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危機感が失われつつある日本企業 ~結果から考える人、組織に変わる~

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 リーマンショックから6年目、東日本大震災から4年目、そして8%の消費税導入から3カ月が経ちました。各企業は2013年度の決算を発表し、株主総会も終えました。これまでの厳しい経済環境での変革をリードしてきた優れた会長、社長の多くは、株主総会で第一線から引退することを表明しています。

 “歴史的な危機”といっても過言ではない、従来のきわめて困難な状況を切り抜けてきた日本の各企業……。その多くの努力に対して敬意を表します。先の見えない長いトンネルをくぐり抜け、今ほっと一息つきたいという感じをもたれている企業も少なくないでしょう。マスコミからも、人手不足という“うれしい悲鳴”や新卒採用の回復、賃金上昇、消費の活性化、過去最高の企業業績などの報道が多くなされ、確かに日本全体の景気が良くなった感じを受けないでもありません。

 しかし、私はそうは思いません。コンサルティングの仕事をしていて今、痛感するのは多くの日本企業で危機感が失われつつあるということです。現在の世界経済の不安定な変化、ドラスチックな顧客の変貌、ダイナミックな競合企業の戦略転換は、日本企業の「ほっと一息感」を許してくれないのです。

 例えば、日本の多くの部品や素材産業の売り上げの50%以上は日本企業の顧客からのものです。エレクトロニクス分野であれば、その売り上げは今後、急激に減少する可能性があります。米国中心のオープン化戦略、新興国企業の台頭によって、日本のエレクトロニクス産業はさらなる苦戦、シェアダウンが予想されるからです。エレクトロニクス産業に携わる企業は、部品、素材産業に対して、これまでとは“次元の異なる”コストダウンを要請する必要があるでしょう。あるいは新興国企業への調達の切り替えを行わざるを得ません。

 一方で部品、素材企業の利益シェアを見ると、ほとんどが日本企業の顧客からのものです。事業部全体では利益が出ているとはいえ、その利益ポートフォリオはきわめて危ういものであることが多い。強いと言われてきた日本の部品、素材産業を取り挙げてみても、危機的な状況に置かれているのです。

 そのような中で日本企業の取り組みはどうなっているのでしょうか。依然はっきりしない過去の延長戦上の戦略、重要施策の先延ばし、余計なことはしたくないという保守意識、一段落してしまった新興国開拓などが多く見受けられます。

 あまたの危機を乗り越えてきた日本企業の「ほっと一息感」は、どこから来るのでしょうか。それは企業体質が積み上げ式からいまだ脱し得ていないことにあります。積み上げ式とは、「今やっていることをきちんと続けていけば、将来は保証される」という発想です。

 積み上げ式発想自体は悪いことではないのですが、もし企業の管理職、経営幹部が積み上げ式発想のままだと、自社が致命的な状況に陥る危険性があるのです。そうならないためには、管理職、経営幹部は結果から考え、意思決定し、行動しなければなりません。

 重要なのは、「結果からものごとを考える」という点にあります。具体的にどのようなことでしょうか。

 例えば次のような思考です。

●新興国のライバル企業が今よりも30%コストダウンした製品を今年度、市場に投入してきたら、自社のシェアはどの程度落ち込み、利益はどうなるか?
●顧客企業の市場競争の激化で、当社の製品単価低減はどの程度要求されるか?
●どの程度の収益性の新規事業をいつまでに立ち上げないと、会社や事業部として現状を維持できないか?
●今のコスト構造、利益構造のままで、原料高もしくは価格低下がどの程度進めば赤字に転落するか。その環境変化は何に原因があるのか? 発生確率はどの程度か?

 ステップ順にわかりやすく説明すると、こうなります。

 将来の結果を出すために、
→「現在生じている、または将来起こるだろう変化を冷静に客観的にとらえ」
→「現状の延長戦では達成できないギャプを直視し」
→「今やるべき優先課題を明確化し」
→「実行する」
ということです。

 ビジネスの場合は、これらのステップがすべて財務数値はじめ、指標数値で表されていなければなりません。

 さてここで皆さん、ご自身が携わっている事業、業務、そしてご自身の個人についてで構いませんので、いくつか結果から考えてみてください。

結果①(        )--ギャップ(        )--優先課題(        )
結果②(        )--ギャップ(        )--優先課題(        )
結果③(        )--ギャップ(        )--優先課題(        )

 真剣に考えていただいた方は、いたたまれなくなったり、不安になったり、あれこれ人や組織の障害を思い浮かべてイライラしたのではないでしょうか。そうです。結果から考えるということは、精神的にストレスがたまり、さらに行き過ぎると身体的にも良くないことなのです。

 実際、結果重視の管理職、経営幹部は土日も仕事のことを考え、いわゆる「ワーク・ライフ・バランス」からほど遠い世界に身を置いていると思います。一般的にいえば、結果から考えることは心と身体に悪いのです。

 しかし管理職や経営幹部は、結果から考えることを“楽しく”“健康に良い”ことにしなければ長続きしません。それは精神と身体を鍛えぬいて喜びを感じるトップアスリートのようになることを意味します。

 そのためには何が重要か。まずマインドセットです。「結果やギャップを直視する」こと。「結果を出すのが一種ゲームのように思い楽しめる」こと。「挑戦する」こと。「トライアル・アンド・エラーを厭わない」こと。「これまでの発想を打ち破った挑戦を行う」こと。「毎日、結果を出すように努力する」こと…などです。

 2つ目は、中長期の大きなビジョンを構想することです。3年間であれば3年後の姿、目標、そしてその3年間のシナリオを描きます。半年、一年ごとに明確な達成目標を3年後の結果から設定します。

 3つ目は、最初の半年ないしは一年の目標を90日程度の短期目標に置き換え、集中して目標を突破することです。その90日間、毎日、毎週のマイルストーンを達成していく活動の中で、自分を結果志向の体質に変えるのです。そして90日の短期目標を達成し、それによって強い達成感を味わい、強く脳裏に焼き付け、学習強化を図ります。

 このように取り組むことで、結果から考えて行動し、自己の成長つながれば“健康的な結果志向体質”に変わります。結果志向の体質づくりは、身近なところで実践できるのです。皆さん、結果志向の体質に自己変革しようではありませんか。

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