いかにビジネスパーソンとしてグローバルビジネストレンドを読むか
■あなたはグローバル社会経済の動向を捉えているか?
今年3月に入って、ロシアがクリミア半島を事実上占領し、米国、EU諸国、日本とロシアの対立が鮮明になりました。時計の振り子が30年以上前の冷戦時代に戻った感があります。現在のところ軍事衝突の可能性は少ないものの、エネルギーをはじめとした世界経済の新たな不安要因といえます。
中国に目を向けると、習近平の公務員の汚職の追及、粛清に対する反動、対立。シャドーバンキング問題に対する金融改革によるバブル経済崩壊も大きな不安要因です。また、生産性が向上しないままでの賃金の上昇は、中国経済の足腰を次第に弱らせていると考えられます。中国に長期間駐在するある経営者によると、中国自動車市場で中国民族系ブランドのシェアの低下は著しいとのこと。中国企業のグローバル企業との相対的な生産性の低さが問題になっています。
米国FRBの債券購入措置(いわゆるQE)縮小によるアジア新興国経済状況の不安定化、成長の鈍化などは、アジア依存を高めてきた日本には大きな問題となる可能性があります。インドネシアなど急成長してきた新興国は、金融システムが脆弱で、“新興国の成長”というキーワードだけで安易に資金が流入し、実態を反映しない経済の部分が大きいのではといわれています。
ここ数年続いた中東の民主化も、日本でのニュースの優先順位は下がりましたが、現実には、収まっているわけではありません。トルコでの民衆の政府との対立、一部暴動化などが不安視されています。北米のシェールガスなどのエネルギー資源の自前化、分散化は進んでいますが、いま世界の産業のほとんどが石油に依存している中で、中東の動向からは目が離せません。
一方EUの金融不安は少し解消されてきているようです。皮肉にも、世界の資金の向かう場所としてのアジア・新興国の不安が大きくなった分、EUのポジションが相対的に浮上。イタリア、スペインなどに選択的投資が行なわれ始めました。
■ビジネスパーソンはグローバルトレンドをどう捕らえ、活かしていくべきか
言うまでもなく、世界のどこかの事象は瞬時に世界に広まり、私たちの経済、産業、社会、そして生活、価値判断に大きな影響を与えます。その動きは時として私たちの認識力を超えたものになります。ビジネス競争では、この環境変化をいかに認識して、先行して手を打つかが勝敗を分けます。しかし問題は、この膨大なグローバル情報をどう捉え、判断するかです。シンクタンクなどのアナリストの分析やコメントは参考にはなりますが、リリースされるまでにタイムラグがあり、また自社に活用するには適していないことが多いのではないでしょうか。
そのような中で、日々業務上の雑多な問題や課題を抱え、大企業といえども社内に高度なインテリジェンス機能を持っているわけでもない一般のビジネスパーソンは、日々起こるグローバルトレンドをどうキャッチし、ビジネスに活かしていくべきなのでしょうか。
■3つの階層でグローバルトレンドを認識する
グローバルトレンドを、競争戦略に反映させるというビジネスの見地に立てば、グローバルトレンドを効果的に読む方法があります。ここでは3つの階層でグローバルトレンドを分析し、戦略企画に反映させる方法を紹介します。
1つ目の階層は、自社の所属するエコシステムやビジネスモデルを理解しておくことです。エコシステム・ビジネスモデルとは、自社が参加する業界、または業界を超えた関係性で、エコシステム、ビジネスモデル同士の競争、またはそこでの役割、ポジションが企業の収益を左右します。
この自社の所属するエコシステム、ビジネスモデルを理解することで、グローバルトレンドがこのエコシステム、ビジネスモデルにどういった利害を与えるかを分析します。分析の視点は、エコシステム、ビジネスモデルにとって、プラス要因なのかマイナス要因なのか。その影響度合いはどれくらいなのかを把握します。
2つ目の階層では、自社のバリュー・チェーンへの影響を考えます。バリュー・チェーンとは、米国ハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター教授が提唱した経営モデルで、企業活動は製品・サービスの付加価値を生むために、「企画・設計」「マーケティング・販売」「生産・物流」などの主活動と研究開発、法務、知財、経営管理などの支援活動で構成されていて、このバリュー・チェーンを高度にしていくことで、競争優位を構築できるという考えです。グローバルトレンドは、エコシステム、ビジネスモデルへの影響を伝わって、このバリュー・チェーンに影響を与えます。
そのバリュー・チェーンにとってプラス要因かマイナス要因かを分析します。
3つ目の階層では、自社の製品・サービスへの影響の分析です。バリュー・チェーンへの影響は、個別の製品・サービスへの影響に翻訳されます。具体的には、製品・サービスの単価、数量への影響、事業の持つ生産設備、技術、企画開発力など企業の重要な戦略資産への影響を分析します。
■3階層を連動させて、グローバルトレンドを読み、自社の競争戦略に活かす
3階層を連動させてグローバルトレンドを分析することは、競争戦略企画にとって大変効果的です。エコシステム・ビジネスモデルに何か大きな影響のある事象が発生した際に、バリュー・チェーン、製品・サービスへの影響を連動させて分析すれば、ライバルに先んじて、グローバルトレンドを加味した戦略を打てるかもしれません。
その競争戦略も、エコシステム・ビジネスモデルレベルでの競争戦略、バリュー・チェーンレベルでの競争戦略、製品・サービスレベルでの競争戦略のうち、自社の強みのあるところで戦略を打つことができます。
このように、膨大で、瞬時目まぐるしく変化するグローバルトレンドも、自社の競争戦略を企画するという視点でとらえれば、うまく整理できます。つまりグローバル情報に対して主体性をもつことが大切なのです。