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心理的側面からみたブレークスループロジェクト(1) ~3つの基本的欲求「自律性」「有能感」「関係性」を充足し、モチベートする~

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 新年度がスタートし、多くの製造業が中期経営計画に基づき実行フェーズへ移行しているだろう。グローバル化が進む今日においては、海外市場も視野に含めてチャレンジングな戦略・計画を立案しているケースも多い。しかし、それらの進捗は果たして順調であろうか。
 もし順調でないとすれば、そこにはひとつの原因が考えられる。それはモチベーションの低下という問題だ。戦略・計画は論理的には良いが、戦略実行の担い手である肝心の現場がイマイチ活性化していない。地頭は良く基本的に真面目な人材が多いのだが、どうも組織全体となると元気がない。そんな壁にぶつかっている会社も少なくはないだろう。

 社内でアンケートやヒアリングをしてみると、以下のような声が聞かれることがある。
 
「目の前の膨大な仕事量のため休みがとれない」
「他メンバーは皆忙しそうで相談できない。人間関係が上手くいっていない」
「上司は批判ばかりで相談しにくい。何も言えなくなってしまう」
「自分の範囲でやろうとするが知識が足りず、かえって時間がかかってしまう」
 
 このような状況では、モチベーションも上がりようがない。モチベーションが上がらなければ、当然計画もうまく進捗しない。残念ながら、これはみなさまの会社でもありそうな話である。計画を達成するためには、まず現場のモチベーションを上げることを考えなければならない。
 弊社の提唱するブレークスループロジェクトは、過去のコラムでご紹介してきたように、成果を出す中で人と組織を変革・モチベートするために有効な手法である。営業や製品開発、海外の現地法人など、様々な組織において多くの成果を出してきている。今回から3回に渡り、ブレークスループロジェクトが沈滞した現場をどのように活性化できるのか、動機付けという心理的部分へ踏み込んで考えてみたい。

 最初に、そもそもなぜ企業の現場は冒頭に紹介したような状態になってしまったのかを整理する。原因として考えられるのは、①成果主義の導入②社内コミュニケーションの減少③長期雇用制度の崩壊である。
 90年代後半に成果主義が導入される前は、業務範囲が「あいまい」であったため、無駄やフリーライダーという弊害はあったものの、業務同士の横方向の連携は自然と取れており組織全体としての一体感があった。成果主義が導入されてからは、従業員は担当業務の成果を意識するようになったのはよいが、一方「それは私の仕事ではない」といって他業務への意識は希薄となってしまった。その中で、個人にとっては関係なくとも組織全体にとっては必要な仕事が消滅していった。
 並行して、コスト低減のために社内コミュニケーション促進に役立っていたインフォーマルなイベントは減少。それによって部署が違うメンバーと知り合いになる機会も失われていった。
 そして景気低迷期におけるリストラである。長期雇用という会社と個人との信頼関係は崩れ、個人は「会社は最後まで面倒をみてくれるわけではない」「自分の身は自分で守るしかない」と考えるようになる。その中で個人の能力開発ブームも起こり、個人は以前より自分の利益が第一と判断するようになった。「この仕事は自分にとって何かいいことありますか?」と上司の指示に質問する若手も登場してきている。
 では昔の仕事のやり方に戻る方が良いのか?というと、その選択肢も考えられない。日本人同士ならまだしも、グローバル化の中で非日本人メンバーとの仕事が当然となるビジネス環境では、成果主義でないと海外の優秀な人材を採用できない。

