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企業は社会問題からビジネスチャンス、ビジネスルールを創造する時代へ

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 明けましておめでとうございます。2017年が皆様にとって実りある良い年になりますようお祈りいたします。弊社もヘルスケアIoTコンソーシアムをはじめ、ヘルスケアのコード化、データ化と、関連する革新的サービスのビジョン構想や具体的実践をご支援させていただきたいと思います。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 年の始めは、一旦立ち止まって中長期的に物事を考える良い機会です。今回のコラムでは日本国内外の様々な問題発生原因のパラダイムを捉え、生き残り、世界をリードするためにどのようなことを念頭に置くべきかを、自分自身の課題として考えたことを述べたいと思います。

 2016年は、英国のEU離脱、米国でのトランプ大統領誕生、韓国の朴槿恵大統領辞任など、2008年のリーマンショック以降の世界のパラダイムシフトが明確になった年であったと思います。私なりにキーワードを挙げると、「オープン&クローズ間の揺らぎ」です。皆さんご存知の通り、1990年以降の世界経済は米国が主導するグローバル化を突き進んできました。金融自由化、関税撤廃、自由貿易など、経済・社会のオープン化は世界の人々を幸せにするはずだと・・・
 しかしふと振り返ってみると、主導していたはずの米国内ではグローバル化により労働集約的な仕事は中国をはじめとする新興国にシフトし、国内に残る仕事は低賃金のサービスだけで、その仕事も移民との競争になってしまっています。国民の多くが失業を繰り返し、生活不安に悩まされ、その結果の一つとして今回のトランプ大統領が誕生しました。
 グローバル化を加速させた要因としては、インターネットの普及があります。グローバル化とインターネットの普及は、強い人・組織、地域などを明確にし、結果的に富を一部に集中させる傾向があります。多くのことがデータ化されたことで比較が可能となり、競争が激化し、同じ年収を稼ぐのに20年前よりも遙かに多く働かなければならなくなりました。
 このような状況は米国に限ったことではありません。欧米と日本など、かつての先進国に共通で見られる現象です。

 その様な中で、「オープン一本やりの政策はやめて、オープン&クローズをうまく使い分けて自国に利益を誘導しよう」という、国益至上主義が一般に受け入れられるようになったのだと思います。実際、国益とは誰のためなのか、それは短期的なのか、中長期的なのか、はっきりした理念は見えません。ただ言えることは、英国、米国ともに「他国のことを考えている余裕なんかないよ」ということだけははっきりしています。ただ、自国の利害が関係する問題には即応酬するという姿勢です。確かにこれまでの「グローバル化は世界、人類社会にとって大事なんだ」という考えもまた現実にはかなり曖昧で、ご都合主義だった部分も多くありました。今回の英国のEU離脱、トランプ大統領誕生は、「ビジネスライクにその都度交渉します。分かりやすいでしょ。」という考えに大きく振ったと思います。
 しかしこの「オープン&クローズの使い分け」は、事象ごとに全ての国民が満足するクリアな方針を出せるとは限りません。否、不可能だと思います。その時、国のリーダーはどのような方法、考えでコンセンサスをとるのか?このことに個人的に大変興味があります。
 私は、英国、米国ともにいずれまた人間に軸をおいた理念的なものを必要とすると思います。理念的なものは抽象的で理想的になってしまいますが、その理念に照らし、知恵を振り絞り、ギリギリまで利害を調整し、安易に力に依存しない粘り強い政治を創るべき、創る努力をしつづけるべきだと考えます。もしトランプ氏、そして米国自体が任期中にそういった修正をしたならば、それはすごいことだと思います。一旦「公約」したことも修正し、よりよい社会に向けて努力するために国内外に働きかけていくならば、「国家ぐるみの大規模学習」であるといえます。

 「グローバル化」「ネット化」「新興国の台頭」で世界の先進国が苦しんでいる様に、日本もまた日本固有の特性を反映させたかたちで、いくつかの極めて厳しい困難を抱えています。分かりきったことではありますが、敢えて整理させていただきます。

