90日で絶対目標達成するリーダーになる方法“新製品・新事業開発編”
「ついつい長期的に考えがちな新製品事業開発のプロジェクトも一旦90日でやってみる。」前回、2月28日に配本になった私の著書「90日で絶対目標達成するリーダーになる方法」の概略をお伝えしました。今回は、その90日目標達成プロジェクトの新製品・新事業開発編をお伝えしたいと思います。
■半年以上かけた新事業開発戦略が年の終わりにはあまり意味がないものになった
これは複数の企業で経験した話です。
ここ5年間成長率が2%前後で、株主から「成長性が見えない」という指摘を何度となく受け、グローバル戦略などの方針を打ち出しました。しかしなかなかうまく行かず、昨年から原点に帰って、自社の技術の強みを活かした新製品・新事業開発を行うべきと、経営企画と研究開発企画部門から新事業開発部門を分離独立しました。
新事業開発部門は外部のコンサルタントを使って、新製品・新事業開発のプロジェクトを発足させました。プロジェクトは主には以下の様な全社新事業開発戦略ビジョンの検討を行いました。
- 5年後の全社の目標の設定
- 国内外のシンクタンクの予測による今後のマクロ環境、関連市場の動向の把握
- 自社の7つの事業ドメイン戦略の企画
- 各事業ドメインの戦略ビジョン(売上、利益、投資、戦略コンセプト)の企画
- 自社シーズベースの新製品・新事業開発による成長戦略の企画
- M&Aによる成長戦略の企画
- 今後の事業開発のステップの検討
半年以上の調査企画を経て、晴れて役員の承認を得、具体的な事業開発ステップに進むことになりました。事業部や開発、営業部門を巻き込んだ新たな新製品・新事業開発プロジェクトが始まりました。新たなプロジェクトが始まって幾つかの本質的な問題が見えてきました。問題は以下の様なものです。
問題1:新たに参加したメンバーは、新事業開発戦略ビジョン作成に参画しておらず、
またその内容が大掛かりであるため、メンバーにはあまり理解されなかった。
問題2:ほとんどのメンバーは、既存事業の仕事をもっているので、その仕事で精いっぱいで、
新製品・新事業開発に対して時間をかけられなかった。当事者意識も薄かった。
問題3:時代の変化が早く、全社新事業開発戦略ビジョンで掲げたときのトレンドも大きく変わった。
しかも、異業種からの参入で競争環境は大きく変わった。
問題4:担当の役員も新製品・新事業開発の経験がなく、トップとしてのリーダーシップが見えなかった。
問題5:頑張って活動したチームがあったが、いざ投資意思決定となると、様々な宿題がなげかけられ、
活動が前に進まなくなった。アライアンスパートナーとの関係も希薄になった。
■トップダウンの“戦略計画型”では新製品・新事業開発はうまく行かない
ここでの本質的な問題は何でしょうか。
1つは新製品・新事業開発がトップダウンのいわゆる“戦略計画型”で行われていることです。この様な方法はかつて効果的なこともありました。それは市場の動向が読みやすく、安定した成長が見込まれる時代、日本で言えば25年以上前でしょう。
すでに皆様もよく解っておられる通り、変化は常に現場で発生しており、現場から離れた形でのどちらかと言えば、ロジックと計画中心の新製品・新事業開発はもはや通用しません。確かに参入や、投資意思決定などは、最終的には役員以上がトップダウンで決めることになります。しかし、ビジネスチャンスは、マーケティング、営業、開発、生産などの現場で見つけ、テーマに情熱のある者が、強い当事者意識をもって推進していくべきです。
2つ目は「成功が見えるまで時間がかかりすぎること」です。新製品・新事業開発戦略ビジョンづくりで半年以上、具体的な事業アイテム調査企画でまた半年と、計画だけで1年かかります。実際にアライアンスパートナー探しや、有望な顧客候補との会話など、結果に直結する新事業にとって重要な活動が少なくなりがちです。結果が見えにくいと、人のモチベーションは上がりません。
3つ目は、計画策定作業が中心で、最終結果に対して責任をもたなくて良い設定になっていることです。結果が問われない計画作業は、計画作業そのもののみならず、多くの無駄を生みます。また結果に直結するアクションがなんであるかが不明確になり、競争力が落ちます。
新製品・新事業の競合が、自己資金で始めたオーナー企業、ベンチャー企業、新興国企業ならば、この無駄な計画や会議に時間はかけません。「結果に直結する行動」のみが重要です。戦略計画は後で横展開が必要な時に作成すればよいという考え方です。
■グローバルネット時代にはステージゲート法などの手法も効果が薄い
かつてから新製品・新事業開発には、「ステージゲート法」のような方法論がたくさんありました。かつてはそれも効果的でした。しかし、90年代半ばからのインターネットの普及、合わせて経済社会のグローバリゼーションで、ステップを踏んで進める新製品・新事業開発はほとんど通用しなくなりました。ステージゲートの運用だけでは競争についていけなくなってしまっているのです。確かに社内の検討は十分尽くせます。しかし外部との競争には勝てないと言うことが多くなったのです。
このような時代では、
- ビジネスのゴールそのものが変化する
