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自立した組織・個人のネットワークがグローバルマーケティングを成功させる

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

■地域統括会社設立はグローバルマーケティングの一つの形でしかない
 
 ここ数年、中国、アジアはじめ新興国などで地域統括会社をつくる企業が多く見られる様になった。これまで、事業別、機能組織別で海外拠点を展開していた 組織を統合するために、地域別に統括する会社を設立し、同時に地域でのマーケティングを強化するという狙いであろう。日本国内の市場が伸び悩む中、かつて コスト志向で進めた海外拠点戦略を収益拠点に変えるために、「マーケティング・営業を強化していくこの機会に、地域統括会社を設立した」という会社が多い のではなかろうか。
 
 中国、アジアはじめ新興国を収益対象にするために地域統括会社を設立すること自体は、日本企業にとって一つのステップであり、評価されるべ きことであろう。しかしグローバル競争の中では、地域統括会社は一つの形であり、ゴールではない。また地域統括会社を強化することが、真のグローバル経 営、グローバルマーケティングにつながらない可能性さえあることに注意しなければならない。

 

■グローバルマーケティングとは極めて複雑な戦略である
 
 ビジネスやマネジメントをグローバル展開する際には、通貨・税・法律などの制度、商習慣、言語、ライフスタイルや価値観などの文化、政府のビジネスへの 関与度合いなど、国内とは異なる、実に複雑なことに直面する。事業展開する国の数が多くなれば、その複雑性はかなり増す。
 
 しかし意思決定が仕事の大半を占める企業経営者やシニアマネージャーは、つねに物事をシンプルにしておこうという欲求にかられる。それは多角化経営でなく単事業であっても同様である。
 
 問題は、グローバル化とは複雑化に向かうことを十分に認識していないことにある。その複雑性を理解する能力を身につけないまま、一国内でのビジネスをスライドさせた発想でグローバル展開をしようとすると失敗の恐れが高まる。
 
 日本市場、欧米市場といった程度の複雑化にはこれまで対応できていたとしても、法制度が十分でなく、所得格差が大きく、宗教や文化が先進国と異なる新興 国となると複雑さは一気に爆発する。確かに「地域の多様性に対応していく」という点で、地域統括会社は一つの重要な戦略である。しかし併せて考慮しなくて はいけないのは、事業経営の多様性は地域だけではないということだ。「地域組織軸」に加え「機能組織軸」「事業組織軸」もある。
 
 「機能組織軸」とは、研究開発、商品企画、設計、製造、物流、マーケティング、営業などを指し、技術、スキル、ノウハウなどで競合との差別化をはかるた めに高度な専門性を追求し、それ維持伝承する組織軸のことである。「事業組織軸」とは、顧客、製品、カテゴリーなどで分けられ、収益で業績を管理する組織 軸である。いわゆる多角化された企業とは、事業組織を多く持つ。
 
 グローバル化においては、多種多様な市場特性を理解する「地域組織軸」を考慮した上で、他社に対する自社の強みを地域展開出来る様に「機能組織軸」「事業組織軸」の個々の要素を最適にマネジメントしなければならない。
 
 具体的には、「機能組織軸」であれば、どの製品をどこで企画し設計するべきか。生産はどの地域の生産拠点で行うべきか。マーケティングではグローバル共 通の部分を持つべきか、あるいは地域別にするべきかなどである。「事業組織軸」であれば、どの事業をグローバル展開するべきか、もしくは展開しないか。グ ローバル展開するとしたらどの地域で行うべきか、その場合何を強みにすべきか。現地企業とのアライアンスは行うべきかどうか。さらには事業横断的なソ リューションビジネスを行うべきかなどである。
 
 「地域組織軸」だけを強化しすぎると、経営資源が分散し、管理の範囲を超え、企業の持つ強みが薄れ、地域に強みをもつ地元企業や、巨大でありながら柔軟 なグローバル企業との競争に敗北する可能性がある。その原因はたとえば、機能組織の重複や弱体化、製品、カテゴリーブランドなどの希薄化、製品コンセプト 力の低下、収益単位の不明確化などであろう。
 
