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医療と非医療のはざまに生まれる新次元(下)

日本医療政策機構 エグゼクティブ・ディレクター
宮田 俊男

2016年2月4日に弊社で主催いたしました「高信頼多機能ウェアラブル・バイタルサインセンサ 普及啓発トークセッション」において、日本医療政策機構エグゼクティブ・ディレクターの宮田俊男先生にご講演いただきました。本コラムでは、前回に続き当日の講演録をご本人の許可をいただき掲載させていただきます。

株式会社ニューチャーネットワークス

※本トークセッションは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業である「クリーンデバイス社会実装推進事業/高信頼多機能ウェアラブル・バイタルサインセンサの用途開拓・普及事業」の一環として開催いたしました。

  

■  我が国の医療制度の概要

一方で、日本国民皆保険が始まって約60年経ち、フリーアクセスの制度は非常にいいのですが、次々と健康保険組合が赤字になり国の借金がどんどん増えています。2050年には1人の高齢者を1人の働き手が支えるような社会になっては困るわけです。これをどうにかしなくてはいけないのです。

図1
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 海外から輸入するというお話をしましたが、日本は本当に技術研究に優れています。それこそApple Watchにしても、実は日本の会社も以前から同様のものを作っているのですが、なかなか売れないのです。いい研究をするということと実用化させ普及をさせるということは全く別次元なのだということを、そろそろ認識しなければいけないと思います。

 よく学生の方にも言うのですが、とある細胞の研究や動物実験に成功しましたと発表すると国民は大変期待するわけですが、一向に実現化しないのです。そしてアメリカやヨーロッパが実用化させて市場を取られてしまうのです。アメリカやヨーロッパはインフラ整備やルール構築を戦略的に巧みに扱い、「医は仁術」のサイドと「医はビジネス」のサイドを両立させながら両輪で進め、非常に実用化の環境が良いわけです。

 アメリカの医薬品発見源の内訳のこの10年を見ると、アメリカの新薬の約6割は大学や大学発ベンチャー企業より出ています。(図4)最近では小野薬品のPD-1抗体という免疫薬があるのですが、小野薬品は京都大学と一緒にこの研究を世界で初めてやりましたが、アメリカとかヨーロッパのマーケットはブリストル・マイヤーズが販売権を取っているので、アメリカ、ヨーロッパの利益の多くはブリストル・マイヤーズに入るわけです。産学連携をいかに促進していくかということが非常に重要なのです。

図2
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 日本の製薬会社も開発能力は高く、医療機器メーカーも同じですが、なぜなかなか世界ランキング10位以内に入れないかと言うと、国民皆保険制度の恩恵を受け安定的利益があるということも一つ原因と言えるでしょう。しかし、製薬会社も医療機器メーカーも、診療報酬などの環境が厳しくなっているため、急に再編統合が加速化しています。ジェネリック医薬品の比率も早い時期、2019年か2020年には80%に達するという目標が立っていますので更に厳しくなっていくことが予想できます。さらに、これはイギリスが有名ですが、薬の保険償還を費用対効果で評価するということも始まってきました。今回の診療報酬改定で日本でも始まります。こうした状況下でどのように生き残りを図っていくのかというと、例えば大塚製薬とプロテウス社のデジタルメディスンの事例があります。薬の錠剤にチップを埋め込んで、飲んだらちゃんと飲んだかどうかがリアルワールドで分かるというものです。こういう患者中心の医療がクラウド技術やスマートフォン、あるいはビッグデータにより可能になってきており、非常に注目されているトピックです。

 

■  未病とは

 神奈川の黒岩知事は非常にヘルスケア、医療に熱心な方です。今黒岩知事がやっているロボットハンドのリハビリ機器ですが、これはもう既に流通しています。なぜ流通しているかと言うと、非医療機器なのです。もし医療機器に分類されたらなかなか認可されませんが、薬機法に触れるような効果を狙わず、リハビリの福祉用具として世に出したのです。つまりこういった、まさにはざまの問題というのが、企業の発展に非常に重要なのです。

