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生産財におけるグローバル・マーケティング戦略とは②

ニューチャーネットワークス 取締役 シニアコンサルタント
福島 彰一郎

新商品・新事業開発「グローバル・マーケティング」

 今年に入ってから延べ半月以上シンガポールに滞在しており、現地で多くの企業と情報交換することができた。多くの日本企業がシンガポールを含めて東南アジアに展開しているが、現地法人と日本の本社組織の連携が十分に取れていない、というケースをよく耳にした。
 本社組織は現地法人の営業・マーケティング活動の実態を理解できておらず、一方で、現地法人は本社組織における製品・技術開発の取り組みを十分に把握していない、という構図である。その結果として、国内組織の理解が及ぶ範囲で企画・開発した製品を東南アジア市場に持って行っても、スペックや価格が顧客ニーズに合わず売れないといことが起きている。
 最近、弊社へのコンサルティングの依頼として、グローバルを含む事業開発の仕組みづくりの相談を受けることが多い。シンガポールで様々な企業からの話を伺ったことで、現地の事情をよく知っている現地法人を、企画・開発といった上流段階から参加させる取り組みも、事業開発の仕組みづくりに必要であることを実感させられた。
 
 さて前回のコラムでは、生産財におけるグローバル・マーケティングの7つのポイントを紹介し、そのうち前半の3つについてそれぞれを説明した(図1)。今回は、「ポイント④ 海外の競合他社のゼロベースのベンチマーキングと事業として勝つ競争戦略」について説明したい。
 
 
 
 有望な顧客には、競合他社も当然アプローチしてくる。その場合、競合他社以上の顧客価値を提示して差別化を行う。
 生産財メーカーは差別化というと、製品スペックや価格、技術、特許にフォーカスしがちである。しかし、製品スペックだけ勝っても仕方なく、事業として勝つことが重要である。そのため事業レベルでの競合ベンチマーキング分析が必要となる。
 そして海外の競合他社の場合は、事業レベルの分析を「ゼロベース」でベンチマーキングすべきである。同じ業界なのだから国内の競合とビジネスモデルはそれほど変わらないだろう、という先入観は持たないほうが良いということである。
 例えば、次のような国内大手機器メーカーの事例がある。
 日系の大手機器メーカー(以下、「日系A社」と呼ぶ)は中国市場に参入するために中国の現地企業(以下、「中国系B社」と呼ぶ)とアライアンスを組んだ。中国市場では、日系A社はハイエンド製品を販売し、中国系B社はミドル、ローエンド製品を販売するという棲み分けで、日系A社は中国系B社にコア部品を供与し、B社は両社向けにその他の各種部品・材料を低コストで調達・生産をするという役割であった。
 両社にとってwin-winのアライアンスであったが、日系A社としてはアライアンス締結後、相手と一緒に仕事をしてみてから判明したことも多かったという。特にビジネスモデルの違いについては大きく認識を改めさせられたとのことであった。
 一点だけ紹介すると、中国系B社は製品組み立てに必要な部品・材料の代金を、「2年間」もの間、サプライヤーに支払わないというのである。先進国であれば下請法違反で十分訴えられるような長さの期間であるが、当時中国ではそれがビジネス慣習として通っていたのだという(今もそうかもしれないが)。
 2年間も材料費を支払わない一方で、自社の製品は売上を回収していた。この仕組みによって、手元には豊富な資金が残ることになる。その資金を本業以外の各種投資にまわし、2000年代の中国の二桁成長のトレンドを背景に、キャピタルゲインを上げていたのだった。その結果、最終的な利益である当期純利益が膨大になり、それをまた大規模投資にまわすのである。
 日系A社は、中国系B社がそのようなビジネスを行っているとは交渉段階では分からず、アライアンスを組んで頻繁に交流していくうちに分かったという。この事例は一つの話であり、海外企業は多様なビジネスパターンで攻めてくると思っていたほうがよい。つまり、ゼロベースでのベンチマーキングが必要なのである。
 海外の場合は、国内以上に競合の情報は収集しにくいかもかもしれないが、それは相手にとっても同じことである。本社や現地法人における各組織が連携して相手企業の情報を収集・分析する「ビジネスインテリジェンス機能」を持つことが、海外競合に対して優位性を持つためには重要となる。
 
 次回コラムでは、「ポイント⑤ 生産財におけるグローバル・ブランド戦略」について紹介したい。

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