変わろうとしている人を否定しないことが大事!
■「勝ち組」と思われているシニア社員もけっこう悩んでいる
数字上の業績はまあまあ良いが、職場の雰囲気がギスギスしている、目標は達成したが現場は疲弊感で一杯、常に緊張感が高くてストレスフル…日本企業の多くの職場はこんな状況かと思います。
現場では、
「業績が良くても人の気持ちを犠牲にして達成しているだけじゃないか」
「数字を達成しても将来ビジョンは全く見えず、やる気なんか出るはずがない」
「会社を辞めても簡単に仕事を見つけることができないから、仕方なく今の職場にいる」
というようなことがよく言われています。
一方で、そのような職場の管理職や経営幹部の本音を聞いてみると、
「本当は誰も自分についてきていないのではないか」
「業績のことばかり考えて、常に焦ったりイライラしている」
「仕事を周りに任せてもまともにできない。結局自分がやる羽目になる」
「部下のモチベーション低下の加害者は自分だと感じている」
「皆のために自分を犠牲にして働いているのに、誰も理解してくれない」
といった声がよく聞かれます。彼ら管理職や経営幹部の社内地位は上位で、社会的には一見勝ち組の様ですが、心理的には危機的な状況の人も少なくないと思います。
確かにビジネスの現状を見ると、より厳しい価格競争、これまでと全く異なる異業種との競争、政治的変化、規制の強化、めまぐるしい景気変動など、常に気を緩めることができない状況にあり、管理職や経営幹部もまた「過酷」な状況にいます。そこには「管理職研修」や「リーダーシップ研修」などを1日や2日を受けたとしてもなかなか変えられない、変わらない状況が存在します。けっして簡単な話ではありません。
■“一見勝ち組シニア”がなぜ変われないのか
会社をギスギスさせてしまっている原因である一方で、一種の犠牲者とも言える“一見勝ち組シニア”はなぜ変われないのでしょうか。理由は「会社のために一生懸命やっている」からです。私から見ると、ほとんどの“一見勝ち組シニア”は共通して、高学歴、まじめ、努力家、自己犠牲的で、会社の模範です。しかし、この「会社のために一生懸命やっている」点こそが、組織の活性化、発展の方向とは逆に回転してしまっているのです。
私はこの“一見勝ち組シニア”が持つリーダーシップのスタイルを“C-Style“(Controlled Style)と呼んでいます。図を見てもらえば分りますが、ごく当たり前のスタイルです。しかし、これが現在の環境変化と合っていないのです。問題は、“C-Style“は会社や組織を良くしたいという大事な「意欲」「意志」がドライバーになっていること、また“一見勝ち組シニア”の長年の成功パターンとして定着しているということです。つまり、本人としては悪くないのです。だからますます“C-Style“にこだわります。これまで結果を出してきた人のほとんどは“C-Style“を持っています。私自身も勝ち組でも何でもありませんが “C-Style“でやってきたことが多かったと思います。
ではなぜ“C-Style“が上手くいかなくなってきているのでしょうか。それは“C-Style“のベースには「予想できない変化が頻繁に発生する」という考え方が無いからです。顧客の考えがころころと変わり、予想もしない事象が頻繁に起こり、半年前が3年も5年も前の様に遠く懐くさえ感じるような「固定するものが何もない流動型社会」である現代において、この“C-Style“が現実的であるとは思えません。極めて硬直的です。
そのような環境で“C-Style“の実際は、
- 厳しい数値目標を設定する
- 担当が厳格に割り振られ、納期が厳しい
- 結果出すために厳格に行動管理する
- 全ての無駄を排除して作業に集中する
- 結果が出たらさらに厳格管理する
で進めています。その結果、成果が出ない場合は大きな挫折を味わい、心理的ダメージを受け、元に戻れなくなってしまう恐れさえあります。
この“C-Style“は習慣、つまり意識、思考、行動が固定されていますので、変えるのは容易ではありません。時間がかかります。
■目指すべきは“S-Style”(Self-Motivated Style)
では現代のような「固定するものが何もない流動型社会」には、どのようなリーダーシップスタイルが良いのでしょうか。
