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営業変革における3つの視点

ニューチャーネットワークス シニアコンサルタント
中山 恵市

1月末ごろから3月末決算予想が発表されています。業界によってばらつきは多少ありますが、2008年の米国リーマンショック以来の最高益という企業が多くみられます。
しかし、ビジネスの現実に目をむけると、顧客の選択眼は以前よりも厳しくなってきています。同じ企業でも売れる製品と売れない製品がはっきり分かれる傾向があります。組織でも業績のよい事業部とそうでない事業部、個人でも業績の良い担当者とそうでない担当者が明確に分かれ、二極化が進んでいます。
ネット社会では情報、知識武装化された顧客の選択眼が厳しくなり、それぞれの企業、組織、個人が生き残れるかどうかは景気動向とは別の問題のようです。
ビジネスの基本に立ち返ると、成否を決するのは、「今、顧客やその先のエンドユーザーが何を求めているか」を見出す嗅覚と「それなら使いたい、そんなことが出来るんだ!」といった独創的アイデアを創造することです。
それに加えて重要なのはそのアイデアの価値をどう伝えどのように顧客まで届けるのかということです。それを担うのは営業であり、その役割は今後も大きくなると思われます。しかし営業部門の現状は“社内からの収益プレッシャー”と、“厳しい要求を突きつける顧客、取引先”との狭間で、むしろ弱体化してきている企業すらあります。
今回は、私が今まで接点をもった企業の中で、営業職が生き生きと活躍している会社での事例を通じて望まれる営業の姿について考えてみます。これからの時代に求められる営業のキーポイントは以下の3点です。

①顧客起点での情報収集能力の向上とアイデアの創出 
②組織の壁を超えたチームでの営業のリーダーシップ 
③組織メンバーのモチベーション維持・向上の為のポジティブフィードバック

■顧客起点での情報収集能力の向上とアイデアの創出

「顧客起点」の企業経営。これほど言い古された言葉はないでしょう。しかし、「顧客起点」によって掘り起こされる事業機会や差別化はまだまだ多く存在していることも現実です。
この掘り起こしは基本的にマーケティング部門の仕事ですが、営業も重要な役割を担っています。営業が直接接点をもつ取引先は、消費財の会社であれば卸や流通です。生産財の会社であれば法人です。そのためエンドユーザーのニーズは直接把握できていません。しかし、営業が直接接点をもつ取引先からの情報がエンドユーザーを理解し、事業機会を掘り起こすためには重要なのです。
私がかつて勤務していたP&Gジャパンでの大ヒット商品“ファブリーズ”の成功事例を紹介しましょう。
ファブリーズはアメリカで既に実績のあった商品であり、清潔さにについて、「潔癖」なまでの高いニーズを持つ日本人にはきっとヒットするに違いないとの読みがありました。それは予想通りでした。一部地域のテスト販売の後、全国での販売は成功しました。市場への浸透は一定のところまで到達しました。それにより取引先からエンドユーザー情報がどんどん入るようになりました。
そこで営業部門から活発な情報が社内にフィードバックされるようになりました。営業部門から「日本の住宅は、フローリングにソファーばかりじゃない。和室を想定した消費者層に広げる二の矢三の矢が欲しい」と言う声が上がりました。営業部門のメンバーが、流通の売り場を見て、取引先の声を聴き、さらなる用途と拡販余地を掘り起こしたのです。
その情報はマーケティング部門に反映され、「カーテン・ソファー・じゅうたん」等の布製の対象物へと展開されました。さらには生活者の行動に焦点を当てて「こたつ」にこもる臭いやベッド周り、枕など、消費者が「あっ!そうそう」と感じるニーズを創出することができました。その結果現在では200億円を超える市場が新規に創出されたのです。
この例からもわかるとおり、「顧客起点」という視点で、営業が心掛けるべきことは次の3つです。

①まずは営業努力により自社製品の迅速な市場導入を実現し、エンドユーザー情報などが集まってくるパイプを取引先と自社との間に構築すること
②取引先と情報を共有し、エンドユーザーの状況を分析すること
③拡販、改良などのマーケティングアイデアを出し社内にフィードバックし、製品開発や市場創出につなげること

