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仕事のやり方、発想が大きく変わった1年~5つの視点で今年を振り返ってみよう~

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 早いことに2016年も年末となり、1年を振り返る時となりました。今年1年を振り返り、私が周りから感じたことは、「世の中を先行するような人や組織は、今年をその機会と捉えてしっかりと舵を切り、猛スピードで前進し始めた」ということです。その背景には、インターネットが成熟期に入り、またビジネスや技術の世界ではAIやIoTが本格的に始まり、さらに世界の政治、国家間の関係のパラダイムも大きくシフトし始めたといったことがあります。
 そういった変化の中で、果たして我々の考えや行動は時代に適合したものであったでしょうか?今回のコラムでは私自身の反省も含め、以下の5つの視点で振り返ってみたいと思います。

①    「まずやってみる」方が成功する

 皆さんが今年1年で成功したことを振り返ってみてください。その成功は計画通り、見込み通りだったでしょうか。「あのとき、あの人と出会わなかったら」「あの一つの行動から良い方向に向かった」といった様に、一見偶然とも思える何か小さな行動、発言、出会いなどが成功に結びついたのではないでしょうか。どちらかというと、行動力がある人にほど軍配が上がる確率が高まっている様に感じます。
 成功するための第一歩の行動、つまり「まずはやってみること」が大事なのです。課題解決のための分析や計画に長い時間をかけるのではなく、まずやってみて次々と改善、進化させることが重要なのです。
 なぜ「まずやってみること」が大事なのでしょうか。多くのことがネットでつながり、複雑になり、そのため変化のスピードも速くなっているからです。複雑な変化を分析し、時間をかけて解決策を計画していては通用しないと思います。自ら変化し、周りに働きかけていくことで、変化の波に乗り、さらには変化をリードする側に立てるのです。
 「まずやってみる」といった行動を起こすには、「結果としてどうなっていれば良いのか」といったことを考えること、つまり自分なりの仮説みたいなものが必要です。極端な話、それは時に思い込みであっても良いと思います。そしてやってみて「違っていた」ならば「即修正」すればよいのです。ただし、やってみた結果を改善すべきか継続すべきかは、冷静に判断しなければなりません。
 「やってみる力」をつけるトレーニングには、身近なことから始めてみれば良いと思います。部屋の掃除・片付け、懸案の処理など、何でもいいと思います。小さなことから自分を鍛えて徐々に「やってみる力」を身につけていき、自分の夢に向かって「まずやってみる」、そして日々小さな成功を感じながら進化していけば良いと私自身考えて行動しています。

②    独自の面白さは異分野連携がほとんど

 今年ご自身の周りで注目されていたことやご自身で興味深いなと思ったことを思い浮かべてください。そのほとんどが、専門の異なる人や組織との連携で生まれたものではないでしょうか。独自性は一見異質と思われるものの組み合わせから生まれます。地方と首都圏、企業人と学生、IoTやAIと農業、高齢者と若者、製造業とサービス業など、それぞれの常識に大きな違いがあればあるほど、生まれてくるものの独自性は高くなる傾向があります。
 一方で、社会の多くの企業、官庁、学校はどうでしょうか。昔ながらの専門の縦割体制で運営されていることがほとんどです。確かに同じ専門にくくられている縦割組織での活動は、言語も同じで効率よく、将来も見通しやすい気がします。しかし、その多くは従来の発想の延長線上にあり、多くの人が意外さや感動が少ないと感じてしまいます。決まり切った専門性だけでは、外からみて評価されにくくなっているのだと思います。特にIoTのように様々なモノがインターネットにつながる時代では、垂直統合型よりも水平異業種連携型である方が益々重要になります。
 個人についても同様です。「自分の専門以外の人とのコミュニケーションが苦手で、ほとんど会話の機会が無い」「外国人、素人、異分野の人と連携しても時間がかかって生産性が落ちることが心配」などといった考えに囚われてしまっているようではかなり危険です。反対に、「常に異分野の人の意見を参考にしている」「違う専門分野の人とのコミュニケーションが独創的なアイデアを生み出す最大の機会だ」と思える人は、今後も独自の発見をし、成長・進化していけると思います。
 異分野の連携を進めるにはどうしたらよいでしょうか。私はまず、どんな人や組織も尊重し、そこから何かを学ぶ精神とスキルを持つことだと考えます。それは損得ではありません。弱いものや他人が抱える困難、厳しい状況から学び、それを生かす姿勢を持つことが大事です。それはごく身近なことからであるべきです。会社の他部門、今住んでいる近隣の人、ボランティアで出会った人などから学ぶのです。そしてそれらの人や組織と連携し、自分の個性やスキルを持ち込むことでどんな独自のことができるのかを考えてみれば、連携力が高まり、さらに楽しいと感じられると思います。

