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「新しい社会での、新たな需要を創造する企業」が脚光を浴びる ~新型コロナウイルスで激変する経済社会で~

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 緊急事態宣言が解除され、2次感染を恐れつつも、オフィスに出勤する人が多くなりました。それと同時に会社の経営状況も次第に管理職レベルまで共有されはじめました。1-3月の業績の急激な悪化とその後の見込みが立たない現状に、中小企業にかかわらず、トヨタはじめ大企業も資金調達を急いでいます。またキャッシュの流出を止める止血作業も始まっており、企業経営はサバイバルフェーズに入っています。
 リーマンショックと比較しても企業の反応は遅い気がします。役員はじめ多くの管理職、スタッフは、自粛で自宅にいなければならず、ネットで情報共有は行うものの、家族もいる自宅では会社モードをストレートに出しにくいためか、危機感の共有に時間がかかっているように思えます。しかし、世界のどの経済指標を見ても、今回は過去経験したことのない危機的状況であることには違いはありません。
 「生き残る判断 生き残れない行動」(アマンダ・リプリー著 光文社)によると「人はテロや大規模災害などの生命が危険にさらされる場面でも多くの人は、『自分たちは何とかなるだろう』という心理的バイアスがかかることが多い」と述べています。実際米国証券会社のリーマンブラザーズが破たんした2008年9月15日の2日後に同社に所属していたアナリストと会う機会があり、その破たんが決まった瞬間の状況を聞くと「国が支援してくれると思っていた。はじめは破たんの意味が理解できなかったし実感もなかった」と話してくださいました。今回もそうなのかもしれません。

■「コロナ後」、果たして市場、経済は変わるのか?

 今現在もほとんどの企業では新規投資は凍結されています。そして今年度上期中にも資金面で苦しくなり、借り入れを増やす企業が多くなると思われます。それは金融などの一部を除き、あらゆる産業で発生すると思われますが、特に米中市場への依存度が高い、グローバル化が進んだ企業で特に顕著になると思います。
 「コロナ後」は果たして市場、経済は変わるのでしょうか?私は大きく変わると考えます。あえて別な言い方をすると「乗り越えなければならない」といった表現が正しいと思います。新型コロナウイルスをきっかけとした環境変化は、受け身やマイナス思考で対処し、結果として「変わってしまう」のではなく、「自らが変化を受け止め、乗り越えていく」ものとして捉えていくべきです。人がウイルスに感染し、苦しみ、多くの犠牲を出すが、努力してウイルス抗体を保持するようになるのと同じです。
 乗り越えるべき課題はいくつもあるかと思いますが、私はここで大きく5つ挙げたいと思います。

①素早い決断力で経営・事業の資金流出を止め、必要資金の調達を急ぐ

 経営の継続性を前提にすると、2年以上業績の回復が見込めない事業は、売却、撤退なども覚悟しなければならないでしょう。また事業が本格再開するまでの期間、無駄なキャッシュの流出を防ぐ方策を即時に実行しなければなりません。知識、スキルといった知的資本以外の資産はその保有を徹底的に見直さなければなりません。危険なのはそういった保有資産の見直しを一切せずに借り入れをする企業です。売上、キャッシュを生まない費用が流出し、せっかく借り入れた資金が「無駄」になります。銀行や金融機関も、コロナの危機的状況だからではなく、将来売上やキャッシュを生み出すから資金を提供するようにしてほしいと思います。
 資金に余裕のある企業はM&Aを行い必要な資産を手に入れることができると思います。その結果、産業構造も変化します。とくに異業種間のM&Aは、過去の業界の思考に縛られない新たな価値を創造できる可能性が高いと期待できます。