- 参加プレーヤーも多種多様で、常に変化する
- 競争のルールさえも頻繁に変わる
ステージゲートの各フェーズの判断基準も変わるし、フェーズ自体も意味がなくなるかもしれません。SNS、ゲーム、イーコマース、医療、バイオ、自動車、エネルギー産業など、すべての産業で突然ビジネスが発生し、また消滅する可能性が高いのです。
■90日で実施する新製品・新事業開発
このような変化とスピードの時代を踏まえて、弊社ニューチャーネットワークスでは、大枠の新事業開発ビジョンの下、90日で実施する新事業開発を推奨しています。これは90日で新事業ができるというわけではありません。新事業開発の目標を90日単位で区切って成果を見える様にし、参加する人全員が最終結果に責任を持ち、短期間での目標を達成することで、気持ちと能力のキャパシティを上げ、新製品・新事業の開発のスピードを上げるものです。
そのための3つの大まかなステップを紹介します。
ステップ1:大枠の戦略ビジョンをゴールとして大きなシナリオを描く
大枠の戦略ビジョンは経営トップがすでに考えているはずです。その大枠の戦略ビジョンを「結果」として、その「結果」出すために何が出来ていなければならないかを逆算し、大きなシナリオを描きます。重要なのは、徹底して結果から考えることです。
たとえば大枠の新製品・新事業開発戦略ビジョンが「当社コア技術をベースに3年後の2017年4月に100億円の新製品・新事業を創り出す」というものとします。
- 3年後の2017年4月に「100億円の新製品・新事業売上」
- 2年後の2016年4月に「20億円の事業3つで60億円の新製品・新事業売上」
- 1年後の2015年4月に「10億円の事業3つで30億円の新製品・新事業売上」
と考えると、自社単独開発は難しく、M&Aもしくはアライアンスで、初年度から売上が上がるアイテムを探さなければなりません。単独開発だとしても、可能性の高いシーズ、ビジネスチャンスに絞り込んだ検討になります。
ごく簡単な例を示しましたが、「結果」をロジカルシンキングで端的にブレークダウンするとやらなければならないシナリオが見えてきます。現状からの積み上げ発想ではいけしません。
ステップ2:1年後の目標=結果を90日=第一4半期後のゴールを設定する
1年後の目標が
「2015年4月に10億円の事業3つで30億円の新製品・新事業売上」
とすると、180日後にはM&A,もしくはアライアンス契約が済んでいて、売上が立ち始めていなければなりません。そうすると90日後は、
「M&A先最低10社がリストアップ、調査され、交渉を始めることができる状況」となります。結果から考えていくと、やるべきことが明確になり、緊張感が走ります。結果を出さなければ、先はないという緊張感です。この緊張感が成功確率を高め、気持ちと能力のキャパシティを広げてくれます。
ステップ3:90日のブレークスルーゴールを月単位、週単位で目標を設定する
90日でのゴールを「M&A候補先が最低10社リストアップ・調査され、交渉が始めることができる状況」をもっと具体的にすると、
- 「M&A候補先を最低10社リストアップ・調査する。各社初年度最低10億円、2年後30億円の売上を上げることが条件」
となり、
- 60日後は「新製品・新事業開発戦略ビジョンに沿ったM&A候補先が30社リストアップされている」
- 30日後は「新製品・新事業開発戦略ビジョンに沿ったM&A先の要件が明確になり、100社のリストを持っている」
といった目標にブレークダウンされ、さらに週単位のアクションが明確になります。さらにやらなければいけないことが具体化し、気持ちに火がつきます。
90日の目標は年間の最終ゴールを常に意識したものであり、また各30日後と、一週間毎の目標、さらには毎日の目標も常に意識したものになります。このような発想で、無駄なアクションをなくし、結果に直接結びつく行動をとります。
結果に近づけば近づくほど、達成感、やりがいが生まれ、行動量が上がります。行動量が上がれば必然的に、結果に近づきます。
一日の単位でも早い時間にアクションし、結果を出すことで行動量を増やす
週単位、さらには日単位でアクションを明確にしたら、大事なのは一日の中でも、出来るだけ早い時間にアクションすることです。午前中、さらには朝の9時から10時まで、少し早目に出勤して8時から10時までの2時間などでアクションしてしまうことです。たとえ失敗してもやり直しがききますし、成功すれば、その一日に勢いがつき、前倒しでアクションが進みます。
このように新製品・新事業開発も、大掛かりで詳細な戦略計画を長期間かけてつくるのではなく、一カ月程度で経営トップ中心に大枠の戦略ビジョンを構想し、それをもとに結果からブレークダウンし、年、四半期、月、週、日単位の“アクション”にブレークダウンして、実際アクションすることが大事です。
机上の計画が新製品・新事業をつくるのではなく、戦略ビジョン、ゴールを意識した緊張感のあるアクションが、顧客やパートナーの意識、考え方を変え、新製品・新事業が「創発」されていくのです。
詳しい方法論に関しては、「90日で絶対目標達成するリーダーになる方法」(高橋 透著 SBクリエイティブ)をご購読ください。