 ではどうするのか。ここから、グローバル時代における有効な「動機付け」の方法について考えていきたい。
 組織の力とは、「個の力」と「個と個とのチーム力」のかけ算の結果である。今の多くの日本の製造業は「個の力」があったとしても、「個と個とのチーム力」が弱まっている状態にある。そのため組織全体としてのパフォーマンスがイマイチ振るわない状態になっている。さらには、「個の力」も現場における他メンバーとの議論や協働作業の中の学びと啓発を受けて伸びるはずである。「個の力」の成長も自助努力のみでは大きな結果は期待できないだろう。
 組織としては、個の力を引き出し、チーム力を引き出し、大きな成果を出したい。いささかドライに言うと、組織は働いている人そのものを必要としておらず、その人の持っている能力と行動を必要としている。いかに能力や行動といった力を引き出すのか、その「動機付け」がマネジメントの重要な仕事の1つとなる。強制や脅迫によっても、肉体労働などの単純作業では成果が出るかもしれない。しかし、新製品や新事業、研究開発などの長期にわたるクリエイティブな取り組みが必要とされる業務では、強制や脅迫のマネジメントは効果を発揮しないだろう。強制によってイノベーションが起きることはまずないのである。
 モチベーション理論において、動機付けには「外発的要因」と「内発的要因」の2種類がある。賃金や賞与、福利厚生といった「外発的要因」によって動機付けをすることもできるが、高い賃金をもらうとそれが当たり前になってしまい、もっと行動させようとするとより高い賃金を与える必要があり、際限がなくなるという。
 次のような心理学の実験の話は分かりやすい。学生にパズルの問題を与え、パズルを解く際の姿勢が、パズルを解いたときに与えられる報酬によってどのように変化するかという内容である。学生は最初、報酬なしでも喜んでパズルに取り組んでいたのに、いったん報酬が支払われると、たちまち彼らはお金のためにパズルを行うようになった。金銭という報酬が導入されたとたんに、学生たちは報酬に依存するようになったのである。これまではパズルを解く事自体が楽しいと感じていたにもかかわらず、パズルを解くことは報酬を得るための手段に過ぎないと考えるように変わってしまったのであった。
 この実験では、外から動機付けられるよりも自分で自分を動機付けるほうが、創造性や責任感、健康な行動、変化の持続性といった点で優れていると報告されている。組織リーダーは「メンバーをどのように動機付けるか」を考えるよりも、「どのようにすればメンバーが自分自身を動機付けるようになるのか、その環境や条件をいかにつくるか」を考えることが大切である。また上記実験では、金銭的報酬を用意した後では、いかに短い時間にパズルを解いて報酬を得るかという点にフォーカスが移った結果、一種の「ズル」ですら見られるようになったということも報告されているという。外発的要因ももちろん必要ではあるが、仕事に意味や面白さを見いだし、仕事自体が生きがいという「内発的要因」による動機付けを行っていくことが大切である。
 では内発的要因によってどのように個の力を引き出し、個と個のチーム力を引き出すべきだろうか。社会心理学において多くの心理学者が同意する、ロチェスター大学のエドワード・L・デシ(Edward L. Deci)教授が提唱した「自己決定理論」(Self-Determination Theory:SDT)によれば「①自律性」「②有能感」「③関係性」の3つの基本的欲求が満たされるときに内発的に動機付けが起こる。目の前の行動を自分で積極的に行おうと「内面化」が起こるのである。
 この3つの欲求についてさらに詳しく説明していきたい。
 「①自律性」とは、自ら行動を選び、主体的に動きたいという欲求である。他に強制で動かされるのではない。自発的な興味や選択に基づき行動したい欲求である。心理学の実験では、自律性を重んじる教師の生徒は、中退せずに、成績がよく、創造性に富む。チャレンジ精神もあり、好奇心も強くなるという。リーダーが自律性を奨励するスタンスをとることで、メンバーの内的動機付けが進み、モチベーションが上がるのである。一方、管理に厳しい教師の生徒は、もともと学ぶことが好きであっても、必要以上に管理されると、生徒は自分の選択権がなくなると感じるため学ぶ意欲は低下する。そこで、学ぶことと関係のない「賞罰」で外的動機付けをしようとすると、少しの間は効果が上がるが、しばらくするとご褒美がなければ学習しなくなる。内的動機付けが低下してしまうのである。
 「②有能感」とは、何かを成し遂げて、周囲に影響力をもちたい、そして影響を与えて何かを得たいという欲求である。そのために必要な知識・スキルを学び、成長するために行動することになる。マズローの欲求段階説における自尊的欲求に該当する。
 「③関係性」とは、他者と深く結びつき、互いに尊重し合う関係をつくりたいという欲求である。生涯を通じた友情や親密な関係、集団に属したい、人に出会いたい、絆を創りたい、社会に貢献したいなどの欲求である。それが無くなると、痛みや悲しみとなる。孤独を感じるマズローの欲求段階説における社会的欲求に該当する。
 この3つの欲求が満たされると、人は目の前の行動自体に楽しさ・やりがいを感じるポジティブな心理状態になるという(図1)。

基本的欲求に訴求してモチベートする(図1)

 このような状態では、時の流れも忘れてその行動そのものに没入し、学習が促進され、成果が出るといわれる。心理学では「フロー状態」という。行動そのものを楽しむ心理状態である。フロー状態のときに脳は活性化し、ミスは減り、記憶力・学習能力・思考力がアップする。これは生理学的にも証明されている現象である。またフロー状態にある人は決して他者とのコミュニケーションをしないわけではなく、逆に他者に対してオープンになり、積極的に他者との関わりを行うように振る舞うという。つまり組織全体がこのフロー状態にあれば、個の力もアップし、個と個のチーム力もアップするということになる。
 組織のリーダーにとって、組織全体にこのフロー状態を「人工的」に作り出すことが戦略実行をする上でのポイントとなる。例えば10年間の計画を例に取れば、「この事業を10年我慢してやれば、かならず成果がでて皆がハッピーになれる」というだけでは十分な効果は上がらない。すべての場面、瞬間において、組織メンバーの心理状態を「フロー状態」にさせることで、よい結果を次々と生み出し、それを継続していく。そうすれば10年後には、当初考えられなかったような高いビジョンを達成できるだろう。組織のリーダーはメンバーに対し、今後の取り組みが各自の自律性・有能感・関係性の3つの欲求を充足させる上で非常に有益であり、組織の取り組みへの参加はメンバーにとってベネフィットがあることを伝えていくことがポイントとなる。
 しかし、メンバーのモチベーションが低下している最悪の状態から、一気に上記のような理想的な状態に変化することは難しい。そこで、組織変革に効果的なメソッドとして有効なのがブレークスループロジェクトである。ブレークスループロジェクトは、組織メンバーの3つの基本的欲求を効果的に充足させてメンバーのモチベーションを上げつつ、個と組織の力を強化し、連続的な成果を創出し、中長期の組織ビジョンを達成する働きをもっている。
 ポイントは、「組織の理念・ビジョン・目標と、個人の価値観・キャリアビジョンを重ねることによる自律性の欲求の充足」「プロジェクトにおける自己成長や創出した成果への他者からの評価による有能感の充足」「プロジェクトというコミュニティの形成による関係性の欲求の充足」である。このブレークスループロジェクトを組織の各所で行っていくことで、組織全体が沈滞した状態から生き生きと活性化した状態へ向かっていくシナリオを実現したいものである。
 次回コラムでは、ブレークスループロジェクト「準備」「テーマ企画」「実行」「報告」の4つのステップにおけるポイントを心理的側面から考えてみたい。

 

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