現場のやる気を引き出し、自発的な行動を促すコミュニケーション
前回のコラム「組織の生産性を上げるのも下げるのも上司次第」で、生産性向上には組織トップの意識、行動変容が欠かせないことをお伝えしました。一方で、経営者や部門長が変革の必要性を繰り返し唱えても、現場の意識・行動が一向に変わらないという場合もあります。「現場の危機感が欠如している」「受け身で仕事しており、当事者意識を持っていない」など、現場がやらされ感を抱いたまま日々仕事をしている状況を憂えているトップも少なくありません。
このような状況を変えるために、他社が実践し変革に成功した仕組みやルールを一方的に導入しても、一時的には変化するものの、社員の意識・行動は長続きせず、すぐに元の状態に戻ってしまいます。組織を動かしているのは人です。どのような変革も、成功するかどうかは、参加する人たちが変われたかどうかによって決まります。人が自発的かつ継続的に変革の行動を起こすためには、自身の内面にあるものを呼び起こす働きかけが必要です。現場のやらされ感や閉塞感が強い組織において、自発的な行動を促すためには、仕組みやルールを変える前に現場の人たちの仕事へのやる気を回復させることが先決です。
■なぜ、「やらされ感」が生まれるのか
誰もが最初から「やらされ感」を持って仕事をしているわけではありません。日々の仕事の中で、組織と個人の仕事に対する考え方のズレから「やらされ感」が生じます。その主な原因として、以下の4つが挙げられます。
①「組織の目標」と「個人の欲求」のミスマッチが起こっている
組織の目標、その達成への過程が、個人の成長欲求・自己実現欲求を満たすものになっていない場合です。組織と個人の目指すゴールが異なるため、個人が組織目標に貢献する動機づけがなされにくくなります。残業禁止、終業時刻の周知徹底など、会社が「働き方改革」として長時間労働を是正する取り組みが、とことん研究開発をしたい、じっくり議論したいといった欲求のある人たちのやる気を削ぐ結果になっていることがあります。
②ゴールが見えない中で仕事を行っている
ある仕事に期待される成果、成果の水準が不明確な中で仕事を行っている場合です。ゴールが分からない中で仕事をするということは、成果と関係のないムダな仕事を増やすだけでなく、相手の納得が得られずに何度も手戻りを発生させることになります。これは不安感とストレスを与え続けることになります。
③仕事の過程、成果が評価されない
自分が行った仕事が上司や社内外の顧客を満足させるものであったのかという、仕事の結果に対してフィードバックが行われない場合です。自分の仕事内容・成果の良し悪しが分からなければ、今後の成長課題や改善点が明確になりません。また、評価されないことは、相手から認められていないという疎外感を持ってしまうことにもなります。
④やることの必要性やメリットに納得できない
自身ではその仕事の必要性やメリットに納得していなくても、義務感から仕事を行っている場合です。これは、「前任者が行っていたから引き続き行っている」「過去に問題が発生した時に行った突発的な業務を未だに行っている」など、付加価値を生まない形骸化した仕事の見直しが行われない組織で起こります。雪だるま式に仕事が増えるということは、常に仕事に追われている状態で仕事の優先順位をつけられず、目の前の仕事をこなすことで精一杯になってしまい、自分から主体的に仕事に取り組むことが困難になります。
上記のような状態になってしまう大きな要因のひとつは、現場に仕事をやらせっぱなしにして、トップが何らフィードバックや支援をしていないことです。現場から、危機的状況に陥りそうだというSOSが発せられることは多くありません。事象が明らかになった時には、既に問題が発生しています。それを防ぐためには、トップが常に現場とコミュニケーションを取り、組織と個人の仕事に対する考え方にギャップが生まれていないかを把握する必要があります。
■現場のやる気を引き出し、自発的な行動を促すコミュニケーション
「やらされ感」を抱いたまま仕事を行っていると、自己の成長や達成感を感じることができず、組織に対する帰属意識やモチベーションが低下し、生産性の低下、果ては離職につながります。このような状態を打開するためには、組織のトップ・上司が現場メンバーを理解し、一緒になって仕事のあり方を確認する必要があります。
人のやる気を引き出す手法には様々なものがありますが、先ずはその人の働くことの意義、そして組織での仕事の目的を共有することから始めることが重要です。そのために、以下の2点についてトップ・上司とメンバー、またはメンバー同士で議論してみてはいかがでしょうか。
①仕事への想いや意義を再確認し、共有する。
以前のコラム「改善目標を「達成できる組織」と「達成できない組織」の違い」でも紹介しましたが、「仕事を通じて自分は何を実現したいか」「どう成長したいか」という仕事に対する価値観を改めて確認し、上司や同僚と共有します。その際、仕事に対する価値観は、仕事自体や自分自身だけではなく、家庭や社会生活も含めて広くとらえることが重要です。例えば「カスタマーサービス部門で顧客からご指摘を受けることを通じて、家庭でも奥さんや子どもの話にしっかりと耳を傾けられるようになり、周りから聞き上手だと褒められるようになる」「仕事で大量に作成してきたパワーポイントやエクセルのスキルを活かして、シニアや障害者へのボランティア活動にも貢献する」「職場で実践している5S活動を家庭でも実践する」など、仕事と自身の成長、家庭、社会への貢献を結び付けるように、自分の仕事の意義を広くとらえることで、今まで「やらされている」と感じていた仕事も、意義のあるものに変えることができます。
②仕事の目的を確認し、成果と期限を決める
仕事を依頼する時に、それを行う目的、期待する成果と期限を明確にします。期限までに設定した成果に達していない場合は、その仕事を中止することも検討します。成果レベルを曖昧にする、期限の引き延ばしを認めてしまうと、仕事をダラダラと行うことになり、徐々にやりがいある仕事が、やらされる仕事になってしまいます。
仕事の目的、成果を先に確認することで、慣例的に行われておりやる必要のない仕事を見つけ出すこともできます。
組織の生産性を上げるためには、前向きに仕事を行うことが必須です。仕事がルーチン化してくると、自分の仕事の意義、使命を忘れがちです。仕事を行っている本人にとっては単調な仕事であっても、成果の提供相手にとってはかけがえのないものであったり、見方によっては社会的意義が高かったりする可能性があります。現場のやる気を引き出し、自発的な行動を促すために、組織内で上記のようなコミュニケーションを積極的にとってみてください。