短期で明確なブレークスルーからの経営変革
組織パフォーマンス向上「グローバル・ビジネスリーダー」
日本企業にとって今が最後の経営変革の機会
東日本大震災から2年と数ヶ月経った今、政府、自治体、企業など日本の社会全体が、大きく変化・成長するという強い意欲を持つようになったと感じる。しかし企業の経営に目を向けると、「経営における本音と建前」「部門間の覇権争い」「脆弱な意志決定の仕組みとその遅れ」「若手人材の流出」など本質的な問題が放置されたままであることが多い。米国、アジアが大きく成長していくなか、日本が世界の成長に乗れる最後のチャンスが今なのではなかろうか? そう考えると、企業変革は急がなければならない。景気回復に息をついている余裕など全くない。
これまでの経営変革はどの様なものであったか
これまでの10年ないし20年の日本企業の経営変革はどの様なものであっただろうか。大きく三つに分類できる。
一つ目は、全社経営戦略ビジョンの策定プロジェクトである。多くは大手のコンサルティング会社や大学教授がサポートして行われてきたが、その結果は以下の4つの原因からうまくいかないことが多かった。すなわち、①戦略プロジェクト全体が大きすぎて成果がイメージしにくい、②実行し成果を得るまでに膨大な時間を要する、③多くのサブプロジェクトが発生し統合管理できない、④自分が参加するプロジェクトには責任を持つが全体の成果には誰も責任を取りたがらない。そして関わる人も少なくなり、最終的には自然消滅し、「そんなプロジェクトもあったなぁ」と懐かしさをもって語られるようになる。
二つ目は、生産や設計、マーケティング、営業、情報システムなどの個別部門の改革、改善プロジェクトである。こちらは全社戦略ビジョン策定プロジェクトよりも目標が明確で進捗管理も行いやすい。しかし部門を越えた連携が行われず、会社全体の利益への貢献が見えない、場合によってはマイナス効果となることもある。特にITプロジェクトは膨大な予算が投じられ、業務自体の変革は行われないままむしろコストが増大し、事業全体の利益を圧迫したという結果に終わった会社も多かったのではなかろうか。
三つ目は、成果主義の導入、組織統合、フラット化、分社化などの人・組織改革である。人件費の削減、変動費化など部分的効果は見られたが、年功制や部門主義などの従来の組織体質は抜本的に変革されたとは言いがたいケースが多いのではなかろうか。ビジネスリーダー研修も、受講生が部門の代表的な人材であり、結果として階層別研修が一つ追加されたようなものが多い。また研修後の経営幹部への抜擢はほとんど行われず、また研修最後に行われる経営トップ報告が実行に移される会社も少なく、効果が疑問視されている。
これまでの経営変革プロジェクトの問題点とは
以上のような、抜本的に経営体質を変えるに至らなかった経営変革プロジェクトには、共通する問題点がある。それは以下の4つにまとめられる。
①絞り込まれた、明確的かつ短期的な成果が見えない。
- プロジェクト大きすぎて、かつ長期に渡るため成果がイメージしにくい
- プロジェクトの構想や計画に時間を取られすぎて、実行に時間がかけられていない
- プロジェクトの最終成果に対して誰も責任を取ろうとしない
②組織横断的取り組みではなく、部分最適に終わってしまっている
- 経営は組織横断的活動であるにもかかわらず、一部門の成果を目指そうとする
- 組織横断的な改革に取り組んでも、評価されない。それどころか自部門を敵に回すリスクもある
- そもそも取締役はじめ経営幹部にも組織横断的は発想が少ない
③中期経営計画とのリンクが薄く、部門、担当の戦略目標にまで落とされていない
- 中期経営計画と経営変革プロジェクトがリンクしていない。コミットメントされてない。
- 中期経営計画の目標、戦略が変革を含んだ部門の戦略まで落ちていない。さらには目標管理とリンクしていない。現場は過去の延長線上にある。
④経営変革プロジェクトが人事とリンクしておらず、社員に対し変革後の価値基準が伝わっていない
- 変革プロジェクトのリーダーの権限が小さく、変革をリードできない
- 変革プロジェクトに参加しても人事的な評価がされない。社員にとって評価が見えない。
