生産財におけるグローバル・マーケティング戦略とは③
新商品・新事業開発「グローバル・マーケティング」
前回のコラムでは、下の図1のうち、「ポイント④:海外競合他社のゼロベースのベンチマーキングと事業として勝つ競争戦略」について紹介した(今回も多くのメッセージをいただき誠にありがとうございます)。
前回は記述しなかったが、競合他社とは常に競争するとは限らない。状況によっては、たとえ競合企業であっても協業することも考えるべきであるのは、国内でもグローバルでも同じである。
先進国企業が開発した高度な製品・技術と言っても、いずれは新興国メーカーに学ばれてキャッチアップされる。そしてローエンド市場での競合から始まり、次第にミドルエンドでも、というように、順番にシェアを取られていくものである。かつて米国企業は欧州に学び、日本企業は米国に学んだ歴史は周知のことである。
そのような競合するフェーズに入ったら、先進国メーカーとしては、新興国メーカーと競争ばかりするのではなく、その市場セグメントからは速やかに引くことも考えなければならない。いつまでも自社でローエンドをやろうとしてもコストで負けることになるからである。
その代わり、ローエンドやミドルエンドに入ろうとする新興国メーカーの一部とアライアンスを組むことが考えられる。そうすることで、付加価値の高いコア技術・部品を提供することによって、ライセンス料やロイヤルティを得るビジネスモデルに転換することができる。自社が提供するコア技術・部品の単価を高く維持しつつ、パートナーである新興国メーカーが自社の技術・部品を採用した製品を大量に販売してくれれば、高い利益を期待できる。
できればこのようなビジネスモデルの転換は、市場や業界、技術トレンドを先読みし、先回りして待ち構えておく。パートナーとなりうる企業が小さいうちに、有利な契約を締結することが望ましい。新興国の競合企業にシェアを奪われてから交渉したのでは遅い。足下を見られるだけである。
アライアンスによってローエンドおよびミドル市場を牽制する一方で、自社はさらにハイエンド製品の開発や、さらに新しい国や産業に向けての市場創出をアグレッシブに行い、新しいイノベーションを創出し続けるという戦略は、生産財メーカーの基本戦略の1つとなるだろう。
さて、生産財におけるグローバル・マーケティングの7つのポイントについて紹介をしてきており、今回は「ポイント⑤ 生産財におけるグローバル・ブランド戦略」である(図1)。
ブランド戦略というと消費財メーカーの行う戦略という認識が一般的に生産財メーカーにはあるかもしれない。なぜなら、顧客企業は購買の意思決定を合理的判断に基づいて行っており、そこでは機能や価格などが重視され、ブランドイメージのような主観的な要素は関係ないはずだという認識があるからであろう。
しかし、特に近年、生産財メーカーにおいてもブランド戦略は重要となってきている。顧客企業の購買担当者は、製品の内部まで詳細に理解できているわけではない。特に近年の背景として、1つの製品を作りあげるのに多種多様な部品・材料があり、それらの技術革新スピードも早く、ますます高度化していくという点がある。
顧客企業はサプライヤーの提供する生産財がどのようにして開発・製造されたのか、その中身の技術に関して知識を充実させている余裕はない。むしろ何も知らないケースが多いかもしれない。その場合、サプライヤーの過去の実績に基づく認知度やイメージ、評判といったブランドが考慮されることになる。過去そして現時点でどの程度、そのサプライヤーが実績を挙げてきているのかを見ているのである。
なにか品質上のトラブルがあったときでも、きちんと逃げずに対応してくれるのかなどは重要な判断材料である。ブランド力がある企業であれば、購入後のリスクは心配する必要が減り、購買の意思決定に関わる関係者を説得しやすくなる。
生産財におけるグローバル・ブランド戦略は、特に顧客が国・エリアをまたぐグローバル企業の場合重要となる。顧客がグローバルに展開している場合、顧客企業内ではグローバルレベルでコミュニケーションを取っており、人材も物理的に移動を繰り返している。このような場合、生産財メーカーがグローバルに展開していたとしても、展開する国・エリアごとに異なるマーケティング活動を行い、顧客企業の拠点間において異なるブランドイメージが形成されると、国をまたいで活動している顧客内の担当者は矛盾を感じることになる。もちろん多少は国・エリアごとにカスタマイズされる部分があってもよいが、コアとなるブランドイメージに矛盾があると顧客は不信感をいだき、購買を躊躇するリスクがある。長期雇用を前提とした日本と異なり、転職が頻繁にある海外である。その上で大きな組織再編が連続的に行われると、購買担当者も頻繁に変わることになり、ほぼ素人のような購買担当者が来るかもしれない。
このような生産財におけるグローバル・ブランド戦略の重要性は、顧客企業が鉄鋼や食品、石油、化学などのように規模の経済の働く業界で、クロスボーダーでM&Aが進行し、グローバル企業が短期間のうちに出現するような場合に特に際立ってくる。購買担当者が短いサイクルで変わる可能性が高いからである。そのようなときに、安心して購買を意思決定できるブランドの役割は大きい。
次回コラムでは、「⑥ビジョナリーな顧客企業を巻きこんだ未来シナリオ構想」について紹介したい。