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グローバル・マーケティングにおける「共通化戦略」と「カスタマイズ戦略」

ニューチャーネットワークス 取締役 シニアコンサルタント
福島 彰一郎

新商品・新事業開発「グローバル・マーケティング」

 2012年は国内市場の「六重苦」を背景に、製造業の海外M&Aが活発であった。今後も、自民党の新政権が主導する金融緩和によって、企業の資金調達はますます容易になる。グローバルでの成長を志向する企業が、潤沢な資金を海外M&Aに活用しようとする流れはまだまだ続くだろう。
 しかし、海外に活路を求めるために行動を起こしても、それが事業としての実を結ぶかどうかは定かではない。戦略をともなった行動でなければならない。特に国内とは勝手の異なる海外市場向けのマーケティング戦略が重要であることは異論を挟まないであろう。
 そこで今回から数回にわたり、グローバル・マーケティングの考え方を紹介していきたい。

1.グローバル・マーケティングとは

 グローバル・マーケティングとは、国内市場も世界市場の1つととらえて、国境を越えたマーケティング戦略を構想し、意思決定し、行動する組織活動である。そこでは国内市場と海外市場という区別ではなく、日本国内も一つの市場であり、「日本市場」という言い方になる。
 国を超えて海外でマーケティングを行うときの特徴は何であろうか。それは、そこに「差異」が生まれるということである。差異とは、①文化的差異、②制度・政治的差異、③地理的差異、④経済的差異の4つである。
 文化的差異の要素は、生活習慣や嗜好などである。食品やファッションなどは文化的要素の影響を受けやすい。一方、素材や電子部品などの生産財は顧客が企業であるために文化的要素の影響は小さい
 制度・政治的要素は、国の法制度や政治、政策などの要素である。社会インフラや軍事、天然資源のように国家レベルでの戦略的な役割が大きい産業は、制度・政治的影響を受けやすくなる。
 地理的差異は、気候や輸送距離・コストなどの要素である。鉄や銅などの製品の体積に対して付加価値の小さい製品は輸送コストが影響する。
 経済的要素は、その国の労働賃金や生活者の可処分所得などの要素である。生産工程が労働集約的な組立加工などの場合、労働賃金の低い国で工場が建設される。また可処分所得が大きければ、付加価値の高い耐久消費財が売れるようになり、先進国企業にとって事業機会となる。
 グローバル展開ではこのような「差異」が必ずあり、差異へ対応、あるいは差異の積極的利用を図った戦略を工夫することになる。

2.共通化戦略とカスタマイズ戦略

 2012年8月のコラムで紹介したとおり、グローバル・マーケティングのポイントは、共通化戦略とカスタマイズ戦略である。なお学術的には「標準化戦略」「適合化戦略」というが、技術の「国際標準化戦略」と混合しないように上記のように表現している。
 国を超えると「差異」が4つありうると前の段落で紹介したが、国ごとに別々の製品を企画・開発し、生産・販売していたのでは、現地企業に対して圧倒的な差別化ができない。できるだけ国を横断して同じ製品を企画・開発・生産したほうが、製品1つあたりのコストが下がる。「規模の経済」が働きコストが低下するからである。
 またA国おいて成功した製品はB国でも上手くいくかもしれない。A国の製品をトランスファーして、B国の製品と組み合わせて販売すれば、顧客ニーズへの対応力も向上し売上増加が期待できる。「範囲の経済」が期待できる。
 企業としては、できるだけ国を超えても同じ取り組みをする、共通化戦略をとりたい。しかし、現実的にはなにかしら「差異」が発生し、個別対応せざるをえなくなる。カスタマイズ戦略が必要となる。共通化戦略とカスタマイズ戦略の特徴としてベネフィット、デメリットをまとめると次のようになる(図1)。
 
 

3.品揃えの共通化モデル

 共通化戦略とカスタマイズ戦略と言ったが、ターゲットとする市場は日々変化している。当初のマーケットリサーチの結果、国横断的に売れる共通製品があまり見出せなかったとしても、一人あたりGDPが増加したり、他国との人・情報の交流が活発化したりすると、生活者のライフスタイル・ニーズが均質になり、国横断的な共通製品が以前よりも見いだせるかもしれない(図2)。

 