 重要なのは、物事を単純に考え過ぎて地域統括会社など「地域組織軸」だけにシフトすることの無いようにすることである。「機能組織軸」「事業組織軸」を合わせた3軸でのグローバル化、グローバルマーケティング戦略を構想することが必要である。

 

 

■前提となる2つの認識「ネットワーキング」と「組織、個人の自立」
 
 これまで述べてきた通り、企業のグローバル化、グローバルマーケティングとは「地域組織軸」「機能組織軸」「事業組織軸」の各要素の「複雑さ」をマネジ メントすることそのものである。その「複雑さ」をマネジメントするために、我々はどの様な前提認識、パラダイムを持つべきなのであろうか。大きく二つの認 識が重要である。
 
 一つ目は、グローバル化、グローバルマーケティングとは、複雑で多様な「ネットワーキング」であるという前提認識を持つことである。「ネットワーキン グ」とは、地域組織、機能組織、事業組織の個別要素が、複雑な相互関係を持ち、その関係性から様々な価値を創発することを意味する。様々な組織要素の関係 性からの価値創発とは、トップダウンでの指示命令がなされて組織が機能するのではなく、事業全体として大きな方向性が出されたうえで、それを各組織が受け 止め、自発的に関係を創発していく、共創、創発型の組織運営となる。共創、創発型の組織運営では、すべてが自由ということではない、目標や戦略ビジョンが あり、ある程度のルールや制約条件があり、その中で方向が決まっていく。
 
 日本の本社ですべてを決定し、その決定に地域が従うという「コマンド&コントロール型」の組織パラダイムでは、今日の様にスピーディーでダイナミックな グローバルの環境変化をリードすることは不可能である。多様な社内組織、さらには社外とも価値の共創、創発が行える組織パラダイムに変革するべきである。
 
 二つ目は、価値共創、創発を支える「組織、個人の自立」である。企業において自立とは、収益に貢献するということである。収益に貢献することとは事業を 直接行っているということだけを指すのではなく、スタッフなどの間接部門であっても企業の収益と結び付いていることを意識し、個としての競争力を持つこと である。 
 
 組織、個人の自立とは、自らが全体の成果達成を意識したうえで、ミッション(役割)や目標を創造し、収益への貢献を自らが説明できることである。グロー バル化、グローバルマーケティングにおいて、そのミッションや目標、貢献領域は、常に流動的である。組織の上下、左右、さらには外部に対し各組織や個人が 絶えず注意を払っていなければならない。また組織や個人の「個性や強みが明確」で、自らそれを活かそうとする「自発性」がなければいけない。その上で、 個々の組織や個人が利益に貢献していることをはっきりと示すことができなければ、企業内における存在意義はない。そういった厳しい自己責任のもとに「自 立」という概念がある。
 
 実際の企業の公式の組織構造は、ヒエラルキー(官僚構造)組織であったり事業と機能組織のマトリックス組織であったりするが、グローバルな多 様性の中での組織形態と組織運営の本質とは、「ネットワーキング」と「組織や個人の自立」と言える。この二つの前提認識なしにはグローバルでの経営は不可 能であろう。事業特性、市場特性によって度合いは異なるものの、GE、ネスレ、P&G、ユニリーバ、IBM、日産・ルノー、HP、Google、 Appleなどの発展するグローバルの企業の組織構造とそのマネジメントの本質は、まさにこの二つのパラダイムであると言える。

 

 

■組織のDNA(共通価値基準)の共有とグローバルマーケティング戦略ビジョンの構想
 
 グローバル化という多様性、複雑性の中で、「ネットワーキング」と「組織や個人の自立」を成果に結びつけるもの、それが継続的、普遍的な組織の価値であ る「組織のDNA(共通価値基準)の共有」と、当面のあるべき姿やゴールである「グローバルマーケティング戦略ビジョン」である。
 
