「市場ポジショニングは異業種間の顧客経験価値競争である」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第56回
市場ポジショニング戦略とは
市場ポジショニング戦略とは、顧客が選択するであろう市場の中での自社商品の位置づけを示すものです。一般的には縦軸と横軸に、最終的な顧客の選択軸を決め、自社と競合商品の位置づけを図示します。そして他社にない独自の位置づけを狙います。それが市場ポジショニング戦略です。
異業種間の顧客経験価値競争に変化している
これまでは、クルマVSクルマといった同じカテゴリーの中でのポジショニング比較でしたが、顧客経験価値重視の商品開発では、クルマVSゲームといったように他のカテゴリーとのポジショニング比較であるケースが多くなってきました。顧客経験価値重視の商品開発は、他のカテゴリーの経験価値要素を取り込むからです。これは経験価値重視の商品が、顧客のシーンのある一部のニーズを満足させるのではなく、顧客に寄り添ってある一定の時間の経験を共にし、その時間に含まれてた他社の商品が提供していた価値を取り込んでしまうために発生することです。
顧客経験価値戦略によって顧客の生活に深く入り込める
例えば、とても気に入って購入したイタリアワインについて、産地の地域の特性やぶどう園、シャトーの歴史や醸造の考え方、製法なども含めて2時間オンラインで学べる動画を提供するサービスがあったとします。この経験と競合になるのは、同じカテゴリーである日本酒、ビール、ウイスキーなどのアルコール類、現地への旅行、ワインの知識の書籍などのビジネスです。正確には把握しにくいのですが、それらで得られる価値は、このワイン動画配信+ワイン配布ビジネスに奪われたことになります。この場合の市場ポジショニングの軸は、「低コスト、現地の文化、情報との接点軸」と、「自宅でゆっくりとワインを楽しむ軸」と考えられます。この顧客経験価値によって、顧客は現地に行って楽しんだとほぼ同じ知識、情報を得られます。そして実際に旅行に行くよりも短時間で、複数の地域で同じ経験を得ることもできます。動画は何回も観ることもできます。例えば、週に1回、4ヶ月繰り返せば16地域のワインに詳しくなるということもできます。ワインということだけに特化すれば現地に行くの比べ、ある種大きなメリットがあります。また商品提供者側も、顧客の選んだワインと地域のデータが入手でき、好みの傾向がわかりますし、チャット機能で質問を受ければさらに顧客の関心事が把握できます。地図上から場所を選べるようにすれば、どの地域にアクセスしたかも把握できます。これも重要な顧客情報で、さらに深い顧客経験価値を提供するヒントになり得ます。
パーソナライズされた経験価値を提供できるようになる
このようなことを繰り返していけば、市場ポジショニングという考えも、ターゲット顧客単位だけでなく、顧客ごとにパーソナライズされた市場ポジショニングが存在し、その中で競争していくのが現実だと思います。そういったパーソナライズも、商品を提供する企業一社が行うのではなく、複数のパートナー企業や顧客自身も入って行うことでよりフィットした経験価値を低価格で提供できる可能性があります。
今後顧客経験価値が中心の競争になれば、異業種間で、何に時間を費やすかの戦いになると思います。企業は商品を提供するのではなく、どのような世界観で顧客経験価値を提供するのか、さらに顧客とともに顧客経験価値を作り出せるのかが競争になります。