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競合分析が不十分な企業・組織は効率化とコストダウンだけに依存しがち

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 2015年1月末に拙著『勝ち抜く戦略実践のための競合分析手法』(中央経済社)が出版されました。今回のコラムでは、なぜ私がこの本を書くに到ったか、グローバルネットワーク社会での競合分析とはどのようなものなのか、そして今後の競合分析手法の課題とは何かをお伝えします。

企業の中で競合分析はどの程度実施されているのだろうか

 「競合分析」「競合ベンチマーキング」は、新製品・新事業戦略、中期経営計画など「戦略」と名の付く企画作業では、極めて常識となっています。しかし実際に企業では、どの程度競合分析が行われているのでしょうか。みなさんの会社はいかがでしょうか。私のコンサルティングの経験からですが、7~8割の企業では競合分析が不十分なまま、戦略が企画されていると感じています。その結果、自社より勝る競合と同じような事業領域で、確たる差別化策もないまま事業を行っていることが多いのです。競合を意識しない企業・組織では、強い競合と比較して、ヒト、モノ、カネなどのリソース、さらにはスキルやノウハウが圧倒的に不足している中で、仕事をすることになります。

そのような状況では、施策の中心は「差別化」ではなく「効率化」と「コストダウン」に偏りがちです。競合と自社を徹底比較すれば、勝てる製品、事業は限られてくるはずです。そこにリソースを集中すべきなのです。

 現代のようなグローバルネットワーク社会では、極端な話、日本一では生き残れません。世界一でなければ存続できません。なぜなら、良いものはネットを通じて広まり、活用され、それ以外は見向きもされない可能性があるからです。特にBtoBであれば、顧客企業は、弱い製品・サービスを購入すること自体が競争劣位になるからです。

 競合分析を徹底して行えば、勝てない技術、製品、事業からは撤退、もしくは戦略を大幅に見直し、リソースを強い分野に集中することができます。

 しかし、なぜいまだ多くの日本企業で競合分析が徹底されていないのか。私は「競合分析」の知識、スキル不足以前に、いくつかの日本企業の体質に問題があると思います。

 一つ目は、経営者の短期売上志向です。「自分が責任者の間は売り上げを下げたくない。だから少しぐらい弱い製品・事業でも継続する」という意識です。

 二つ目は、現状肯定の思考です。一度始めた技術開発、製品からは中々撤退できない。「撤退は人や組織を否定することになる」といった思考です。今日のように環境が非連続の社会では、現状肯定型のマネジメントは致命的となります。

 三つ目は、内向き志向です。市場での顧客や競合の動きよりも、社内でのすり合わせや調整を重視しがちです。市場の行き先が見えやすく成長していれば、方針も立てやすく社内調整が課題となりますが、市場の動きが激しい現在では、常に顧客、競合から目が離せません。

単なる「競合分析手法」だけではダメ。組織の体質そのものを変革すべき

 競合分析は、単なる手法を知識、スキルとして学べばよいものではありません。なぜなら、スタッフが競合に関する情報を入手し経営トップに報告しても、経営者の的確な意思決定や実行が伴わなければ、何も変わらないからです。

 そこで本書では、現場での競合情報の収集から、タイムリーに意思決定される経営トップまでの「競争を意識した組織体質」にどう組織を変革するかを述べています。競合分析は、プロジェクトチームを作ってある一定期間実施し、決められた期日の会議で報告すれば終わりというものではありません。社員全員が「インテリジェンス」として常に競合情報に敏感になり、そこで集められた情報を組織全体で共有し、素早くトップダウンで意思決定できる組織になっていなければなりません。

 本書ではそれを1章の「ある電子部品A社の120日間」というケーススタディで、解かりやすく説明しています。

トップダウン・ボトムアップでの意思決定

グローバルネットワーク社会で、いったいだれが競合なのか

 「スペック比較では完全に勝っている。しかし事業収益に結びつかない。」といった状況が多くなっています。なぜなら、競争のキーが、製品・サービスでなくそれを組み込んだビジネスモデルであったり、その上位の概念のエコシステムであったりするためです。勝てる陣営に入っていないと、いくら製品・サービスのスペックが良くても絶対に勝ち目はないのです。最近、ようやく日本企業も重視しはじめた国際標準化についても同様です。自社の方式を国際標準化にまでもっていかなければ、製品・サービスがいくら良くても存続できません。