 さらに進むとどの国でも共通に売れる「グローバル共通製品」もでてくるかもしれない。見方を変えると、国に関係なく同じニーズをもつ「グローバル・コンシューマー」の登場ともいえる。
 品揃えの共通化モデルの事例としては、「イケア」の戦略が参考になる。スウェーデンのイケアは家具を販売しているグローバル企業で、売上規模は330億ドル、38ヶ国で332店舗となっている (2011年)。日本も進出しており、イケアのファンも多い。
 イケアの事業の特徴は「世界で使ってもらえる民主的デザインをする」ことである。この方針は「デモクラティックデザイン」と言われ、世界の共通トレンドを元に、デザイン性に優れた製品ラインナップを企画・設計しつつ、富裕層だけが購入できる高級品でなく、世界の多くの生活者が購入できる低価格、つまり民主的(デモクラティック)な企画・設計をするのである。
 優れたデザインをしつづけるために、毎年、製品共通のテーマをきめて市場調査・企画をしている。2009年のテーマは世界各国で様々なライフスタイルや感性があることに着目し、テーマを「ダイバーシティ」と設定した。2012年のテーマは都市化が世界中で進むことが予想されるため、「狭い空間での生活」と設定している。
 例えば、この「狭い空間での生活」では、そのテーマで「最先端」である東京で調査・分析を行ったという。その分析結果をもちかえり、デザイン性があり且つ低価格で、世界の多くの生活者に受け入れられる共通製品を企画・開発し、大量生産を行い、世界に販売していく流れをとっている。
 ただしローカルに完全にあわせるのではなく、必ずスウェーデン流の暮らし方を提案するという原則は変えていない。「らしさ」に一貫性をもたせて、コーポ-レートブランドをつくっていくというポイントも押さえている。そのため、日本のイケアにいっても、決して「畳」は売っていない。そこまではカスタマイズしないのである。
 このような各国の市場・社会変化を先読みして、共通製品と周辺製品を目利きし、自社としてのマーケティング戦略を先手を打って行い、顧客の所得やニーズ変化が追いついてくるのを待つ。先回りの戦略が望ましい。

4.「共通化戦略」と「カスタマイズ戦略」のサイクル

 共通化戦略とカスタマイズ戦略は表裏一体の戦略であるが、双方をサイクリックに連携させていく観点が重要である。
 今まで国内だけで事業を行ってきた企業が初めて海外のA国に展開した場合、海外ビジネスのノウハウなどないから、A国で試行錯誤を行いながら製品・事業を立ち上げることになる。その過程で海外展開におけるマーケティングやマネジメントノウハウも獲得できる。そのノウハウが優れた普遍性のある内容であれば、A国からさらにB国、C国に展開を広める際に活用できる。そのようにしてそのノウハウがB国、C国でも通用し、事業成果が出れば、そのノウハウはA国におけるカスタマイズのノウハウではなく、国横断的に適用できる共通化されたノウハウになる。
 そのようにしてノウハウが共通化されて普及していくと、オペレーションの効率が高まり、新しいチャレンジもできる。そしてそこから、新しいノウハウが生まれる(図3の左)。
 
 

 これを時間軸でみると図3の右のようになる。A市場に当初、代理店を通じて輸出していたのが、ある程度売れることがわかると販売会社を設立することになるだろう。さらに売れるようなら現地で生産したほうが低コストになり、関税の障壁を越えることにもなる。さらに開発機能ももち、事業としての進出まで進化する。それと平行して、A市場でノウハウが蓄積されれば、五月雨式にB市場、そしてC市場に展開する。
 この取り組みでグローバル展開を図ってきた企業としてはキッコーマンが有名である。始めは米国市場向けに展開し、そこで日本特有の「醤油」をいかに現地の食生活・環境に合わせるかというマーケティングを行い、製品、プロモーション、流通といったノウハウを蓄積した。そしてそのノウハウをマーケティングの標準化プロセスとして、欧州や豪州に移転、全体としての規模の経済を実現していったのである。
 
 今回は、グローバル・マーケティングの考え方として、共通化戦略とカスタマイズ戦略の組み合わせを紹介した。次回以降は、グローバル・マーケットリサーチ、製品・サービス、価格、広告プロモーション、販売チャネル戦略などのポイントについて紹介していきたい。

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