大がかりな全社戦略プロジェクトはなぜ失敗するのか?
組織パフォーマンス向上「グローバル・ビジネスリーダー」”
グローバル経営戦略に見られる大規模プロジェクトの失敗
ここ数年多くの企業が、中期経営計画などでグローバル経営戦略を打ち出している。社内外で発表が行われ、すでに3年以上が経過する企業も多い。経営コンサルタントを呼び、プロジェクトを組織化し、大がかりなグローバル戦略計画が描かれ、事業のグローバル化を推進する組織体制も出来上がった。しかし、一向に成果が上がらない。成果が見えないばかりか、トラブルも多く、かかわる人もなぜか次第に減ってきて、社内には「誰がこの責任をとるのか?」といった批判もちらほら出るようになる。グローバル化推進担当責任者も人事異動で変わってしまい、新しい担当責任者が、起死回生とばかりに別のコンサルタントに依頼する。その結果、グローバル化のための大がかりな仕組み、システム導入が再び計画される。だがその準備にも半年以上の時間がかかるとのこと。準備、計画中に事業環境が変わり、実行前にその計画も色あせて見えてしまう。
このようなことは、最近ブームのグローバル経営戦略に限らない。SCMプロジェクト、新事業開発戦略、組織統合、企業買収、人事制度改革、CSRの仕組みなど、大きな改革、変革には同様なことが起こりやすい。管理職も含めたすべての社員が「改革疲れ」に陥り、無力感を感じていることも多い。すべての問題の根源は「人材育成」にあるということで、たくさんの研修を始める企業もある。
経営トップ、管理職、社員、だれかがサボっている訳でもないし、無責任だと言うことでもない。皆、自分の持ち場をしっかり守っている。しかし、大きな戦略プロジェクトで、会社を変革することがなかなか出来ていないのである。
大規模プロジェクトの失敗は何か?
大規模プロジェクトの失敗の原因は一体何か?MBAをもった優秀なコンサルタントや企業の戦略企画部門の方、選抜されたプロジェクトチームが、大きな戦略プロジェクトを長期間の詳細な計画に落とし込み、リスク分析をしたとしても、大型プロジェクトの失敗の確率は極めて高いのが現実である。
我々がコンサルティングの現場を通じて認識する、大規模プロジェクトの失敗の原因は次の様なものである。
- 事業外部環境が変化し、プロジェクト計画の実現性が薄れてしまう
- 社内の組織内部に予測しないことが発生し、プロジェクトの計画が実行しにくくなる
- プロジェクトが大きすぎて、多くのサブプロジェクトが必要となり、そのサブプロジェクトの間に発生する境界領域の仕事を避ける傾向が強い。空白が出来る。
- 「自分達は与えられた範囲の仕事をしたのだからそれで良いだろう」といった思いがつよくなり、プロジェクト全体の結果に責任を感じていない。
- 多くのサブプロジェクトが統合されないまま進んでしまう。
- 社内外の環境が変化しているにもかかわらず過去のやり方を繰り返す。計画外のことは取り組まない。新たな挑戦や試行錯誤が許されず、学習がほとんどない。
- プロジェクトが大きすぎ、その期間も長いため、成果が実感しにくい。プロジェクトの目的、ゴールを見失いがちで、手段や方法論が目的化してしまう。
このようなことを放置する結果、プロジェクトリーダー、メンバーの心の中にプロジェクトの目標達成への不安感が高まり、モチベーションが低下し、新たな発想やアイデアが出にくくなり、さらには行動量が低下し、実際にプロジェクトへ投入する時間がどんどん減っていく。
このような傾向は、一流大学の出身者が多い大きな企業で発生しがちである。また個人でいうと論理的、分析的に優秀と言われる人に多く見られる。優秀さが邪魔をしている様にも思える
ブレークスループロジェクト
大きな戦略やプロジェクトは確かに必要な場合も多い。ではどの様にして大型プロジェクトで発生する問題を解決するのか。ニューチャーネットワークスでは、これまで約10年の間、ブレークスループロジェクトと呼ぶ短期間のゴールを設定したプロジェクトに取り組んできた。その数は大小300件以上にのぼる。ブレークスループロジェクトのコンセプトとは次のようなものである。
- 大きく長期間のプロジェクトを8週間から12週間程度の短期間のプロジェクトにする