 そこで本書では、競合分析を製品・サービスに限るのではなく、①エコシステム・ビジネスモデル ②バリュー・チェーン ③製品・サービスの3階層での分析手法を紹介しています。競争が製品・サービスというコンテンツでの競争ではなく、エコシステム・ビジネスモデルといった外部要因を組み込んだコンテキスト(文脈)になってきているのだと思います。新たなセンスと行動力が必要になってきています。

3階層連動競争戦略の基本コンセプト

競合の過去と現在を分析しただけでは意味が無い

 競合分析のほとんどは、競合の過去と現在の分析です。しかし、競争戦略は将来に対する構想です。さらに、将来の環境は現在とは大きく異なっているはずです。今とは異なる経営環境の中で、自社と競合は競争するのです。したがって、将来の環境変化を予測した上で、そこでの競合の戦略を推定し、自社がとるべき戦略を構想することになります。

事業環境変化による強み・弱み・機会・脅威の変化

 先ほど述べた3階層での競合分析に加え、将来の環境変化シナリオを前提とした競合の戦略を推定するのは、かなり複雑です。必要性は理解できても、なかなか実践できないのが正直なところでしょう。私も同様でした。しかしコンサルティングの現場を通じて化学、部材、部品、電気通信などの多くの産業で複雑な分析を長年実践してきた中で、手法をコンセプチャルにまとめ、比較的実践しやすくすることができました。

 その方法論とは、まずいくつかの環境シナリオを予測することです。そしてその複数の環境シナリオごとに、競合の ①エコシステム・ビジネスモデル ②バリュー・チェーン ③製品・サービスの3階層がどのように変化するかを分析することです。

 このような手順を踏めば、競合のいくつかの環境シナリオごとの変化が解り、その変化に対応するような形で競争戦略を企画できます。

 しかし、これでも競合の将来戦略は十分に把握できるものではありません。いくつかのシナリオを持つことで、競合の動きがよくわかり、競合に対して素早い反応が可能になるのです。その結果、競争戦略を素早く実行に移し、結果として競合に勝てる可能性が出てくるのです。それは、環境変化や競合の動きに対する企業の身体能力を高めることだといえます。

今後の競合分析手法開発の課題

 今回出版した書籍は、これまで私が大手電機メーカーの技術者・研究者向けの研修、ワークショップや、様々な産業の技術、製品・サービス、事業戦略などで実践し検証してきたものを、ひとまずまとめたにすぎません。今後も時代とともに競合分析手法は変化していくと思います。

 最後に、経営手法の研究、コンサルテーションに関わるものとして、今後の競合分析手法の開発課題を3つ挙げてみました。

競合を意識する組織体質強化

 変化の多いグローバルネットワーク社会では、巨大な組織であっても、数名のコンパクトな組織の様に機動的に動ける組織に変革することが求められます。社内外のネットワークを活用し、自律的に競合の情報を入手し、組織の末端で判断・行動できる組織風土を確立するためには、何をすべきか。そういった組織へのトランスフォーメーションを「競合」「競争」というファクターから研究することが第一の課題です。

顧客、競合、パートナー企業の情報を収集分析するインテリジェンス力の強化

 外部の情報を瞬時に、かつ的確に獲得できるか。そのためのネットとリアルでのコミュニケーションを、いかに行うべきか。さらに、それらを総合的に分析する力をいかに身に着けるかが大事になります。競合を含めた外部の情報を収集し、分析し、意思決定に活用すること、つまりインテリジェンスが重要となります。企業のインテリジェンス能力を高める方法を研究していかなければなりません。

ビッグデータを切り口にした競争戦略
 すべてのモノがネットにつながるIoT(Internet of Things)時代の到来と言われています。ユーザーや社会の視点では、実は異なる業界同士が高い相関性を持っていて、「ビッグデータ分析」がきっかけで、一気に融合するといったことが起こると思われます。たとえば医療と食品、運動などです。これからはますます多くのモノがインターネットに繋がれて、既存業界のダイナミックな融合と新たな市場の創造が起こると予想されます。そのような環境での競争戦略は、これまでのように業界内に閉じたものではなく、広く顧客視点、社会の視点から捉えたものでなくてはなりません。研究課題の三つ目は、ビッグデータを切り口にした競争戦略です。

 競合を分析することとは、自社を知ることであり、市場を知ることでもあります。競合分析の良いところは、「競合」を意識することで、それがよりシャープで現実的なものになることです。さらには、健全に競い合うことで、社会や顧客に貢献でき、自分も磨かれていくのだと思います。ぜひこの機会に拙著『勝ち抜く戦略実践のための競合分析手法』をお読みいただき、お仕事にお役立ていただければ幸いです。

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