目指すべきリーダーシップを私は”S-Style”(Self-Motivated Style)と呼んでいます。“C-Style“をとってきた人からすると、”S-Style”こそ不確実性の高い方法のように思えるでしょう。しかし、よく考えてみると違います。“C-Style“は実際には破綻してしまっているのです。つまり、管理しようとしても実際は”無理“なのです。人間は感覚、感情に左右され、極めて曖昧であり、ミスをする存在です。機械とは全く異なります。それを“C-Style“でリードしようとしても、所詮”無理“なのです。やろうとすれば多くのパワーが必要になり、多くの無駄が生じます。また管理はどうしても現場から物理的、時間的にギャップが生じ、ロスも多く発生します。結果、”無理“から抜け出せないのです。
では何を基盤にリーダーシップをとるのか。それは“個人の本音のやる気、モチベーション”です。現場に柔軟に即応し、軽やかに変化するためにはそれしかありません。つまり、人間の「感覚、感情に左右され、極めて曖昧であり、ミスをする存在」であることを逆手にとって利用するのです。具体的には、
- 目指すことの意味と楽しさを伝える
- メンバー個人の興味・挑戦意欲を引き出す
- 身近なことから行動し始める
- 周りの協力の輪を広げ、成果を出す
- 結果をアピールし、多くの人を巻き込む
といったリーダーシップで進みます。一見、個人に依存しており不安定なようにも思えますが、柔軟かつ即応的で、個人にも好奇心とほどよい緊張感を持たせることができ、自由で、ポジティティブです。さらに“S-Style”ではたとえ失敗しても、楽しさから再挑戦してしまうようになっています。つまり、試行錯誤を厭わず、粘り強くなれるのです。「固定するものが何もない流動型社会」である現代社会では、緻密な計画やその実行管理よりも「行動してみる」「試してみる」ことが大事で、それは「失敗をも楽しい」と感じる個人の好奇心、本音のやる気が原動力になっていなければなりません。
■どのようにして“C-Style”から“S-Style”に変わるのか?
“C-Style”の人が“S-Style”に変わるのは簡単ではありませんが、意外にも一瞬にして変わることもあります。その点では、私はやや楽観視しています。
ただ一点、大事なことがあります。それは、変わりたい人の気持ちを否定しないことです。なぜなら“C-Style”の人の根底にある動機は「会社・組織業績を良くしたい」であり、極めて健全だからです。上司も部下の周りの人がそこをしっかりと認めてあげないといけません。
そしてその動機を別の方向にスライドさせます。別の方向とは「目指すことの意味と楽しさ」を、変わりたい人自身がしっかりと認識することです。そのためには、ご自身の仕事の意義、面白さを少し肩の力を抜いて味わうことが必要です。その場合、話しやすい仲間がいれば大変良いと思います。別の部署の人、別の会社の人でも良いと思います。聞いて共感してくれて、また認めてくれる人が必ず必要です。
それができると、今度は変わりたい本人が小さなこと、場合によっては仕事以外のことでも何か意義のあることや楽しそうなことをメンバーに伝えて、新しくやってみます。整理整頓などの5Sでも良いと思います。趣味の活動でも良いです。何か好きなことが良いと思います。少し上手くいったら仲間を増やします。そして、仲間から感謝や褒めの言葉をもらいます。少し大げさなぐらいで良いと思います。そしてここが大事なのですが、「感動」します。些細なことですが「感動」し、それを記憶に強くとどめるこの段階で大きく変わります。こういった習慣を短いサイクルで繰り返すことで、誰でも無理なく“S-Style”を実行できるようになります。変えていく場面は、別に仕事でなくても良いと思います。家族で、ボランティア活動で、大学時代の友達同士でと、誰とでも良いのです。要は、自分の意識や思考、行動習慣を楽しく気軽に変えることなのです。
日常の軽いことなら“C-Style”から“S-Style”へ簡単に切り替えられますが、仕事となるとそうはいないのではと心配になります。しかし、信じてください。心配ありません。なぜなら、“S-Style”を徹底すれば、自分もメンバーも失敗してもその過程の楽しさから自主的に再挑戦するからです。その試行錯誤が必ず成功を生みます。
どの業界も会社も「固定するものが何もない流動型社会」から逃げられるところはありません。日本企業の多くの普通のまじめな人なら、“C-Style”をとっているでしょう。“C-Style”の強みは“責任感”と“実行力”です。その強みはそのままにすればよいのです。理想は“C-Style”と“S-Style”を上手く使いこなすことだと思います。
さあ今からやってみましょう!