、今度は「円安すぎる」という声が中小企業から出てきている。

 円高の時代が長かったせいか、日本企業の多くはその環境に対応するために輸出型から海外拠点でのドルベースのビジネスにだいぶ構造転換しており、円安になってきた現在、多くの企業にとってメリットは少ない。中小企業の中にはかなり危機的な状況に陥っているところもあり、輸入材の値段が上がってビジネス的に好ましくないのが実情だ。

 為替の調整は官に任せるしかないが、生産財メーカーとしてはこのように激しい事業環境であっても、十分な利益を出せるだけの付加価値のある製品を継続的につくっていかなければならない。それが基本戦略である。しかし、弊社がコンサルティングを通じて国内生産財メーカーの担当者に会って話を聞くと、この基本戦略を十分に実現できていない企業が多い印象を受ける。

 今回からの連載コラムでは、高利益を上げるために生産財メーカーが押さえるべきマーケティングのポイントについて、特に製品企画に携わっている技術者をイメージして紹介していきたい。

 鍵となるキーワードは全部で7つある。

1.高い利益率を期待できる事業課題およびニーズの「存在」の探索
2.高い利益率を期待できる事業課題およびニーズをもつ顧客を探索し、それを「束」にする
3.マスカスタム製品の市場ポジション
4.「束にした顧客群」ごとのマスカスタム製品のコンセプト企画
5.製品コンセプトを軸にした「ぶれない」製品開発
6.「束にした顧客群」ごとの販売戦略
7.高利益な製品を連続的に創出するための社内インフラ整備

――である。

 第1回目のコラムでは、上記の中から『1.高い利益率を期待できる事業課題およびニーズの「存在」の探索』と『2.高い利益率を期待できる同じ事業課題およびニーズをもつ顧客を複数探索し、それを「束」にする』の2つについて紹介しよう。

高い利益率を期待できる事業課題およびニーズとは?

 一口に生産財メーカーと言っても、利益率のバラツキは各企業で大きい。同じカテゴリーの製品を扱っていても、営業利益率が数%というメーカーもあれば、30%、40%という高い利益率をたたき出しているメーカーもある。

 高い利益率をどのように達成するのか。シンプルに考えれば、当然のことだが、品質などで競合企業に負けず、かつギリギリの低コストで製造し、その製品の価格を高く設定して販売できればよい。そのような製品を大量販売できれば確実に利益が上がる。

 一般的に製品を製造する際の低コスト化は、原材料の調達をはじめ、設計・開発、生産、物流などの各段階において、それぞれ実現できる“のりしろ”をもつ。改善活動や海外生産などの取り組みからもわかるように、多くの日本企業は従来から行っており、今後も継続的に取り組まれていくことは期待できる。

 では、もう一方の製品の価格を高く設定することについてはどうか。うまく行えているのだろうか。この問いに対して、自信をもって「イエス」と答えられる企業はなかなかいないはずだ。

 製品の価格設定は、原価を積み上げた後に、社内で決定した利益(率)を乗せて計算するケースや、市場における製品カテゴリーの参照価格を基準に製品の独自性などを考慮して価格を調整するケースなどがある。

 しかし、このような従来型の価格設定の方法だけでは、実は逸失利益を見逃している可能性も否定できない。では、製品の価格を(ユーザーが離反しない範囲で)高く設定するにはどうしたらよいか? そのためには製品の企画・開発の考え方から変えてみる必要がある。

 まず確認すべきは、生産財の顧客は企業であり、顧客自身も売上、利益を上げることを目的として事業を行っているということである。その事業目標の達成に役に立つのであれば、顧客は費用対効果を考えて、製品自体の価格が製品カテゴリーの参照価格よりも多少高かったとしても製品を購入するものだ。

 逆に事業目標の達成に役に立たないと判断すれば、いくら相場よりも安い製品だからといっても買わなくなる。

 企業は消費者と違って合理的な判断の下で購買するのであり、意味のない衝動買いはまずない。

 生産財の場合、もし自社製品がなかなか売れないのであれば、顧客企業の重要な事業課題の解決に自社製品がマッチしていないのではないかと考えるべきである。これが大事なポイントだ。

