競争市場となったアジア新興国で勝つグローバル戦略
「グローバル・エイジ」のリーダーからの提言
■「グローバル化」の本質と三位一体の重要性
今やビジネスの世界では、「グローバル化」「グローバル戦略」「グローバルビジネスリーダー」と、何でも「グローバル」が付いている時代です。
グローバルビジネスの本質とは何かと考えると、大きく二つあります。一つは「共通化」です。部品、材料、原料、そしてビジネスのやり方を共通化することに よって、スケールを追求できるという点です。もう一つは、スケールも追求する一方で、各国、各地域のお客様のニーズに合わせて対応する、「カスタム化」の 考え方です。両者は相矛盾しそうですが、いかにバランスをとるかということがグローバル化の本質と言えるでしょう。
いわゆる「グローバル化」については、いくつかの段階に分けられます。まず日本から、たとえば東南アジアあるいは中国などへと事業を拡大する「地域展開」 があります。これも多くの場合グローバル化と呼ばれることが多いのですが、基本的にはエリアの拡大です。「地域事業戦略」と言えます。一方で「グローバル 経営戦略」と言った場合には、たとえば中国や東南アジアなど複数地域に進出して製品やビジネスを展開しつつ、さらにマネジメントをグローバルに展開すると いうことを指します。ネットワークをつないでいくということです。ここで大事なことは、事業のグローバル化と、マネジメントのグローバル化、そして人・組 織のグローバル化の三点です。この三点について同時にシナリオを描き、三位一体で展開していかなければなりません。
今日は人・組織については割愛し、事業のグローバル化とマネジメントのグローバル化について考えてまいります。
■事業のグローバル化
①アライアンス戦略によるグローバル展開の有効性
グローバルでの事業成長戦略としては、自社単独で成長するという戦略と、M&Aで成長するという戦略があります。自社で成長するというのは、資金 や技術、人材などの経営資源をすべて自社で賄うということです。コントロールはしやすいですが、参入する現地市場に適合するまで時間を要する可能性もあり ます。一方M&Aの場合、現地企業の経営権を取得することで、現地でのブランドや人材、顧客資産などを手にすることができます。ただし資金力と買 収先企業のマネジメント力が必要になります。
両者の真ん中にあるのが、アライアンス戦略です。現地のパートナー企業の経営資産を貸していただいて成長するというものです。詳しく分けると業務提携、資 本提携に分かれます。資本提携というのは買収ではなく、少数の資本を入れたうえで業務の提携をすることを指します。包括提携とか、資本業務提携と言ってお りますが、より強固なアライアンスをとっていくということです。
大事なポイントは、技術や人材、ネットワークなどの経営資産を共有することで現地での競争ポジションを獲得し、同時に不確実な環境の変化に対応しやすくし ておくということです。アライアンスであれば自社で資産を持つわけではありませんから、変化に対応しやすくなります。リスクを取りすぎずにパートナー企業 から資産を借りて、お互いに成長していくという点で、有効な手段といえます。
②ダイキン工業に見るグローバルアライアンス戦略のポイント
グローバルアライアンスの成功事例としていつも挙げさせていただくのは、ダイキン工業の中国でのアライアンスです。ダイキンは、1996年に日本のエアコ ンメーカーとしては最後発で中国に参入しました。当初は営業メンバー100人を一年間現地で教育し、中国の文化、取引の習慣などを勉強させたそうです。そ して販売チャネルを構築したうえで、高級帯のビルトインのエアコンを7~8年販売し、この製品カテゴリでシェアナンバーワンとなります。そしてここからが アライアンスの話になりますが、その後ダイキンは、家庭用の普及価格帯の製品への参入を図ります。ただ現地メーカーの格力と比べると、低コストでの調達や 製造ができない。必死にダイキンが見積もりをしても、三割高くなるのだそうです。普及価格帯で戦うには、製造と調達に関して格力と組まないといけないとい うことで、業務提携を結びます。一方の格力としても、近々中国でもエアコンのインバータ装備が標準化されるということで、ダイキンのインバータ技術がどう しても必要だったのです。そこでダイキンから格力に、インバータのモジュールを供給することにしました。このモジュールというのがポイントで、ライセンス ではなく部品で供給しました。いざ話がこじれたときに技術が流出するリスクを抑えたわけですね。
③グローバル・バリューチェーンを実現するアライアンス戦略
