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形骸化したビジネスリーダー研修をいかに立て直すか

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

単なる惰性となっているビジネスリーダー研修の現状

 10年ほど前から日本企業でも将来の経営幹部候補を選抜し、育成するビジネスリーダー研修が盛んです。しかし現在その実態を見ると、当初の目的がすっかり忘れ去られ、毎年形だけが繰り返される惰性としての研修に陥ってしまっている会社が多いように思えます。ビジネスリーダー研修が本来の目的を忘れ形骸化されている会社は以下のような特徴の問題があります。

  1. 次世代の経営幹部候補育成と言いながら実際は階層別研修に近いものになっており、選抜の緊張感がほとんどない。所詮人事は部門人事で、全社の経営人材の選抜とそのストックという発想がない
  2. 研修終了後、新事業開発、経営変革などに挑戦する機会が与えられず、結局元の部署で同じ仕事をするので、真のリーダーシップを鍛える場はない
  3. アクションラーニングのテーマが研修生任せで、経営トップの意向が反映されていない。結果として想定範囲内の提案となり、経営にインパクトがない。トップの期待外れとなってしまっている
  4. 一流大学や伝統あるマネジメント団体の講師を起用するものの、講師が経営戦略、事業戦略などの経験、知見不足で、経営トップへの提言の質が一向に上がらない
  5. 提供される戦略やマネジメントの知識がMBAの一般論で、実践的でない。研修生は実践的な知識があたえられないまま、難しいテーマを検討させられ、壁にぶつかる

   
ビジネスリーダー研修の問題の本質とは

 ビジネスリーダー研修の形骸化の問題の本質には、日本企業の経営の問題そのものが存在するように思えます。
 一つは、役員などの経営幹部の選抜は、部門間のパワーバランスの中で、選抜される部門対抗戦の様なものであることです。その根底には、部門組織を一族一家に見立てた部門組織主義があります。部門代表者として役員になった人は、部門経営はできますが、多くの事業と機能をマネジメントすることはできません。45歳位で役員になるのならばまだ可能かもしれませんが、60歳近くになって組織横断的な経営感覚を身に着けるのは現実的ではありません。
 このような背景から、選抜される研修生は部門の幹部候補であり、全社経営幹部の候補ではありません。ビジネスリーダー研修後に、優秀な研修生を部門移動させようとすると出身部門から人事部に厳しい非難が寄せられます。たとえ一旦既存の部門を離れたとしても、長くて2年でまた元の部門に帰ってくることが多いようです。
 二つ目は、日本の企業は安定的に確実に業績を出す人を重視する傾向が強く、過去に全く経験のないような不確実な状況の中で挑戦する人はあまり評価されません。したがってビジネスリーダー研修で、グローバルに渡る経営環境の大きな変化を理解し、自社の成長がいかに難しいのかを実感した上で、経営変革に挑戦しようとしても、周りから浮くことになり、実践することはできません。かえって人事的には不利になります。2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災を、企業変革ではなく、企業の成長を犠牲にした目先の業績向上のリストラだけで乗り越えてきてしまった会社には、挑戦する人ではなく、縮小均衡の調整型の人だけが管理職として登用されている傾向が強いのです。したがってそのような環境では、ビジネスリーダー研修を受講して成長のための経営変革意欲に燃えても、元の調整型にもどるしかないです。
 三つ目は、先の二つの問題の本質をまとめたようなものですが、経営幹部、人材育成部門そして受講者、さらには指導する講師が、経営理念、経営戦略ビジョンを起点に、経営幹部人材育成を考えていないことだと思います。「当社は何のためにこの事業を行うのか、どのような戦略ビジョンで社会や市場を改善、改革していくのか、そのためには次世代に向けてどのような人材を育成するべきか」といった本質的な意味を考えず、それぞれがそれぞれの利益だけで、ビジネスリーダー研修をとらえ“乗っかっている”だけなのです。極端な言い方かもしれませんが、現実多くはそのように思えます。

 

ではどうするべきか

 形骸化されたビジネスリーダー研修を立て直すには、まず人材開発部門が会社の代表者である社長もしくは同じレベルの問題意識をもった副社長クラスと、人材育成の理念とビジョンをすり合わせる場づくり、仕掛けづくりが大事だと思います。日本の組織では、代表取締役になったその直後に、全社横断で動ける人材がいない、自分の手足になって戦略を実行する人材、組織が無い、少ないことに気が付くことが多いようです。この状況こそが、日本企業でビジネスリーダー研修を本当に活用する数少ない狙い目だと思います。ビジネスリーダー研修を卒業した人材を代表取締役以上の幹部の参謀役として活用できる仕掛けをつくるのです。
 もし代表取締役が巻き込めたら、その権威を活用し、次の社長候補とされている取締クラスを複数人巻き込みます。「次世代人材育成委員会」などといったプロジェクト組織にするとよいと思います。保身的な人は、「次世代人材委員会」への参画、参加が、もしかしたら偉くなる切符かもしれないと思い協力してくれます。それでも良いのです。
 ビジネスリーダー研修では、知識学習よりもアクションラーニングが重要です。そこで経営戦略に直結したテーマを、代表取締役を委員長にする「次世代人材育成委員会」から出してもらい、研修生が組織横断的チームで、全力で取り組みます。研修後そのテーマは、何人かのビジネスリーダー研修生が現業から離れて実行します。テーマは経営改革の核心であるため、部課長時代に、経営改革を経営者と連携しながら経験できるため、そこではじめて真の経営幹部が育成されるのです。経営変革の多くは厳しく辛いものになるはずです。周りを説得するには、理念とリアリティのある未来のビジョンが必要とされるはずです。
 このようなことは、会社の方針が出るのを待っていても、残念ながら日本の企業の多くではおそらく永遠にできないと思います。頼りにするべきは社内の無私なイノベーティブな人です。人材開発部門に限らず、将来の真の経営人材を育成する志のあるイノベーティブな人が真のビジネスリーダー研修を仕掛ける他ないと思います。

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