①    いったい誰がこの国を支えるのか? ~人口減少、高齢化問題~

 昨年末に2016年出生新生数が100万人を切ると報道されました。保育園などの増設、育児支援など政府、行政も手を打っていますが、抜本的な解決にはほど遠い状況です。今すぐ子育て支援に徹底した対策とそのための優先的な財政支出が求められていますが、その意識と実際の行動は実に希薄です。人口減少に歯止めがかかりません。生産人口も減り、年金をはじめとした社会保障を誰が支えるのかというイメージが湧きません。併せて高齢化も厳しい状況です。行き場のなくなったお年寄りが本来通所介護であるデイサービス施設に数年間宿泊させられたままであったり、自分の生まれ育った地域とは離れた施設に入れられたりといった「惨状」が現実にはあります。
 多くの人がこれらについて“国家問題”として当事者意識を持っていないように感じますが、それも無理もない話だと思います。それぞれ他にも自分個人の問題が突きつけられているからです。「まずは自分のことで精一杯だ」「結婚したいが性格の不一致で離婚したら大きなロスになる」「子供をもつことが不安だ」など、多くは先行きが見えにくいことと社会的な支援の少なさからくる不安です。それが個人に突きつけられているのです。
 しかしこのまま少子高齢化が進めば、多くの会社が50歳以上のシニアだけで、20代、30代の若い人がほとんどいない職場になります。米国や中国では20代で起業し、数万人の雇用を生む大企業になった若者も珍しくありません。若い人が少ないと、発想の転換やイノベーションは起こりません。

②    当事者ではない大都市の人では難しい ~地域の過疎化問題対策~

 首都圏、大都市出身で、そこで就職して生活している人には過疎化は解りにくい問題です。若い人が少ない上に、優秀な人は活躍の場をもとめて大都市の大学に入学し、そのまま就職します。グローバルに活躍したい人は海外にも出ます。首都圏の人は、地方の里山の美しさ、自然の美しさを称えてはくれますが、地域に根付いた仕事に就こうとはしてくれません。地方には仕事の選択肢も雇用の絶対量も極めて少なく、低賃金で、ちょっと道をはずすと貧困に陥る可能性さえあります。
 地方では税収も減少し、財政も厳しい上に、これまでかつて寒村の隅々まで敷設したインフラ網が老朽化し、今後それらを維持するのに莫大な負担が生じます。地方の過疎化問題は今でも逼迫した日本の財政をさらに苦しめると考えられます。
 地方に労働力を求めても、すでに働ける人がいないという地域が日本には沢山あります。たとえインフラを支えるお金が出たとしても、それを担う人さえいない状況です。

③    表面化しにくいからこその深刻 ~格差問題~

 日本の子供の貧困率は16.3%(2012年時点)で、世界的にも高いと言われています。貧困児童に食事を支援するNPO団体のトップにお聞きすると、食事は用意してあるが、中々受け取ってくれない家庭が多いとのこと。周りから貧困と見られると差別やいじめを受けたり、外から食事支給されることを恥と考えているからだそうです。
 ファストファッションが普及し、着ているものも悪くないので、日本の貧困は外見からは解りにくいと思います。しかし実際には、その日の食べるものにも困っている人が沢山います。戦後の日本では、私たちの先輩方が苦労して世界にも希な格差の少ない社会を築いてきました。しかし90年代半ばからその中間層が崩れ、貧困層になっているのです。
 特に子供の貧困問題は、知的活動の基礎をつくる10代に、その基盤である健康さえも守れない可能性があり、グローバル競争で戦う以前の状況なのではないでしょうか。少子化時代にせっかく生まれた子供達が、まともな成長の機会さえ奪われているのです。