③    時空間を越えた発想が身近で新鮮

 今年大ヒットした新海誠監督の長編アニメーション映画「君の名は。」の面白さは何と言っても時空間や自己の身体を越えたストーリーの不思議さであり、一種、人間の精神のリアリティでもあると思います。また卑近な例ですが、弊社が活動を推進しているヘルスケアIoTコンソーシアムの中で私が最も興味をもっているのは、個人の過去の健康データから本人の将来の健康状況や生活を読み取ることができるということです。今の生活習慣がどのような自分の未来をつくるのかを「映像」などで見せられれば、相当なインパクトが与えられると思います。IoT社会は今や過去のデータを分析し、過去の経験を振り返るだけでなく、「未来を経験する」ことで人間に新たな変化を起こさせる可能性があります。
 人間の精神、つまり脳は「現在」そして「過去」を振り返るだけでなく、自分や社会の未来とつなげる能力があります。IoTやAIの本質的な価値とは、単に現在や過去を分析することではなく、むしろ“未来の経験“を予測することにあると考えます。過ぎ去った過去そのものは未来のためにあると考えることが大事です。
 時空間を越えた発想をすることは、10年後、20年後は当然のこと、100年後、200年後、それ以上の時空間と自分との結びつきをもって考え行動することです。物事を未来の視点に立って歴史的に価値があることかどうかを判断しなければいけません。
 しかしほとんどの人は、「今年」「半期・四半期」「今月」「今日」といった、極めて短く閉じた時空間に囚われています。生きていくには仕方のないことだと思います。人によっては、過去のクレームや問題の対処を専門にする、いわば「過去の問題処理屋」のような人もいると思います。
 そういった人や組織でも、「未来への時空間」に関わる仕事が可能だと思います。それは今やらなければならない仕事の中で、10%でもよいのでそれが未来にどう関わるかを発想し、蓄積しておくことです。そう考えれば無駄な仕事や行動はないはずです。一見失敗だと思われることも含め、人の行動の多くが未来に生かされるはずです。

④    ドラマチックな逆転の発想が人を活性化させる

 一橋大学の楠木 建教授は2010年に経営書としては空前のベストセラーである「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件」という本を著しました。評判は様々でしたが、私は今の時代を捉えた名著だと思います。
 この本で楠木教授は「優れた戦略の本質は優れたストーリー性である」と言い切っており、私も全く同感です。魅力あるストーリーが社員や顧客、株主、取引先をモチべートし、コミットメントを引き出します。だから業績も良くなるのです。そういった意味では、経営者やビジネスマンは優れたストーリーメーカーであり、ストーリーテラーでなくてなりません。
 では面白い、エキサイティングなストーリーとはどのようなものでしょうか。それはなんらかの逆転の発想があることです。例えば、万年低業績の組織が、一人の平凡な社員のある行動を切っ掛けに大きく変化し始め、大きな成功をするといった話です。弱さを強みに転換する、危機的状況が競合も見つけられないような機会の発見につながる、派遣社員が頑張って会社組織を飛躍的に発展させる、などといったドラマチックな話です。別の言い方をすると、伸るか反るかのリスクの高い「危ない話」です。いわゆる賢そうな人は「危ない話」は避け、リスクのない方策をとります。しかしこの「リスクのない方策」が人を楽にし、マンネリ化を招き、人の発想を駄目にしてしまいます。老舗の大企業はこのことに気をつけなければなりません。
 皆さんは今年1年で、ドラマチックな話があったでしょうか。おそらく個人的なことも含めればいくつかあったはずです。そしてなぜ困難を乗り切ることができたのでしょうか。それは危機感を持って「なんとしてでもこの状況を越えてやる!」と腹をくくり、その課題に対し余力の全てを投じて取り組んだからだと思います。
 ですから皆さん、「これはまずい、このままでは駄目になってしまう」「小さくて弱い立場だと圧倒的に不利だ」といったことに遭遇したら、チャンスだと思いましょう。そしてそこからどう戦うかの逆転の発想を徹底して考え、そしてチャレンジしてみましょう。そういった機会だけが人や組織を強くします。優れた経営者やリーダーは本能的にそのような環境をつくり、周りの人を巻き込んでいきます。

⑤    これからは「みんなのために」が最大の個人財産となる

 周りをみていると「お客様のために、人や社会のために」といったことを重視する人や組織は安定的に成長しています。そういった人や組織は、少子高齢化、格差社会、地方の過疎化、テロ組織、エネルギー問題などの社会問題に強い関心を持ち、仕事やボランティア活動を通じて解決に取り組もうと努力し、結果的に独自の成功を納めていることがほとんどだと思います。一方、自分の昇進昇格、年収アップだけを考えてしまっている人は視野が狭く、一見効率が良いように見えますが、貴重な人間関係や気づき、学習の機会を失っているように思えます。
 大変素晴らしいことに、最近の学生ら若者では「○○に貢献したい」と社会的な貢献意欲を持つ人が多くなった様に思えます。ソーシャル・アントレプレナー(社会的起業家)に興味を持つ人も増えました。
 「今年1年、自分は社会にどれだけ貢献できたのか?」と振り返ってみたいものです。社会に貢献することは、人のモチベーションを根底から引き出し、思いがけない力を引き出してくれます。その結果、気持ちと能力のキャパシティが大きくなり、変化に対応した柔軟な生き方ができるようになります。
 インターネット社会が成熟期に入り、社会の前提となった今、様々な人・コトが直接つながることが当たり前になっています。一個人も社会を意識できる、また意識せざるを得ない時代になりました。従って、厳しく社会性が重視される時代になったとも言えます。もはや、死ぬまでの間にできるだけ多くの金銭的財産を蓄積する時代ではありません。社会的な関わりを持ち、社会に貢献することこそ最大の人生の財産と考える生き方が、本当の豊かさであると思います。

 以上、今そしてこれからの成長する人・組織に必要な5つの視点で、私自身の今年の振り返りをお話ししました。皆さんの今年の振り返りと来年へ向けての方針にお役に立てれば幸いです。

 最後に皆様、今年1年間本コラムをお読みいただき、誠に有難うございました。来年も皆様に元気にチャレンジしていただく励みになるような内容にすべく、より一層努力して参ります。来年もどうぞ宜しくお願いします。

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