このようなアライアンスをバリューチェーンで考えてみますと、研究開発や設計は自社の本社など絞り込んだところで行う一方で、物流やマーケティングは自社 の地域拠点ごとに、そして調達や製造などは各地域のアライアンス先に行ってもらうなど、バリューチェーンのすべてを自社で行うのではなく、アライアンスを 展開しながらスケールを狙っていくことが重要です。そうすることで早く市場に参入することもできます。最近はこのような企業も増えてきました。ものづくり は東アジアでおこなって、アプリケーションは各地でどんどんつくってもらって、急速に成長するというモデルですね。
④技術からエコシステムまで一貫したアライアンス戦略
またビジネスモデルやエコシステムを構想する際には、製品レベルや技術レベルで、アライアンス戦略の要素を組み込んでおくことが有効です。下記は部品を製 造している日本のメーカーすべてにお勧めしている図になります。ビジネスモデルやエコシステムなどのマクロの発想と、製品や技術の開発を一貫して考えるこ とが重要です。すでに製品や技術の開発段階から、川下での他社との連携を組み込んで考えていくということです。将来的なエコシステムの構築というマクロの 画を描きながら、技術開発という着実なミクロな画を描くというダイナミックな発想を必要としています。
おそらく今まで多くの会社が、高品質を維持するために自前主義で考えてきました。私は、自前主義は決して悪いことではないと思います。自前主義くらいのス ピリッツがないと良い製品は作れません。アライアンスパートナーに一部を任せるにしても、全体を総合して考えるという自前主義のイデオロギーは決して悪く ないと思います。しかしながら、すべての製品、全てのプロセスを自前で行うことは破滅を呼びます。アライアンス発想というものがグローバルでのビジネスモ デル構想では大事なスキルとなります。
■マネジメントのグローバル化
マネジメントの話に移りたいと思います。先ほども申しましたように、グローバル化の本質は共通化によるスケールです。スケールとカスタム化、これは人・組織、マネジメントについても言えます。
グローバル化というのは、事業という要素と、それを横串にする機能、そしてさらに地域という要素があります。三つの切り口がありますので、マネジメントすることが非常に難しくなります。そしてこの中にアライアンスが入ってきます。外部との連携も考えなくてはなりません。
日本企業のグローバル化の遅れがよく指摘されますが、日本の企業だけがグローバル化できてないわけではありません。欧米の会社でもグローバル化できている会社はごく一部だと思います。皆さんグローバル化では大変苦労しています。
マネジメントのグローバル化で大事になってくるのは基盤です。私はプラットフォームと呼んでいるのですが、経営理念や経営戦略、事業戦略に基づいて、それ を支えるための人事・育成、財務会計、知財・法務、ナレッジマネジメントといった堅固なプラットフォームです。こういったプラットフォームがしっかりして いなければ、先ほど言ったような展開は難しくなります。
最近、地域統括会社がブームですが、おそらく地域統括会社の社長は苦労されていると思います。私は、地域統括会社はやめておいたほうがいいと言っていま す。各地域でバラバラにつくって、あとからもう一度統合するというのはかなり時間がかかります。すでに進めている企業もあるとは思いますが、今一度、プ ラットフォームをしっかりつくっていただくことをお勧めします。
その際、法務部門が弱いとか、財務が弱い、そもそもプラットフォームを構築するための情報が不足しているというような問題がある企業は少なくないと思いま す。そういった場合には、外部の資源をうまく利用していくとよいと思います。外部のプロをうまく使っていただくと、ローコストで、早く仕組みができます。 重要な点は「早く作らないといけない」ということです。自前でゆっくりやっているといつ参入できるかわかりません。外を使って早く構築し、その後自前化し ていく。それが成功要因ではないかと思います。
■まとめ
全体をまとめて申し上げますと、アジアや新興国での事業は、日本企業だけでなくヨーロッパやアメリカの企業も苦労しています。環境が全く違っているわけで す。ビジネススクールで勉強したり、それまで会社で学んできたことは全く通用しない市場に、どこが入っていけるのかという状況です。
まずはビジネスのグローバル化です。それにあたってはアライアンスが必要でしょう。すべてを自前主義でやるのではなく、現地企業とのアライアンスの可能性 を十分認識しないといけないと思います。アライアンスによってスケールメリットを出し、現地にカスタム化できるような戦略が必要です。もう一つは、ビジネ スを支えるマネジメントの仕組みをしっかりつくらないといけません。これについてはマネジメントプラットフォームということで、お話しさせていただきまし た。
そして今日は取り上げませんでしたが、人・組織のグローバル化も非常に重要です。以上の三つの観点から、グローバル化を進めていっていただきたいと考えております。