④    中小、下請けも含めて考えるべき問題 ~働き方問題~

 安倍政権は今、同一労働・同一賃金、残業時間の上限規制、最低賃金の引き上げなど、「働き方改革」を提唱しています。とても良いことだと思います。しかしその対象の多くは上場している大企業に限ったことにしか聞こえません。労働集約型の下請けの中小零細企業や一人親方の土木、建設、物流などに従事する人まで考えた政策にはなっていません。多くのマスコミも「ブラック企業」のレッテルを貼ればそれで終わりという感じです。またこの点で自民党をリードすべき民進党、共産党など野党からも日本社会の現場の実情を踏まえた政策提言は全く見られません。
 特に顕著なのが物流業です。年末年始も翌日配達などのサービスを支えているのは、個人事業主や零細物流業者の方々です。請負なので働き方改革の対象になりません。こういった人の働き方まで考えないと、本当の改革とはいえません。
 働き方改革が必要になってしまっている日本企業の激務状況は、グローバル化、ネット化、新興国からの脅威などから来るものです。どの会社の経営幹部も従業員も、まじめな人ほど自身とその家族の先行きを心配して、そのプレッシャーから働きすぎてしまうのだと思います。今の働き方改革が説得力にかけているのは、政治家の方々、経団連のトップが、価格競争により一夜で仕事が無くなるような厳しすぎる下請け企業の現実の感覚がないからだと思います。
 結論から言えば、職業訓練、転職支援など仕事を失っても市場競争に勝てる力を身につけられる職業セーフティーネットがしっかりしていないと、この問題は解決しないと思います。

 さて新年早々先行きが見えなさそうな問題をいくつか挙げましたが、こういった問題にどう取り組むかを考えたいと思います。

①    企業としてストレートに社会問題に取り組む

 まず前提として、私たちは企業や研究に携わる産業人の立場であるとして議論します。産業人の使命は、自由で革新的な事業活動を通じて人々の満足を得て、経済活動を永続化していくことです。先には5つの日本社会の問題を挙げましたが、冒頭で取り上げた通り、それらは国の特性に由来する現象の違いはあれども、世界の先進国の人に共通する問題です。とすると企業として取り組むべきことは、一技術、一製品のシェアアップ、売上アップを考えると同時に、むしろ優先してこのような「社会的問題」に関して取り組むべきではないでしょうか。なぜなら現代の消費者、ユーザーの本質的かつ潜在的ニーズとは、グローバル化、ネット化する社会の中で、安心して誇りをもって働けることだからです。
 社会的問題に取り組むにはいくつかの越えなければいけない壁があります。一つ目は、「課題設定型」の解決方法が通用しないことです。これまで日本のエリートと呼ばれた人は「与えられた課題を疑うことなく、それを忍耐強く処理する能力」で勝負してきましたが、それだけでは社会問題は解決しません。課題が何か、何を目的、目標にするかを様々なステークホールダーと会話しながらゼロから創発しなければなりません。それも終わりがない探求になります。
 二つ目は社会問題の本質がどこにあるのかを現場視点で鋭く切り込むことです。鋭い現場感覚が大事です。現場とは例えば、先にも挙げた過酷労働の現場、老人介護の現場、年頃の女性の結婚願望、地方に住む若者の夢などの事象が起こっている現場です。そこを押さえないと解決のエネルギーが湧いてきません。
 三つ目は社会問題を社会問題として解決するのではなく、産業人として経済合理性をもった仕組みで解決しなければならないことです。最近よく言われているエコシステムやビジネスモデルと言っても良いと思います。たとえば、税金を使っていたものを使わなくても良い仕組みにするなどといったことです。