 顧客企業の事業課題を見出すためには、バランスド・スコアカードの4つの視点による分析が有効である。具体的には、顧客企業の事業を「財務」「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」といった4つの視点から体系的に分析していく。特に自社製品が貢献できる範囲にフォーカスして分析する。

 自社が顧客の業務プロセスの効率化、生産性向上に役に立つ可能性のある製品を扱っているのであれば、分析では顧客が現時点でどのような手法で業務を行っているのか、そこでは「人と工数」「1回当たりの費用」がどのくらいの“頻度”で投入されているのかを把握する。これを把握できれば、総コストも見積もることができる。

 業務にかけている総コストを見積もったうえで、製品購買における「予算枠」を大きく決める。もし、顧客が多額のコストをかけて業務をこなしているのであれば、このコストの低減は顧客とっての重要な事業課題と考えてよい。

 したがって、自社製品がこの重要な事業課題の解決に有用であれば、その製品価格が市場の相場価格より多少高くても、顧客は全体としての費用対効果を考えて、高い価格で購入してくれる可能性が高くなる。

 つまり、製品の価格を高く設定するためには、顧客企業において彼らが解決しなければならないと考えている重要な事業課題が「存在」するかどうかをまず探索することが第一歩となる。

 こうした情報は、当然のことながら市場調査レポートなどには掲載されておらず、Googleなどで検索してわかるものでは到底ない。顧客企業との対話を通じてでしかわからない、いわゆる「足で稼いでしか得られない貴重な情報」だからだ。

 重要なのは顧客企業と膝を交えた対話から得られる情報である。普通、顧客企業の情報は自社の営業担当者によってもたらされることがほとんどだ。しかし、営業担当者は自社の製品や生産材の売上アップに自分たちの目的を置いているので、顧客が「いつ」「幾つ」「いくら」で買うのかなどの情報に意識が向いている。

したがって、営業担当者から聞く情報だけでは、顧客(相手先企業)が高く買ってくれそうな、次の新製品、新生産材の企画・開発にはあまり役に立たないことが多いのだ。この問題を解決するには、製品企画・開発の担当者が自ら(営業担当者と同行して)顧客に出向いてヒアリングする必要がある。

 そのような努力を積み重ねながら、次の製品企画・開発のネタとなる情報を入手していく。「なぜ顧客(相手先企業)はそのような業務を行っているのか?」「自社製品ならばもっと効率的な業務改善につながるのではないか?」「どのような機能を提供すれば役に立つのか?」と考えながら情報を取りにいくのだ。

 顧客の“現場観察”を行うことも欠かせない。顧客が毎日行っている業務は、いわば習慣になっており、顧客自身、それが当たり前だと思っている。だから、その業務をさらに改善できるとか、効率を上げられるのではないかという疑問点をなかなかもたないのだ。その点を第三者が観察し、課題を発見してあげる。

 そして自分たちの考えている製品アイデアを提示しつつ、「このような製品があれば、どうでしょう?」「必要になることはありませんか?」「どのような機能、価格だったら、御社のニーズにマッチしそうですか?」などと聞いていくのである。

 顧客からは様々な意見や考えが出てくる。しかし、顧客というのはある種勝手なもので、重要度の低い、とうてい実現できそうもない“わがまま”なニーズ情報も含まれている。事業にとってはさほど重要でないが、「あったらいいな」くらいのニーズ情報である。

 そのような“わがまま”なニーズまですべて製品の企画・開発に反映させてしまうと、ヒアリングできた顧客(相手先企業)だけしか買わないような、偏ったカスタマイズ製品になってしまい、量産効果も期待できず、製品コストが上がってしまう。利益率は下がるし、最悪の場合、顧客が方針を転換して「その製品は不要である」と言い出したら、途端に在庫の山となって経営を圧迫しかねない。

 普通、製品企画・開発者側としては顧客が声をかけてくれればうれしいものだ。まして技術系出身者であれば、誠実な人材が多いこともあり、すぐに対応してあげたくなる気持ちもあるだろう。

