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組織のリーダーの価値について思うこと

ニューチャーネットワークス 取締役 シニアコンサルタント
福島 彰一郎

 この1ヶ月は組織のリーダーについて、考えさせられる出来事が非常に多かった。

 10月中旬から下旬にかけて、タイに出張する予定を以前から組んでいた。ご存じのように、タイは東南アジアにおける製造業の中心であり、多くの工業団地を有している。日本からも、自動車メーカーをはじめとする多くの製造業が進出している。日本からの技術支援もあり、生産プロセスの品質向上・効率化が行われるようになっているが、日本や欧米企業のように付加価値の高い製品を企画・開発し、市場に普及させていくマーケティングのレベルはまだまだ低いという。そのため、GDPの成長も近年もたついている。そのため国の政策としても、イノベーションとマーケティングに取り組んでいくことが挙げられている。

 今回のタイ出張では、弊社ニューチャーネットワークスが主に日本国内で10年以上実施し続けてきた、技術マーケティングを始めとする技術経営(MOT)プログラムのタイや東南アジアにおけるビジネス展開の可能性について議論を行うのが目的であった。

 タイは小職とは妙な縁のある国で、2014年に別件で出張したときには軍事クーデターが起きた。直前からクーデターの可能性があるとニュースで流れていたが、なんとかなるだろうとの楽観的な判断で行ってみると、その2日後の夕方に軍事クーデターが発生した。政府支持派と反政府支持派の2つの政党の衝突が大きくなり、重火器まで保有するようになってしまったため、軍がプミポン国王の承認を得てクーデターを起こし、内乱を回避したということであった。そして軍が2つの支持派のリーダーを同じ牢獄にいれて、和解するまで話し合いをさせたとのこと。私にとっては初の経験であり衝撃的であったが、タイではクーデターは過去に何度も起きており、現地の人々は“クーデター馴れ”しているとのことで、ずいぶん落ち着いているのが印象的であった。現地のある方曰く、「タイのクーデターは“かわいい”でしょう」とのことであった。

 そして今回はタイに出張しようとする一週間前に、プミポン国王がなくなったのである。タイ・バンコクのスワンナプーム国際空港に到着し、町中にタクシーで移動する間に見かけた多くの人が、事前の日本での報道通り黒の服装であった。滞在中、タイに訪問する度にお会いするビジネスパートナーとミーティングすると、いつも明るい人であるが、今回は変わって神妙な顔をされている。ある面談した方には「福島さんは何か大きなことがある時にタイに来ますね」と言われ、何かしらの縁を感じたものである。

 ミーティングの合間に町中の様子をみてみると、いつも通りみな仕事をしているものの、笑顔はほとんどなく、沈んだ顔をしている。週末に時間が空いたので、王宮広場で行われていた国王の追悼に、外国人ではあるがお祈りをしにいった。若い人から年配者まで、形式的に来たのではなく、心から祈っている光景には胸を打たれるものがあった。一部の人だけが悲しむのでなく。本当に国全体が悲しんでいるという、普段見られない光景を目の当たりにした。国王は真に尊敬されていた方であったということを実感した。

 出張予定の最終日のビジネスパートナーとのミーティングでは、前半に仕事の話をしながらも、後半はプミポン国王の話となっていた。国王が亡くなり、1年間は喪に服すのだという。なぜそれほどまでに尊敬され愛されていたのかという大きな理由として、「王室プロジェクト」という社会インフラ整備や農業などの地方経済の活性化プログラムを自ら指導されていたことがあった。国の発展のために何千ものプロジェクトを考え、指揮したのであった。

 タイの行政は予算の関係で1年オーダーのプロジェクトばかりになり、民間は儲かることしかしない状況であった。そこで、数年かけて取り組む必要がある場合は、国王自ら考え、実行をリードしたという。国王はとくに水関連の社会インフラについて高い専門性をもち、担当省庁のトップよりも詳しかったという。地方視察も精力的に行い、国民の中に積極的に入っていく姿勢を貫いた。あるとき、村で急病人が出た時には、国王が使っていたヘリで病人を病院に運ばせ、自らは視察を続け、近くの船着き場まで徒歩で移動し、船で王宮に戻ったというエピソードもある。多くの国民の悲しみは、真のリーダーとしての証であった。

 ところで国のリーダーということでは、11月9日にアメリカで、まさかのトランプ大統領の誕生が決まった。英国離脱のブラックスワンに続き、またブラックスワンが起きたのであった。事前の世論調査では人々の深い心理まで把握できなかったようで、変化の期待できないクリントン氏よりも、何か変化を起こすのではないかというトランプへの期待が投票に繋がったと後付けでメディアは伝えている。しかし、今回のブラックスワンは大型である。英国離脱なら世界的GDPも小さいのでよいが、世界のGDPの25%を占める米国となると訳が違う。日本経済はもとより、一企業の業績・戦略にも大きく影響してくる。

 興味深いことに、選挙中にトランプ氏は普通の政治家ではありえない暴言を連発していたが、当選後は暴言がなくなり、所信表明やオバマ大統領との会見では紳士な姿勢に豹変していた。選挙中の暴言が本音であったのか、それとも計算された芝居であったのかはよく分からない。役割が人を変えることもあり、意外と成果を出す可能性もある。株式市場をみてみると、トランプリスクといわれ、開票中にトランプ氏の当選確率が高まると株価が900円以上大暴落した。しかし、トランプ氏が当選確実となったとたんに円安・株価が一気に1000円戻った。上院・下院とも共和党が占めて政権の捻じれが発生しなかったこともあるが、市場が思ったよりもリスクを感じなかったことの現れとも解釈できる。

 タイの国民から尊敬されたプミポン国王も、初めから期待されたリーダーだったわけでもない。当初は、兄の怪死により王位についた。トランプ氏が市場にとってまさに「トランプ」の「ジョーカー」になるのか、尊敬される「キング」になるのか。まだ今は、米大統領就任後3か月間は新政権に対する批判や性急な評価を避ける「ハネムーン期間」中でもある。真のリーダーになれるか否か、その答えが出るまで行動と成果を期待して、もう少し待ってみてもよいのかもしれない。

 国レベルに限らず企業レベルでも同じことで、組織のリーダーは率先垂範で行動して組織メンバーをリードし、メンバーと一緒に結果を出さなくてはならない。一貫性をもって継続し成果を出し続けていくことにより、組織メンバーに「リーダーとして認識される」「尊敬される」ようになるであろう。もちろん、北朝鮮のように悪い成果ばかりで、恐怖で国民に「尊敬」させているようなリーダーは論外である

 自分が優れたリーダーであったかどうかは、自分が身を引いた後にどれだけの人が惜しんでくれるのか、泣いてくれるかどうかでおおよそ判定されてしまう。メンバーを率いる組織のリーダーならばいずれ訪れるであろう、組織を去る最後の瞬間を常にイメージにしておく必要がある。リーダーシップなんて分かっている、自分はできていると思っている人ほど要注意である。よくよく自分のリーダーシップが組織メンバーから惜しまれるものなのかと、時折反省したいものである。

 

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