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新しい試みや遊びを取り入れる(行動変容と学習)② ブレークスループロジェクトを組織化するための条件(6)

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

メンバーが心から楽しめる新しい試みや遊びとは

では、メンバーが心から楽しめる新しい試みや遊びとはどのようなものでしょうか。ここでは大きく3つの観点を取り上げます。

1つ目は、メンバーにそれが仕事であると感じさせないイベントを取り入れること。例えば、「お菓子を食べながら自分の特技に関して一人5分語る」「今ハマっていることに関して3分間で語る」「ボードゲームを20分1ラウンドのみやってみる」などです。これらはいったん仕事から離れることを意味します。

それがいったいブレークスループロジェクトにどう役立つのか、と疑問が沸きましたか? それなら、終わった後に「楽しかったね!今日やったこと、ブレークスループロジェクトに役立つかな?」と聞いてみればよいのです。楽しい感覚・感情からいくつかアイデアが出てくればしめたもの。たとえ出てこなくても、「とても良いコミュニケーションでチームワークが深められた」と言えばよいのです。実際、チームメンバー同士は前よりも親密になっているはずです。

2つ目は、ユニークなメンバーの意見を取り入れること。ここで言うユニークなメンバーとは、創造的というより、少し変わっている人。会社や組織の方針を素直に受け入れない、多少独りよがりな独特のムードを持っている人のことです。そういった人はたいてい、他のメンバーとは異なる視点を持っていますので、思い切った発想が出てくることが多いはずです。

意見が採用された方も、普段はなかなか自分の声を聞き入れてもらえませんので、少し戸惑いながらもとてもうれしく感じるはずです。そして、このことを通じて他のメンバーにも、自分の個性を出していいんだ、普段やれないことを提案しても採用されるんだ、と実感させるのです。こうしてチームは活性化します。

3つ目は、人に自慢できる、時代を先取りした要素を取り入れること。例えば「生成AIを活用して改善案を20個考えてみる」とか「憧れの渋谷のシェアオフィスで初回の会議を行う」などです。メンバーにとって、個人ではできないことがプロジェクトを通じて経験できたらうれしいですし、それが家族や友人に自慢できるような(共感を呼ぶ)ものであることが大事です。当然社内でも話題となり、ポジティブで活力のある空気がプロジェクト内外で流れることになります。

■「最近の若い人は下を向いていて活気がない」は本当か?

「コロナ後の新卒社員は、みな元気がなく上司との関わりを避けようとする」「今の若手は昔みたいに夢を持っておらず、覇気がない」といった話をよく聞きます。でも、現代の若者がいつもそんな状態なのか、と言えば、けっしてそうではありません。プライベートで同期の社員と懇親するときには盛り上がっていますし、土日に好きなことやっているときは時間を忘れて楽しんでいます。特別な状況でない限り、ずっと不活性のままでいることはありません。

もし、組織内の若い人が活性化していないと感じる場面が多いのであれば、その一因はコミュニケーション不足かもしれません。あるいは、コミュニケーションの量は足りていても、内容が仕事のことばかりで堅苦しく、自由に話しにくいのかもしれません。話の大半が高い業績目標とそのためのKPIに関連していれば、若い人の自由な発想など受容されないと感じられてしまうでしょう。そして、社員の多くが「会社では楽しいことなど望めない」と思い込んでしまうのです。

実は、彼らの上司である管理職の人たちも同様に感じていることが少なくありません。それは、一部の役員や幹部職を保証された人たちだけが、強すぎる成長志向で強引に会社を運営しているケースです。そのような会社では、短期業績だけが意識され過ぎ、仕事を通じた人としての学習や成長の機会が少なく、職場の仲間と会話したりして楽しく過ごす時間がほとんど存在しません。

このような業績結果中心の、ギシギシした「過剰なKPI文化」になってしまった組織体質を変えるには、どうすればよいでしょうか。少し時間はかかります。仕組みや制度などの「ハード」面ではなく、何らかの仕掛けやイベント、サーバント型リーダーシップ、気軽なコミュニケーションなど「ソフト」面を変えていくことが重要となります。

■ブレークスループロジェクト前に仕掛けること

組織のソフト面を改善・発展させるには、ブレークスループロジェクトのような現場主体の気軽なボトムアップ活動を通じて、職業というものが本来有する、人の自然な成長の機会、仲間と働く喜び、そして仕事への誇りを取り戻すことが肝要です。

しかし、前に述べた、「過剰なKPI文化」になってしまった組織や企業は、そのブレークスループロジェクトに入る前に準備段階が必要となります。そのためにはまず、経営陣、それが難しければ将来会社を牽引する中堅社員が、組織風土を変える必要性をしっかりと認識し、行動し始めること。つまり、リーダーの具体的な第一歩がたいへん重要です。

リーダーの具体的な第一歩とは、例えば、業務時間内にお茶やお菓子で雑談コミュニケーションする会を催す、自らが会議の最初に雰囲気を和らげるジョークを言う、あるいは、若手に予算を渡してボーリング、カラオケなど自由にイベントを企画してもらう、などです。楽しいことをやり始めるのが大事であって、やること自体は何でも構いません。最初は少しノリが悪くても、何回か繰り返すうちに雰囲気が少しずつ変わっていきます。急いではいけません。

またリーダーは、イベントだけでなく仕事そのものにおいても、業績結果よりプロセスや取り組み姿勢を重視した発言や行動をすることが大事です。たとえ業績目標が達成できなくても、失注してしまっても、「〇〇さんの努力の姿勢とプロセスは素晴らしかった。誇りに思うよ」と声をかけてあげるだけで、人は勇気づけられます。

「楽しいイベントや仕掛け」×「業務の中で意識や姿勢、プロセスを褒める」。これを続けることで、組織風土は大きく変わります。

ニューチャーの書籍ご紹介

『顧客経験価値を創造する商品開発入門』
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「モノづくり」から「コトづくり」へ 時代に合わせたヒット商品を生み出し続けるための 組織と開発プロセスの構築方法を7つのコンセプトから詳解する実践書
高橋 透 著(中央経済社出版)
2023年6月29日発行
ISBN-13 : 978-4502462115

 

『デジタル異業種連携戦略』
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優れた経営資産を他社と組み合わせ新たな事業を創造する
高橋 透 著(中央経済社出版)
2019年11月13日発行
ISBN-13 : 978-4502318511

 

『技術マーケティング戦略』
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技術力でビジネスモデルを制する革新的手法
高橋 透 著(中央経済社出版)
2016年9月22日発行
ISBN-10: 4502199214

 

『勝ち抜く戦略実践のための競合分析手法』
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「エコシステム・ビジネスモデル」「バリューチェーン」「製品・サービス」3階層連動の分析により、勝利を導く戦略を編み出す!
高橋 透 著(中央経済社出版)
2015年1月20日発行
ISBN:978-4-502-12521-8