②    日本で構想した社会システムをグローバルプラットフォームにする

 日本が直面している問題の本質は、置かれた環境こそ異なりますが、イギリス、ドイツ、フランス、米国など先進国共通です。また中国をはじめとする新興国も、いずれは同じ問題を抱えることになるでしょう。ここに日本企業のビジネスチャンスがあると思います。
 先に挙げたような5つの社会問題に取り組むにあたって、日本国内だけのビジネスとして考えるのではなく、先進国はもちろん、中国、インド、アジアなど新興国でも活用できるプラットフォームを見据えて取り組むべきです。そのためにはもちろん企業だけでなく、学術会、政府や行政、自治体、NPO等と共創して、広く多くの人や組織が乗れるプラットフォームを構築し、さらにそれを世界で皆が使えるルールにしていかなければなりません。具体的には、世界の誰もが参加しやすいように標準化、認証、規制などのルールを共有し、日本がリーダーとなりコンセンサスをとっていくべきと思います。その際に、個々の企業の独自の技術、サービスなどの知的財産が守れるような工夫も必要です。しかしそういったことも最初からグローバルプラットフォームの構築をリードすることを念頭に入れて進めていかなければ始まりません。特に今日の社会問題を解決する際には、IoT(Internet of Things;モノのインターネット)などの情報技術の活用を欠かすことはできず、情報セキュリティ等の面だけを考えても日本のみで通用する仕組みを考えても意味がありません。
 社会システムをグローバルプラットフォーム化するためには、いくつか踏まえておかなければならないことがあります。一つは、産学官だけでなく現場で働く人、最終受益者に対する強烈な問題提起とその解決思想としての高い理念を掲げることです。標準化や規制をはじめとするいわゆるルールメイキングは、現場作業や最終受益者を考慮しないテクニック論に走りがちです。まずは問題意識と理念をしっかり共有化しなければ、利害を調整しきれず、良い仕組み、制度はできません。二つ目は最終受益者の顧客提供価値を飛躍的に上げる構想を企画することです。これまでの顧客提供価値の1.5倍以下では、顧客に対してさしてインパクトはありません。2倍、3倍のベネフィットもしくはコスト低減、つまり顧客提供価値がなければ市場は変わりません。三つ目は市場構造、エコシステム・ビジネスモデルのイノベーションです。市場に参入するプレイヤーの顔ぶれが変わる、プレイヤー同士の関係性が従来とは全く変わる、情報の流れ、モノやお金の流れが変わるなど、エコシステム・ビジネスモデル自体が大きく変わらなければ市場は活性化しません。

③    コード化し、徹底してデータを集約し分析する

 社会問題を分析し、新たな社会システムを作る過程で、世界中の同様の問題点を抱える政府、行政、企業、NPO等と連携して、情報をコード化し徹底してデータを集める仕組みを作ることが戦略上重要です。IoTの時代では、データは富の源泉、かつての油田や鉄鋼石鉱山に相当する重要な資産です。データをいかに集められるかで勝負は決まります。データが集まるようになれば、効果的な問題解決を企画でき、それを使ったサービスも考えられて実証できます。実証ができれば、そのサービスを利用したいところが現れ、また新たなデータが入ってきて益々分析の精度が上がる・・・・。といった具合に良いサイクルが回り、企業や協業するコンソーシアム、そして社会システム自体が指数関数的に成長します。社会問題から社会システムを構想、コード化し、データ収集、分析、解決策というサイクルをつくれば、まさに世界をリードできるのです。

 ただし、コールドウォー(冷戦)からコードウォー(コード戦争)と呼ばれるように国家ぐるみでのハッキングも含めた情報セキュリティに対する対策は最重要課題です。この情報セキュリティ自身もまた巨大な産業となりつつあり、金融、軍事、医療等とあらゆる分野で大変重要な位置を占めるようになります。

 以上、世界のパラダイムシフトと日本の社会問題の関係をお話ししました。そしてその社会問題を閉じた問題としてとらえるのではなく、その問題を起点にグローバルなプラットフォームを構想しそのリーダーシップをとること、そこでデータを集める仕組みをつくり、世界中のデータを解析し、最新の解決策を作り続けることを提言しました。以上のことは特別なことではありません。モビリティ(自動車を含む輸送)、ロボット、スマートホーム、ヘルスケアなど、私たちの身近なテーマとなりつつあります。是非皆様のお仕事にお役に立てたらと思います。

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