- そもそも会社が社員に求める価値基準が曖昧で、たとえ明確だとしても人事制度にも反映されていない。
日本企業が経営変革するための3つの成功の要諦
最初に述べた取り、これから1年ないし2年が日本企業にとってまたとない経営変革の機会と考えられる。企業によって必要となる変革のテーマは異なるが、弊社ニューチャーネットワークスではクライアント企業の経営幹部の方に、経営変革に当たって以下の3つの成功の要諦を提言している。
①会社の価値基準を明確にすること
- 会社として何を目指し、どの様な独自性を出していくのか
- どの様な製品、ビジネス、そして顧客成果が求められるか
- どの様な社員、組織が必要とされ、また必要とされていないのか
②将来的には広がりがある、しかし短期的に成果が出るようなプライオリティの高いテーマをトップダウンする
- 例えばビジネスの出口である「営業部門の業績をアップ」をテーマにしつつ、開発、製造部門も巻き込んだクロスファンクショナルなプロジェクトを組織化する
- ある特定の部門での短期の成果を他部門にも同様に有機的に広げていく
- 会社全体が成果を感じることで、変革に対して積極的になり、挑戦への意欲が涌くようにする
③成果を先行させたのち、それを継続的で、確実なものにするために仕組み化、システム化する
- 経営変革そのものを中期経営計画、予算計画、目標管理に入れる
- 経営変革への参加、コミットメントを促し、そして成果を出したことに対しては明確に人事評価を行う(報酬、昇格昇進、人材の発掘、登用など)
- 独自の改善プロジェクトや教育システムなどのスキルパッケージ化を行う
ブレークスループロジェクトを起点にした経営変革
上記3つの経営変革の要諦を踏まえたうえで、弊社では、具体的な成果が短期で得られ、かつこれまでの発想や仕事のやり方を抜本的に変革する“ブレークスループロジェクト”をクライアントに推奨し、弊社とのコラボレーションを通じて実践してきた。
これまでもコラムを通じてブレークスループロジェクトをご説明してきたが、その特徴を簡単に述べると以下の様なものである。
ブレークスループロジェクトを経営変革のベースにするためには、ブレークスループロジェクトの成果やそのためのプロセスがこれからの会社全体の価値基準であることを明確にし、アピールすることが大切である。そのためにも、経営トップはブレークスループロジェクトの進捗を常にウォッチし、必要に応じて励ましたり、支援したりすることが必要である。プロジェクトが危機に陥ったときには価値観を強く示すために経営トップ自ら行動することも重要である。
ブレークスループロジェクトを活用して経営変革を行うには、チームはクロスファンクショナルに組織化されるべきである。たとえテーマが一部門を中心としたものであっても、関連する部門の直接の協力が大切である。クロスファンクショナルな活動は組織構造を変えるのではなく、組織全体のコラボレーションの実例をつくる。その結果、ブレークスループロジェクトという方法論を他部門や会社全体に広げていくことも可能である。
またブレークスループロジェクトを通じて成果を出したリーダー、メンバーは必要に応じて評価され、報酬を与えられまた抜擢される。新たな会社の価値基準に従って、結果を出した人を明確に評価するのである。そのためにも人事部門がブレークスループロジェクトを強力にサポートする必要がある。人事部門も経営やビジネスの実際の成果づくりに参加することで、自社にフィットした制度をつくることができる。そして変革の成果をベースに厳格な運用を進めていけるのである。
経営変革で最も重要な事は何か
ブレークスループロジェクトの様な実際の成果を生み出すプロジェクトは、単なる制度設計や仕組みの企画、戦略ビジョンの構想とは異なり、実際のビジネスでの実力が試される。そこでは、成果を出すための厳しい“マインドセット(意志、意識)”“思考プロセス”“行動モデル”がメンバー一人ひとりに求められる。その起点となるのは、会社や組織をリードする経営者やリーダーが“どの様なことを達成したいのか”という意思、つまり一般的な言葉で言えば、理念やフィロソフィー、ビジョンといった企業文化である。最終的には、そういった理念が、メンバーを強く惹きつけるものであるのかが問われている。