 先に挙げたGE、ネスレ、P&G、ユニリーバなどの企業が最も重視することは、複雑なグローバル組織を「組織のDNA(共通価値基準)の共有」 で束ねていることである。詳細で緻密な計画や組織間の調整、情報共有などに配慮する一方で、その施策や管理の原点になっている「組織規範」「組織価値基 準」を明確にして共有することで、各組織の複雑な要素を柔軟かつスピーディーに、価値共創・創発に結び付けるのである。
 
 「組織のDNA(共通価値基準)の共有」は、それぞれの組織や個人の主体性を刺激し、同時に、企業という組織としての大きな成果への挑戦とそのための有 機的な連携を促す。各組織や一人ひとりの個人の意識に積極的に働きかけることで、組織の壁を越えた創造的な連携が可能になる。「組織のDNA(共通価値基 準)」は、組織構造設計、リーダーシップ、モチベーション、人材の選抜・配置、ローテーション、人材育成を通じて、実践され体質化される。
 
 一方「グローバルマーケティング戦略ビジョン」とは、各地域、さらにはグローバルという複数地域を舞台として、具体的な顧客、競合、業界構造、市場環境 などとの関係を考慮したうえで、自社のどの様な強みを活かして勝ち抜いていくのかを構想することである。3年、5年といったある時間軸で、あるべき姿、 ゴールを設計する。
 
 では、「グローバルマーケティング戦略ビジョン」は誰が構想すべきなのであろうか。日本本社の経営トップであろうか。確かに意思決定者は必要である。し かし各地域、さらにはグローバルという複数地域全体を舞台にマーケティング戦略構想を企画するのであれば、多様な地域のメンバーのネットワークで議論され るべきである。
 
 経営企画部門や経営トップが聞き取りを行い、一部のスタッフで戦略を構想するだけでは、グローバルマーケティング戦略を構想することは出来ない。グロー バル規模での主要なメンバーを一同に集め、クロスファンクショナル、クロスエリア、クロスビジネスユニットで会社全体の「グローバルマーケティング戦略ビ ジョン」を創発する必要がある。もちろん、大きな方針の提示と最終的な意思決定は経営トップが行うべきであろう。しかし、グローバルで多様なメンバーが集 まって戦略を構想する「グローバルマーケティング戦略会議」は、年間で少なくとも二回は行われるべきである。それは単なる情報交換や楽な海外出張であって はならない。真剣勝負のグローバルマーケティング戦略の企画構想の場であり、意思決定の場でなければならない。
 
 さらにそのグローバルマーケティング戦略の企画構想や意思決定は、何の下準備もなしに行うのではなく、競合他社のベンチマークや各地域の顧客 分析、あるいはグローバルアカウントの戦略分析など、精緻なマーケティング・インテリジェンスをベースに行うべきである。そのためには市場調査の方法、戦 略フレームワークを共通言語化し、使いこなせなければならない。

 

■地域統括会社を効果的に活かすには
 
 冒頭に挙げた地域統括会社は、先に述べた「組織のDNA(共通価値基準)の共有」と「グローバルマーケティング戦略ビジョン」が前提に無くてはその効果 は発揮出来ない。地域統括会社も、その中の個別事業や機能組織部門もまた、グローバルな企業ネットワークとの相互関係を持っているからである。
 
 「グローバルマーケティング戦略ビジョン」を企画するには、各地域組織、機能組織、事業組織などの多様なメンバーが集まり、「戦略を創発する場」を仕掛 けることが何よりも大切である。議論の落としどころを細かく想定しておくことは無駄である。むしろ想定を越えた、イノベーティブな戦略アイデアを創発する ことが意義のあることであろう。
 
 グローバルマーケティングを成功させるには、地域統括会社などの組織構造だけでは不十分である。企業としてのDNAを明確化したうえで全社的 に浸透させ、自立した組織や個人を創ることが前提となるのである。重要なのは、グローバルの複雑さを認識したうえで、多様なネットワークから新たな価値を 生み出す仕掛けである。それがあって初めて、地域統括会社などの組織も活きてくるだろう。

 

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