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「成功は集中から、失敗は分散から」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第48回

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

ビジネスで最も大事なことは集中することです。対象を絞り集中することで、他社と差別化し、経営資源を有効に活用し、効果的、効率的にビジネスを展開できます。これは会社組織でも個人でも同じだと思います。成功していない組織、個人はフォーカスすることを恐れ、差別化が不十分で、商品や作業の種類が多く、非効率的です。今日のように、需要よりも供給が多い成熟した市場では、集中することにリスクテイクしなければ、資源分散し、差別化が不明確になり競争に負け、むしろリスクが高くなる可能性もあります。

ビジネスにおいて絞り込む対象の中で、最も大事なことのひとつにターゲット顧客があります。どんな特性を持った誰を顧客顧客にするかで、ヒト、モノ、カネなどの経営資源の幅と集中度、持つべき知識の幅と専門性、進化のスピードが全く異なります。また顧客は、商品の価格帯を決め、企業のブランドイメージをも決定づけます。このように顧客を誰にするかは最も重要な戦略といえます。

前にも述べたとおりターゲット顧客とペルソナは異なります。ペルソナは、ターゲット顧客の中の特定の実在する顧客の価値観、ライフスタイル、行動、意識をモデルとして記述したもので、ターゲット顧客とは、マーケティング戦略上、焦点を当てて狙うべき顧客属性です。顧客属性とは年齢、性別、家族構成、居住地、年収など統計的に把握できるもので特定された集合です。

事業戦略構想ではこのターゲット顧客を決めます。ターゲット顧客の設定の条件は以下のようなものです。

①他の顧客への効率的な波及効果
ターゲット顧客との取引による他のセグメントへの波及効果。できるだけ高価格を維持しながら顧客セグメントを最大化するためのはじめに攻略すべき顧客。例えば、20代の働く独身女性をターゲットにした場合、40歳以上の専業主婦のセグメントは展開しにくいが、30歳代の家族持ち女性には展開しやすいなど。

②一定期間の利益の最大化
①と連動して検討すべき条件だが、ビジネスを5年間継続した場合の得られるべき利益が最大になるターゲット顧客と5年間の顧客セグメントの組み合わせ(顧客ミックス)を検討する。いくつか選択肢をつくりシミュレーションしてみる

③強い自社資源の顧客経験価値への直結
自社の強い経営資源、コアコンピタンスで顧客経験価値を最大化できるターゲット顧客を選定する。他の方法では得られない高い顧客価値と認知する顧客を選別する

④顧客経験価値やブランドイメージの明確化、最大化
商品、ビジネスモデルが提供する顧客経験価値が最大化し、かつブランドイメージを明確化する顧客の選別。「あの顧客が使っているのか」と、顧客がブランドイメージを明確に伝えてくれること

⑤他社と競合が少ない、差別化ができること
他社と競合しない、つまり自社の差別化が訴求できる顧客ヘの絞り込み。もしくは競合他社があきらめて狙わない顧客

ターゲット顧客は単純に絞ればよいのではなく、企業の強みや戦略に応じて柔軟な発想が必要で、それ自体が重要な戦略です

例えば、センサーの製造販売のキーエンスは、自動車、電気から食品まで生産の自動化に大きな投資をした顧客の歩留まりなどの精度を調整するためのセンサー市場をターゲット顧客にしています。大きな投資をした顧客は、その投資を回収するために追加の支出や投資を惜しみません。そのため単価は高く維持できます。あらゆる産業の顧客に分散させているため景気の変動を受けにくく、安定して長期間成長を続けています。つまりキーエンスのターゲット顧客は、オートメーションに大規模投資をした顧客となります。顧客のシーン、タイミングでターゲットを決めており、業種や業界、企業規模などではありません。

無印良品の良品計画は、自己主張しないプレーンで自然な安心安全な商品を好む消費者をターゲットにし、その結果、他に購入したものとの合わせやすさを求める顧客や、どのブランドを買ったら良いか迷う顧客、部屋や持ちもの、衣類などのコーディネートで失敗しないことを望む顧客など、広い顧客層を獲得しています。

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