■組織の壁を超えたチームでの営業のリーダーシップ

 消費財では大手流通の力が年々強まり、ある特定顧客の声で、事業業績が左右されることが多くなっています。そこで営業が窓口となり、特定の取引先に特化した商品開発や販売促進のプロジェクトが実施されます。
 その際社内で問題になるのが営業以外の他部門との摩擦による競争力の低下です。「営業は自部門の業績を上げるために、取引先の言いなりになってしまい会社の利益を損なっている」という意見が他部から出るようになると、部門間でコンフリクトが発生し、組織連携のスピードが落ちてしまいます。
 特定の取引先の大規模化に対応するため、その取引先それぞれに特化したマーケティング戦略を検討することは避けられません。むしろそれを積極的に推進しなければ、生き残りは難しいのです。
そこで重要になるのが営業部門の事業戦略ビジョン企画力です。営業がいくつかの特定取引先を重視しつつも、事業全体の業績が最大化するよう事業戦略ビジョンを構想します。これを他部門に提言し、説得・巻き込む力が重要となります。
その際には、他部門をリードできるだけのマネジメント力も必要とされます。具体的には、企画開発部門や生産・物流部門、販売促進部門などを巻き込んだ組織横断的プロジェクトチームをつくり、各部門の中長期の成長発展も考慮したプロジェクトのビジョンを構想し、具体的な成果を創出しなければなりません。今や営業部門は営業だけをやる時代ではなく、事業を経営する時代になったと言っても過言ではありません。そのための意識改革や知識・スキル向上が必要です。
一方、会社としても営業部門が他部門をリードしやすい組織環境を整備する必要があります。かつて製造業においては、営業部門は、研究開発、生産などの技術部門よりも地位が低く見られる傾向すらありました。
先ほど挙げたような営業主導の組織横断的プロジェクトを成功させるためには、営業部門に権限を持たせなければなりません。
P&Gジャパンではカスタマーチームがそれにあたりますが、その際は営業部門のチームリーダーに、物流やマーケティング、ファイナンスなどの他部門のメンバーの人事評価権も持たせます。例えば、財務部門でカスタマーチームに3年間参加し、その間は営業部門のリーダーが上司であることもあります。
 このように、組織横断的チームの中での営業のリーダーシップにおいて重要なことは次の3つとなります。

①顧客を起点にした事業戦略ビジョンをつくること
②他部門をリードできるマネジメント力をつけること
③営業部門が他部門をリードできる組織環境を整備すること

■組織メンバーのモチベーション維持・向上の為のポジティブフィードバック

全社の業績を背負い、自分達の努力の結果がすぐに出る営業部門ほど、メンバーのモチベーションが重視される組織はありません。しかし、営業部門のモチベーションを重視した人事制度や仕組みを持つ会社は極めて少ないと思います。営業組織のための人事制度、仕組みの話はまた別の機会にご紹介して、部門内でできる効果的な方法を3つお伝えしたいと思います。
一つは大きな目標を小さなシンプルな目標にし、短期間でそれを達成させることで、モチベーションを上げる工夫です。1年の目標を結果から考え、四半期に、四半期を月次に、月次を週次、日次にし、できるだけ目標を小さく、シンプルなものにして、日々目標に向けて確実に行動を起こし、成果を創出し、それを実感することが大事です。これは「人のモチベーションが上がるのは結果を出すことである」という考え方に基づいています。
これは弊社ニューチャーネットワークスで「ブレークスループロジェクト」というプログラムで多くの成功事例があります。これまでのメールマガジンを是非参考にしてください。
二つ目のモチベーションアップの方法は成長を実感させることです。目標達成による成長の実感は客観的であるほど効果的です。それは上司からであれ同僚からであれ人から認められるということです。それは本人の自信となり、更に成長したいという意欲を生み出します。つまりモチベーションアップの基本は、先ずその人に関心を持ち、見守り、行動を評価してあげることです。多少の気恥ずかしさはあっても人はいくつになっても褒められて嫌な気持ちになることはありません。
三つ目はチームでの成果を重視することです。
最近弊社の営業部門向けのコンサルティングを通じて感じるのは、ここ10年以上日本中が個人の成果主義に偏りすぎ、チーム力の低下が著しいことです。「他の人の仕事を手伝ってあげたいけど、自分の業績だけで精一杯でそれどころでない。」「やっても自分の業績として認められない」といった声をよく聴きます。しかしその一方で「どのような時に仕事の満足を感じますか?」といった質問に対しては「みなで力を合わせて組織目標が達成できた」や「各個人が個性と強みを発揮して組織全体の目標が達成できた」という答えが多いのです。人のモチベーション向上の中で、チームで何かをやり遂げることのインパクトはかなり大きなウエートを占めています。
営業活動という業務特性を分析してみると、個人での業務が多いと考えられがちですが、よく観てみると、営業業務との連携や生産との連携、営業担当者同士のサポートなどむしろチーム力のウエートが高い場合が多いのです。
チームでのモチベーションをアップさせるためにもチームでのブレークスループロジェクトの実施など、チームでの活動の場を意図的につくり、組織体質の変換が求められます。
まとめてみるとメンバーのモチベーション維持・向上の為のポジティブフィードバックのためには次の3つがポイントとなります。

①小さな成功を繰り返すこと
②成長の実感をもたせること
③チームでの成果を実感させること

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