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「製造業における知的財産戦略の基本的考え方」(2)

キヤノン株式会社 顧問/弁理士
丸島 儀一

■ 知的財産の弱み

 事業に於いて知的財産権は強みだけでなく弱みを必ずもちます。プリンター一つとっても、プリンターの中に何千件もの特許の知的財産が入っているの です。自社の開発した守りの技術、事業競争力の寄り所となる技術の知的財産もたくさんあります。しかし、(全ての部品について自社で開発している、あるい は特許を持っているわけではないので、)我々の事業をする立場からすると、外から購入してきた部品なり、ユニットなりの中の、技術的な内容は分からない。 いわばブラックボックスなのです。例えば、半導体チップを買うとき、半導体メーカーに「中はどうなっているの?」と聞いても技術的な構成部分は一つも教え てくれません。入力、出力の特性ぐらいしか教えてくれません。これ(このブラックボックスの部分)が知的財産の弱みとなる場合があるのです。

 知的財産権には制度上、もう一つ弱みがあります。製造業に一番大切なのは特許権は実施権ではなく排他権であるとの認識です。これを勘違いして、実 施権だと思って、特許をとったらすぐ事業できると思いこむ人が多いのですが、これは失敗します。もちろん強みのある技術を特許とするのですが、ただそれだ けで、弱みを認識し解決しないで事業をした場合、相手に弱みを衝かれたら、事業はだめになってしまうのです。この弱みとは、その実施技術が先行特許、後願 特許の排他権の影響を受けるということです。

 例えば、ノーベル賞級のトランジスタの発明ができますと、すごい原理の基本特許がとれますから、広い範囲の権利が取れます。この特許の範囲に他社 が事業参入してきたら排他権を犯すことになりますから、基本特権者の許諾なしでは他社は事業をできないのです。しかし、この特許を持っていれば安心して事 業できるかというと、そんな保障は与えていないのです。この基本発明を基に事業化するにはトランジスタの改良や事業化に必要な技術開発が必要です。若し第 三者に改良技術や事業化に必要な技術の特許を取られるとその特許の排他権の影響を受け事業化を妨げられることがあるのです。

 したがって一般的には例えば、私がこのメガネを発明したとします。このメガネと同じメガネを、人が私の許可なく作ったり売ったりすることはできま せん。実施を排斥する権利ですね。 じゃあ、私がこのメガネを作れるのですかというと、そんな保障はされていない。なぜかといいますと、例えばレンズがプ ラスチックで、枠がプラスチックというメガネをわたしが初めて発明したとします。それよりもっと上位概念のメガネの特許はなかったのだろうか?レンズは、 プラスチックの前は何でできていたかというと、ガラスでできていましたよね、一番初めにメガネを発明した人は材料限定しないで特許を取ります。だから枠が 金属であってもいいし、あるいは竹でもいい。材料限定していません。私がプラスチックによるメガネを発明したとしても、それよりも上位の概念の権利があっ たとしたら、その権利の排他権に入っていますから、実施できないのです。事業をするためには、これに影響を与える先行する特許があるかどうか、これを調べ なければいけないのです。上位概念の特許権者も私の特許は実施できません。これが知財財産のもう一つの弱みになります。

 この調査もせずに、事業を実施してしまう中小企業の方が結構いらっしゃいます。だから後から問題になったりすることがあるのです。ですから、これ からやろうとする事業の弱みを認識して、事業化前に弱みを解消することが絶対に必要なのです。ですが、皆やりたがらないのです。人の財産を侵害するか調べ てくださいと言っても、やりたがらない。自分の強みをPRするのは皆やりたがりますが。どうやってその先行特許、後願の特許に対して弱みがあるかを認識す るか。さらにこの仕組みをどうやってつくるのが大事なのです。

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