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低収益企業に共通する課題は、①低利益製品への資源配分、②大雑把な製品利益管理、③組織の部分最適

ニューチャーネットワークス チーフコンサルタント
張 凌雲

  利益率が改善しない企業の問題点は、「低利益の製品を作り続けていること」です。現場では日々改善を行っているものの、いくら売っても儲からない製品のために改善活動を行っているため、抜本的な収益改善にならないのです。こういった企業に共通する課題は以下の3つです。

低利益率の製品に、組織の経営資源の多くが投入されている。
利益が製品ごとに把握できない、または製品別の粗利までしか把握できず、どの製品が事業に貢献しているか判断できない。
組織の縦割りにより自部門の業績、生産性向上を重視した部分最適のマネジメントになっている。将来の成長に向けた全社視点での資源の再配分が行われていない。

 膨大な製品数を抱えている企業でも、継続的に生産している製品はごく一部です。ある会社では、システム上登録されている製品の7割以上が、一年間一度も生産されていないということもありました。
 このような企業は、売上・利益の維持、顧客関係性の観点から、製品を削減できない「言い訳」が営業などの現場サイドから必ず出てきます。結果、製品の絞り込みができず、抜本的な収益改善につながりません。製品の絞り込みが進まないのは、社内の利害関係者が言い訳できる状況を作っているからではないでしょうか。

■ 製品絞り込みによる収益改善

 営業担当者にとっては、製品数が多ければ顧客の様々なニーズに対応した製品を提案でき、また製品購入者にとっては、自分に合ったものを選べる便利さがあります。しかし、企業にとって売れ筋製品というのはある程度決まっており、新製品を出し製品ラインナップが増えると、売れ筋製品への資源投入が不十分になります。
 製品の絞り込みは、サプライチェーン全体で経営資源の効率的な活用につながります。
 営業面、物流面、調達・製造面、開発面での収益改善は以下の通りです。

①営業面での収益改善

  • 営業担当者は、製品の絞り込みを行うことにより売れ筋製品に対する商談に集中することができる。例えば、日用品、食品の場合、大手流通の本部レベルでは新製品が採用されても、各店舗では実際に導入(店頭に配下)されていない場合が多い。営業担当者は、製品の配下率を上げるための営業施策を徹底して行うことができるようになり、結果、収益性の高い製品の販売が伸び収益改善へ繋がる。
  • 商品1点あたりの販促費用が増えるため、重点製品への大規模な販促活動を展開しやすくなる。
  • 製品知識を深めることで、顧客への製品の価値訴求、提案力が向上し、価格訴求以外の付加価値提案ができるようになる。

②物流面での収益改善

  • 製品数を減らすことで不人気商品の滞留在庫が減少する。在庫回転率、粗利率の向上、廃棄損や倉庫保管費用が削減される。また、在庫管理にかかる工数も削減することができる。

③調達・製造面での収益改善

  • 使用する原材料が絞り込まれ、かつ消費量が増えるため、大量購入による価格交渉力が増す。
  • 採算性の悪い製品に生産ラインを占有されることがなくなる。一つの製品の生産時間が長くなり、生産高、設備稼働率も上がる。
  • 設備の切り替え作業が少なくなり、生産性、歩留まり、品質が向上する。
  • 売れ筋製品の納期遅れ、欠品などによる機会損失を防ぐことができる。

④開発面での収益改善

  • 主力製品の開発に集中でき、品質・機能性を向上させ製品力を強化できる。
  • 新分野、新技術開発へ資源を投入できる。

 

■ 製品絞り込みが進まない要因

①製品別・顧客別の収益管理
 利益率が低い企業は、製品別の収益を粗利までしか把握していないことが多くあります。粗利率が高くてもリベートや販促費用の営業コストが多くかかり、営業利益では赤字になっている製品も多くあります。
 自社製品を顧客に販売するまでに、サプライチェーンのどこにどれだけのコストがかかっているかを把握する必要があります。営業利益で儲かっていない製品をデータで示すことで、社内の製品削減に対する抵抗を防ぐことができます。

②大口得意先の収益減少
 大口得意先向けの受注製品やPB品の廃止は、一定の売上・利益が減少するため、担当事業部や営業からの反発を招きます。特別なオーダー品を除いて、受注製品は顧客によって売価が決められることが多く、売上は上がるが利益は確保できない場合が多くあります。PB製品は、工場の稼働率維持、顧客の全量買い取りにより固定収益が確保されるメリットはあります。しかし、ブランド力が劣化するケースが多く全体として低利益化する傾向があります。
 利益改善に成功したある企業は、顧客に対してPB品の開発・販売を減らし、標準品の価値訴求、販促活動を強化しました。結果として、PB品による総売上は下がっても、利益率の高い標準品の売上を伸ばしたことにより、顧客から獲得する利益額は同じ、または増加したのです。

③他商品との相乗効果の減少
 製品ラインナップが少なくなると、自社の他製品と併せて購入してもらうクロスセルや上級グレード購入を促すアップセルが望めなくなるという懸念が出ます。
 しかしある企業では、アップセルを行うため、本来売りたい製品(高利益率)の下のグレード(低利益率)をラインナップし、高利益率品への誘導を狙っていましたが、実際には低利益率の製品の方が消費者に「お買い得感」を与えてしまいました。その結果、低利益率品がその会社の販売主力製品になってしまったといったケースもあります。このような場合、低利益率製品を売り続けるのか、グレードを見直して製品を統廃合するのかの判断をしなければならなくなります。

 

 製品の絞り込みを成功させるためには、製品別収益を営業利益まで見える化し、どの製品が自社の業績に貢献しているかを関係者に納得させることです。同時に製品の廃止による組織・個人業績低下を防ぐ施策を検討し、実行することです。
 製品の絞り込みは、単なる低収益・赤字製品の絞り込みだけではありません。絞り込みによって生まれた経営資源をもとに、コア製品をどう差別化するのか、どの技術・製品を将来の核としていくかという成長戦略と併せて、事業のバリューアップを検討しなくてはなりません。

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