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改革プロジェクトのリバウンドを防ぐ組織活動の測り方

ニューチャーネットワークス シニアコンサルタント
張 凌雲

 「営業改革プロジェクトを実施し、対象営業所が全国1位の販売実績を獲得」「働き方改革の先行導入部署で残業時間が月40時間から月10時間に削減」など、改革プロジェクトを行い目標達成しても、プロジェクトが終了すると改革前の状態に戻ってしまう「改革プロジェクトのリバウンド」に悩む組織やリーダーは少なくありません。改革プロジェクトでストレッチ目標を掲げ、その目標達成のために一時的に猛烈に頑張ると、その辛さの反動からリバウンドが起きやすくなります。今回のコラムでは、改革プロジェクトでリバウンドが起きる原因とそれを防ぐ方法を紹介します。

■改革プロジェクトのリバウンドはなぜ起きるのか

 改革プロジェクトのリバウンドは、人間のダイエットのリバウンドと同じです。ダイエットでリバウンドが起こるのは、身体的要因と精神的要因があるとされます。身体的要因とは、食事制限のみを行い、基礎代謝量を高めたり、腸内環境を整えたりといった体質改善を行なっていないことです。企業でいえば、キャンペーン活動やアウトソーシングによる業務の外注化などの資源投入だけで、組織の生産性や改善力の向上、風土改革を行わずに、成果のみを追求しているといったケースです。また精神的要因とは、過度の食事制限や運動負荷によるストレス、目標達成後のモチベーション低下などです。企業でいえば、現場への負荷が大きいプロジェクトほど、その大変さの反動から「もう同じことはしたくない」と思い、改革活動への拒絶反応が生じるといったケースです。またストレッチ目標を達成した組織はトップや周囲から称賛され、そこで満足して継続的な改革活動が行われないといったケースです。
 改革プロジェクトの目標を達成できたとしても、以下のような場合は、リバウンドが起こる可能性が高いといえます。

 •売上高前年比150%、残業時間8割削減など結果だけが評価され、成果を出す過程の活動は
  全く評価されなかった。
 •トップからの一方的な掛け声によりプロジェクトが始まり、現場の「やらされ感」を
  拭えないまま取り組んだ。
 •改革プロジェクト活動中に行っていた成果の測定やフィードバック、承認といったプロセスが
  いつの間にかなくなった。
 •改革プロジェクト終了後、数年経っているが、同じ成果指標、プロセス指標を使い続けている。
 •活動が限定的、属人的な取り組みのままで、組織展開、標準化が行われていない。

 ダイエットで生活習慣の見直しが必要なように、組織の改革活動では、組織とそこで働く人に染み付いた価値観や行動様式を変える必要があります。改革のゴールとなる目標を達成する過程で、自分たちの何を変えるべきか、何が変わったかを認識させるために、成果を出すまでのプロセスを「測る」ことが重要です。

■自分の努力を評価し、小さな進歩を見つける行動指標を設定する

 改革活動を定着させるには、個々が従来の仕事のやり方を変えることで、改革の成果に結びついていることを実感してもらうことです。日々の仕事の中で、自分が努力、工夫したことで「増えた」「減った」など、行動内容を数値化した行動指標を設定します。
 例えば、製造現場で「組立時間の2割削減」という成果目標を掲げたとします。まず「加工時間」、「検査時間」など、プロセスごとの指標にブレークダウンし、これらの指標を一律に担当部門、担当者へ割り振り、目標達成にむけた活動を促します。しかしこれだけだと、「組立時間の2割削減」という成果と、個人の現場での努力や能力・スキルの向上との関連が見えにくいことがあります。個人の努力や成果を上司や周囲に認識してもらうために、各人の能力・スキルに基づいて具体的な行動指標を設定します。「溶接時間を5分以内にする」、「配線作業を10分で行う」など、個人が改善すべき行動指標を明確にします。
 行動指標は、「測定しやすく、自分でコントロールでき、頻繁に測定・フィードバックでき、周りのメンバーが気づきやすい」項目にします。行動指標により、普段の仕事の良し悪しの判断ができ、上司や周囲からのフィードバックを得やすくなります。

■行動指標を常に見直す

 戦略やプロジェクトの目標を変える場合には、行動指標も見直しが行われます。しかし、改革プロジェクトのリバウンドを防ぐためには、戦略やプロジェクトの目標が変わらない場合であっても、行動指標を定期的に見直す必要があります。
 ダイエットでは同じ運動を繰り返すうちに、その運動に慣れ、以前のような効果が期待できなくなることがよくあります。同様に、個人の成長に応じて、次のステップに移るための行動指標を適宜設定する必要があります。同じ行動指標では、マンネリ化、停滞感を生むことになり、ひいては組織規模で改革のリバウンドを招くことになります。

■成果を生む行動パターンを明らかにする

 冒頭で挙げた販売実績全国1位になった営業所は、プロジェクト終了後に業績を維持できず、むしろ低迷してしまいました。プロジェクト終了後に改革の成果が続かない、一層の成果が出ない組織は、成功の法則を組織的に実践するためのモデル化ができていません。プロジェクト活動中は、成果を出すことに邁進して、目標達成後は充実感、疲弊感から振り返りを行わないことが多々あります。振り返りをしたとしても、「とにかく頑張った」、「情報共有してチーム力を発揮した」など抽象的な分析で済ませてしまうこともあります。具体的に「朝礼を増やし改善提案数が増えた」、「PCスキルを高めたことで、書類作成時のミスが減った」など、どんな行動を増やしたり減らしたりしたことにより、どんな成果が出たのかを明確にします。
 ダイエットでも、食事の量を○○kcal減らし、ジョギングを週○回、○km走って、体重が○kg減ったと、行動と成果の因果関係を定量的に示すことで、自分の成功パターンを確立することができます。改革活動も同様に、成果が出たプロジェクトの成功パターン(場合によっては失敗パターン)を明らかにし、継続的に成果を出すための行動の参考にします。一点注意すべきなのは、成功した行動パターンを同じように取っても必ずしも同等の成果が得られるとは限らないことです。成功パターンはあくまで参考とし、実際にとった行動が成果に結びついたかどうかを確認することが必要です。

 長期にわたって改革の成果を享受するには、成果目標だけを設定し、やみくもにそこを目指すのではなく、成果目標の達成プロセスにも注目し、その組織・人に体質変化が起きているかどうかを評価する必要があります。そのためには「成果を出すことを期待している、頑張ってくれ」、「やる気を出せ」といったメッセージを出すだけでなく、成果の測定やフィードバック、承認といった成果目標の達成プロセスの評価を同時に行うことが必要です。定期的な達成プロセスの評価を続けてこそ、活動の惰性やマンネリ化を防ぎ、リバウンドを起こすことなく、持続的な成長を可能にします。

 

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