 しかし顧客のニーズを聞きつつも、少し冷静に引いてみて、重要な事業課題の視点から顧客ニーズに優先度をつけることが大切である。

製品企画・開発は、似たような顧客を「束」にする発想が必要

 高い価格設定ができる可能性がある事業課題や重要ニーズを見つけ出しても、すぐに製品の企画・開発に着手してはいけない。1社、2社の顧客向けの製品をつくっていたら、事業の利益の絶対額は大きくならないからだ。

 それぞれの顧客ニーズに100%対応し、フルカスタム製品を個別につくってきたから、多くの日本の生産財メーカーは大きく儲けることができなかったのである。

 では、どうすればいいか。顧客ニーズに完全に一致するわけはないが、類似の事業課題やニーズをもつ顧客がさらにいないか探索し、それら顧客を「束」にすることを考えよう。これが実現できれば、企画・開発した製品を大量に生産でき、高い利益率を上げることが可能になる。

 顧客ヒアリングを行い、重要な事業課題やニーズの「存在」を確認できたら、似たような事業課題やニーズをもっていそうな他の複数の企業にもヒアリングを実施していく。ヒアリング先は、同じ製品を扱っている顧客の同業他社、同じ業務プロセスをもっている異業種企業である。

 ヒアリングしながらも、新しい製品コンセプトを企画するため、情報を収集するだけなく、常に「もっと良い解決方法がないか?」と自社が企画・開発すべき製品アイデアを発想、ブラッシュアップさせていくことも大切である。製品コンセプトの企画については、今回の連載コラム後半で紹介する。

 ヒアリングや現場観察するたびに、顧客企業の事業課題やニーズ情報の整理を行い、重要かつ共通の事業課題、ニーズを見出していく。繰り返しヒアリングを行うと、顧客の特徴も収斂されて鮮明になっていくものだ。

 重要な事業課題やニーズをまだ顧客が明確に認識しない段階は、ラッキーでもある。顧客も定量かつ具体的にニーズを表現できないため、自社側の製品の仕様に合わせてくれやすくなるからだ。その場合は先行メリットを享受できる可能性が高い。顧客ごとにカスタマイズ製品をつくることを回避し、同一製品を大量生産することでコストダウンを図れる。結果として得られる利益の絶対額も大きくなるだろう。

 以上のようなアプローチをまとめると以下の図のようになる。

 

 高利益率な事業課題・ニーズを見極め、類似の顧客を「束」にする

 

 顧客(相手先企業)の特徴が鮮明になってくると、世の中に似たような特徴をもった企業がどのくらいいるのか市場規模を「フェルミ推定(※)」することも可能となる。

※フェルミ推定=実際に調査するのが難しいような、とらえどころのないものをいくつかの手掛かりを元に論理的に推論し、短時間で概算すること。「オーダーエスティメーション」ともいう。

 同じような製品、サービスを提供している会社、同じ業務を展開している会社の数や購入割合、購入金額を市場や統計データも参考にしながら推定していけばよい。それによって、おおよその市場規模を“桁レベル”で推定できる。

 このようなアプローチは、よく企業の戦略検討で行われる手順と異なるので注意が必要だ。従来、ありがちなのは、市場調査レポートを見て「1000億円規模の市場だから、うちの新製品なら、市場シェア20%は取れるのではないか。売上は200億円を見込める」という推定である。

 いろいろと出回っている市場レポートはそれなりに参考にはなるが、今後の勝てる企業戦略を企画、立案していくというフェーズにおいては、ロジックとしては弱含みだ。ミクロな視点での顧客ニーズへの対応という部分を見逃してしまっている。ミクロな視点はややもすれば軽視されがちだが、実は企業における将来のコアコンピタンスの確立につながる場合も少なくない。そのことも忘れてはダメだろう。

 ボトムアップアプローチではあるが、顧客の事業課題やニーズを起点して積み上げた見積もりの方が、後半の製品企画や販売戦略にダイレクトにつながっているため、戦略を検討する上でリアリティがあるのではないだろうか。

 次回のコラムでは、キーワードの『3.マスカスタム製品の市場ポジション』について考えてみたい。

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