- 短期で達成する具体的な数値目標を設定する
- 結果を達成することを強く意識し、その達成に直接関係する行動に集中する
- 社内外の環境変化を柔軟に受け止め、過去のやり方や習慣にこだわらず、試行錯誤や新たな挑戦をする
- 結果を出すことを強く意識して、部門組織やサブプロジェクトの壁を取り払い、柔軟に連携出来るようにする
ブレークスループロジェクトとは、大きな戦略プロジェクトを、そのコンテクスト(意味)を維持しながら、短期のゴールが設定された小さなプロジェクトに再生成し、その短期のゴールの達成に集中することで、組織、個人の壁を取り払い、変化する社内外の実態にあった柔軟な発想と行動を引き出す組織活動である。
ブレークスループロジェクトでは人の心理的要因に焦点を当てる
ブレークスループロジェクトを成功させるためには、人の意識、心理的要因に焦点を当てる必要がある。目に見えにくい隠れた心理的要素が意外に大きく影響しているためである。
①緊急性を強く感じる状況をつくる
ブレークスループロジェクトがビジネスの競争上重要で、緊急性の高いものであることを強く訴える。そのためには、ブレークスループロジェクトの背景にある戦略の重要性を経営トップとメンバー間で共有する。経営トップから現場のメンバーに対して強いデマンド(要望)を示す。
②メンバー個人の挑戦、個人的なものにする
プロジェクトの目標を個人の目標と合致させる。プロジェクトの成功なくして、各個人の成功はないことを強く意識付けし、プロジェクトそのものを各個人が主観化させ、プロジェクト全体のゴール達成にコミットメントさせる。
③明確で短期的な成功を定義する
達成すべきゴールを極限まで明確化する。「シェア10%アップ」といった表現でなく、「顧客Aでの自社商品Zのシェアを8週間で 10%から20%にアップさせる」といった曖昧さを排除した明確な表現をする。
④実行することを皆の前で宣言する
実行することを皆の前で宣言することで、自ら退路を断つ。同時に周りの協力を得やすくする。周りから常に注目されることで、常に緊張感を維持する。
⑤結果を短期にフィードバックする
実行の結果を短いサイクルでフィードバックする。たとえば、毎日3分以内に作成できる活動報告を15時までに関係者に電子メールで送信し、事務局やコンサルタントがそれを確認したうえで、何らかのフィードバックを行う。15時の時点でのメールなので、終業まで少なくとも2時間あり、何か対策が打てる。このように毎日プロジェクトの成果を感じ、何かしらの行動を継続することで壁を突破する。
⑥新たな発想でチームの協力関係をつくる
これまでのやり方にこだわらない新たな発想の行動を起こすには、プロジェクトメンバーの潜在的な強みを引き出すことが必要である。そのためには、仕事上の役割、ポジションにこだわらない協力関係を創り出すことが重要である。
⑦達成することへのプライドをつくる
ブレークスループロジェクトに参加することは、組織の重要なミッションに関わることである。メンバーには、使命感と責任感、誇りにかけて、目標の達成に意地を持って取り組む意識を強烈に植え付ける。プロジェクトのオーナー(トップ)自らが、リーダー、メンバーに「君にしかできない、君がもっとも適している」という期待を示すことが重要である。
⑧失敗への恐れを感じる
メンバーが常にプロジェクト活動を最優先させるために、「絶対に失敗できない」という緊張状態をつくる。ハラハラする緊張感があるから、その状態を脱するために、最善の結果を求める極限状態での仕事につながる。
⑨ゲーム感覚、ドラマ性を演出する
プロジェクトにゲームの要素を盛り込む。メンバー間や、過去の自分との競争を強く意識させる状況にする。「○○君と××君の受注勝負は、〇〇君の5勝3敗」など、ノルマではなくゲーム感覚でとらえ、メンバーがやる気になって取り組む仕掛けを作る。
⑩形式にこだわらない、形式を壊す
これまで経験のないストレッチ目標を達成するには、従来の仕事のやり方では通用しないことが多い。目標達成のためには、組織の慣習やしがらみ、手続きに拘らず、最短で結果を出せる解決策を新たに発想し、試してみなければならない。実験することを組織全体で共有することが必要。