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トップの意思決定力と現場力を同時にレベルアップさせる方法はないのか?

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

組織パフォーマンス向上「グローバル・ビジネスリーダー」”

■アベノミクスで忘れ去られようとしていること

アベノミクス効果で、企業の今年度決算予想の上方修正が相次いでいる。東日本大震災から1年たった昨年の今頃のことを考えると、同じ国の企業なのかと思うほど業績が良くなってきている企業も多い。私たちはこの機会に、気を緩めることなく新たな成長を図りたいものである。
今、もう一度反省し、議論しておかなければならないことがある。それは、ここ数年あるいは十年以上の企業業績の悪化の原因が、トップマネジメントの戦略構想力にあったのか、それとも現場の戦略実行力にあったのかということである。この問題をしっかりと認識し、変えるべきことは変えるということなしに単に円安で企業業績が回復したという話は、将来において大変危険であると私は思う。

■致命的なトップマネジメントの戦略ミスはなかったのか?

特定企業の名前を挙げるのは避けたいが、電機業界の企業が長期に亘る業績悪化により会社存続の危機に陥ったのは、明らかにトップマネジメントの戦略ミスと言えるのではなかろうか。もちろんそれぞれのトップも過去からの負の遺産を抱えた経営であり変革はそう単純な話ではないが、市場分析の甘さ、特定事業への過剰投資、競合分析の欠落、意思決定スピードの遅さなどは、明らかに致命的ミスであったと言える。
この点について、井上久男氏の『メイド イン ジャパン 驕りの代償』(NHKブックス、2013年)では、大手電機メーカーから大手新聞社の産業部へ転身した著者が、家電や自動車という日本を代表する業界に対して鋭い分析と苦言を呈している。意思決定の失敗を繰り返したり、そのために大量のリストラを行ったりしたにもかかわらず、経営者がいまだに顧問などの役職で会社に残っていることを厳しく指摘している。
リストラの犠牲となった当事者の方たちの苦しみを考えると、誰が考えても、それは許されることではない。経営責任とはいったい何なのだろうかと強い憤りを感じる。トップマネジメントの戦略ミスという問題に関しては、景気が回復しつつある今、産学かけて十分な敗戦分析が必要である。

■現場の実行力は確かであるか? 新興国に勝てるか?

一方で、これまで日本経済を支えてきた企業の現場であるが、現場の戦略実行力に問題はなかったのであろうか? コンサルティングの仕事をする中で、下記の様な話を頻繁に聞く。
・詳細な計画を策定し、確実に実行するが、環境変化に対して柔軟性がなく、そのまま突っ走ってしまう。
・難易度の高い課題を多く掲げすぎ、優先順位もつけず、どのプロジェクトも投入資源不足で、納期遅れを起こし、結果として競合にスピードで負けてしまう。
・全体の戦略を理解することなく、自分の組織の利益を優先してしまい、組織目標は達成していても、会社全体の目標は達成しない。責任は自分にないと考える。無責任体質が広がる(全体最適の欠如、個別最適優先)。
・仕事に対して受け身になることが多い。毎日、毎週、過去よりもより良くなろうという意欲が低い。やらされ感が強い。意欲と成長力で新興国の競合に負けている。
これらの問題の多くは、トップマネジメメントの意思決定が起因していると思われるが、現場特有の問題とも言える。戦略実行の現場もまた変わらなければいけない。

■トップの意思決定力と現場の実行力の同時レベルアップ

上記のような問題はあるものの、企業において、ミドルマネジメントが「詰まるところ経営トップの問題だ」という結論を出してしまったら、なんの発展もなくなってしまうだろう。たとえトップの意思決定力が不十分な場合であっても、“強い体質の経営“を構築しなければならない。
弊社ニューチャーネットワークスでは、6年前から“強い体質の経営”を“創発型経営”と呼んで産業界や学会の方々と研究し、また100を越えるコンサルティングの現場で実践してきた。
“創発型経営”のポイントは、まずトップマネジメントが大きな方針を示し、それを受けて組織横断的で多様なメンバーが戦略アイデアをもう一度ボトムアップし、そしてトップマネジメントが関係者を巻き込んで意思決定をする、という一連の意思決定の流れである。
この意思決定に従って、現場でその戦略アイデアを実際に実行してみる。少なくとも毎週、もし可能であれば毎日、プロジェクトの進捗、結果をトップと共有する。毎週、毎日の状況を共有することで、トップマネジメントは自分の意思決定の成功または失敗に気づきやすくなり、次の意思決定にそれが瞬時に反映されることになる。意思決定の精度が上がれば現場の成果も出やすくなり、結果として組織は変化に対し敏感になり、競合と比較して極めて高い機動力を持つ組織に成長する。
日々の現場の実際の状況をトップが「学習する場」を設け、また現場がトップマネジメントから「広い視点のものの見方を学ぶ場」、さらには必要に応じて「権限を勝ち取る場」を設ける。このようにしてトップの意思決定力と現場の実行力を同時にレベルアップさせるのである。
ニューチャーネットワークスでは、前段の戦略意思決定までを“中期計画ワークショップ“戦略ワークショップ”、後半の現場のボトムアップとトップダウンの一連の活動を“ブレークスループロジェクト”とよび、日本国内はもとより海外においてもコンサルティング活動を行っている。

■変化する事業環境への現場での機動的な対応

ここでよく問題になるのが、一度企画した戦略を修正する場合である。これまで多くの企業では、一度立てた中期計画や予算計画などの計画を、環境が変化したとしても計画管理期間内は変更しないことが多かった。しかし現在のように毎日、毎月、多くのことが変化する環境においては、計画期間内といえども、柔軟に計画を変更し行動を変えなければならない。
重要となるのは、目標やビジョンはしっかりと守ったうえで、実行シナリオを柔軟に変更する経営スタイルである。実行シナリオを柔軟に変更することとは、挙げられた課題解決の優先順位を変えたり、新な課題を付け加えたり、思い切って外したりすることなどである。
現実的には、大きな戦略ビジョンや目標を達成させるための個別の戦略プロジェクトの優先順位の見直しを行い、資源投入の変更を行うことである。このような見直し検討は、月に一度、トップマネジメントも入れて行うべきであろう。このような環境変化を先取りした組織ダイナミズムこそ、競争力なのである。

アベノミクスで少しは景気も良くなった様な気がするが、膨大なルールとその管理業務の多さで、多くの日本企業はまだ硬直的なままである。「カンフル剤が切れればまた同じ」とならないようにしたいものである。

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