 健康と病気の間に連続的な「未病」という概念を入れて、脳卒中や心筋梗塞はもともと動脈硬化が進展していくわけですが、こういうものを早期に見える化して、早期に介入していくようにしましょうというものです。東京大学の研究ですが、スマートフォンで電話をし、その声を一定時間拾い解析します。そうすると例えばうつ病寸前の人を捉えて、「これ以上頑張るとうつ病になっちゃうから、ちょっと休んだ方がいいぞ」などを知らせます。ME-BYO®ブランド第1号として認定されています。

図3
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 いろいろなデータをクラウド技術で集めて、ヘルスケアICTからヘルスケアIoTに、まさに時代が変わろうとしているわけです。そうしたものを加速する仕掛けとして、去年マイナンバー制度が決まったわけです。マイナンバーに医療情報をダイレクトにくっつけるわけではありませんが、マイナンバー基盤のインフラを使っていけるのです。それは今、厚生労働省の方で医療等IDが検討されています。

 こういった動きは欧米では今かなり進んでいまして、アメリカなどは大統領がイニシアティブをとって、血液データだけではなく社会活動のいろいろなデータを集めて、それをビッグデータとか人工知能で解析をして、それを個人の生活改善につなげるということが推進されています。

 こういった中で地域包括ケアシステムをどうしていくのかと考えると、急性期病院は集約・統合し、在宅医療の方向にシフトし、薬局をどんどん活用し、看護ステーションも活用する。そうするとそれぞれの職種の仕事がどんどん忙しくなりますので、やはりそこに中小企業を含めて、ものづくりやICT、IoTの日本の企業の開発力や大学の研究成果を取り入れて一緒に産学連携を進めていきながらではないと、地域包括ケアシステムは完成しないだろうと考えております。

図4
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■  今後の方向性のポイント

 最後になりますが、まさに今グローバルにおける中で、世界的なオープンイノベーションをどのように進めていくのか、その中で当然この皆保険制度を維持しなければいけないけれども、イノベーションの推進も両立させていかなければいけない。そういった中でIoTは非常に重要なキーワードになると思います。さらに今後は、費用対効果が高いものを医薬品メーカー、医療機器メーカー、あるいは再生医療メーカーが作っていかなければなりません。そうすると、やはり「患者中心の視点」が非常に重要です。国民の理解を得ていきながら、一方でスピード感を持って進めていかなければなりませんので、ぜひこの集まりやコンソーシアムで、この点を検討していただきたいと思います。

 

【宮田俊男先生 略歴】 

dr-miyata

◆所属・役職

日本医療政策機構 エグゼクティブ・ディレクター
大阪大学産学連携本部 特任教授
京都大学産官学連携本部 客員教授
内閣官房健康・医療戦略室 戦略推進補佐官
など

◆経歴

1999年早稲田大学理工学部機械工学科卒業
2003年大阪大学医学部医学科卒業
外科医として大阪大学医学部付属病院等で手術・治験・臨床研究・再生医療等に従事
臨床現場の課題を行政的に解決するべく厚生労働省に入省
現場を知る医系技官として税・社会保障の一体改革、臨床研究関連予算の設計、薬事法改正、再生医療新法の立案、先進医療制度改革、特定看護師の初期設計を始め数々の医療制度改革に関わる。
2013年9月より日本医療政策機構に参画
2013年11月より内閣官房健康・医療戦略室 戦略推進補佐官

◆主要論文・著書

「医師主導治験 改正GCP省令のポイント」(じほう)
「企業治験 改正GCP省令のポイント」(じほう)
「医療機器治験 改正GCP省令のポイント」(じほう)
「製薬企業クライシス」(エルゼビア)
日経メディカル「医師こそ戦略思考を」連載中
総合診療のGノート「どうなる日本!?こうなる医療」連載中

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