②資産の徹底共有、活用のためのアライアンスを実行する

 日本企業の多くでアライアンスは掛け声だけで、実施し、成功するものは限られていました。なぜなら根強い内製化志向、内部志向と標準化された業務が極めて少ないためです。
 コロナショックで、こうした内製化志向、内部志向は完全に打ち砕かれると思います。なぜなら企業は当面のあいだ新規投資ができず、しかし一方で新製品・サービスを開発し販売しなければなりません。そこで、他社の設備、販路、ブランドを活用するという資産共有のためのアライアンスが活発化し、当たり前になると思います。同じ設備を複数社で利用すれば、設備稼働率は高まり、固定費や原価は下がります。つまり利益が上がりやすくなるのです。また万が一の時には撤退もしやすいのです。

③格差問題、地球環境問題などの社会課題の解決と、顧客の潜在的ニーズを同時に満足させる

 新型コロナ問題は、世界の人々に、改めて「社会の重さ」を突き付けました。格差問題や自然環境破壊、行き過ぎた都市化や社会インフラの弱体化などは、すべての人を危機に追い詰めるということです。2020年5月末に発生した米ミネソタ州ミネアポリスでの黒人男性のジョージ・フロイドさんが警察の拘束下で死亡した問題は、全米だけでなく、世界に広がり、米国では暴動化しました。
 環境問題、格差問題など、若い年代層では社会課題に対する危機感は強く、行動や生活の仕方の判断基準の大きな部分を占めるようになりました。企業が提供する製品・サービスは、単にその機能や価格だけでなく、社会課題とどう向き合って、解決に貢献しているかが問われています。小手先でのお付き合いレベルのCSR、SDGs活動を立派なアニュアルレポートで飾っても、社会の目はごまかせません。株主や顧客だけでなく、地球のすべての人、社会に対し、しっかりした信念に基づいた、直接的で高いインパクトの貢献ができなければなりません。

④新たな意味を感じる顧客経験価値を提供する

 リカーリング、サブスクリプション、シェアリングエコノミーなどが隅々まで普及し、顧客は所有することよりも利用を重視し、さらに利用することから利用することで得られる意味的価値つまり顧客経験価値を意識するようになりました。コロナショックで、所有することにより資金が固定化することのリスクが高まったこともあり、顧客経験価値に対する要求はますます高まると思われます。顧客経験価値で最も重要なのは金銭に変えられない体験です。世界観、フィロソフィとその実践を通して、儲けを超えた圧倒的な存在感が示せるかが勝負となります。

⑤人間臭さ、人間味を拡張するためにIoT,AIなどのITを利用し、人の幸福感を増幅させる

 新型コロナの自粛で多くの方が経験したネット会議システム。そこでもっとも大切なことは、ITの操作でも、AIによる解析でもなく、「人としての信頼」と「人間臭さ、人間身」です。信頼されていなければ繋がることはできませんし、人としての魅力がなければネット飲み会にも呼ばれません。IT(インフォメーションテクノロジー)が目指すものは、最終的には人の幸福感の増幅です。共感し、伝え、行動し、互いに助け合うこと。ITは我々の社会生活にはなくてはならないインフラです。新たな需要創造にはITを使って人の幸福感を増幅させることが必須です。

■「新しい社会での、新たな需要を創造する企業」が脚光を浴びる

 今回の経済危機は、コロナウイルスの自粛による強制的な需要の縮小が引き金になって発生しています。毎日の通勤、病院、マッサージ、外食。「なくたってなんとかなる」と思うものも多かったのではないでしょうか。そして無駄をそぎ落とした簡素な生活に慣れ、かえって健康でよい暮らしを手に入れた人も少なくないと思います。確かにその分の需要は減少したままになる可能性が高いと思います。そもそも必要でなかったのだと思います。冷静になり発想を変えるべきです。
 しかし一方で人は新しい社会づくりを夢見ます。次の社会のイメージができてくれば、そこから新しい需要が創造されるはずです。その新しい社会のイメージを創り出し、新たな需要を掘り起こす企業と人が爆発的な成長を遂げるのです。それはこれまでの産業とは全く違った、領域、組織構造、仕組み、リーダーシップで出来上がっているでしょう。
 新型コロナの環境下の経済危機の中で結論として言えるのは、「新しい社会での、新たな需要を創造する企業」が脚光を浴びる、ということです。

 

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