グローバル人材育成の実践事例
「グローバル・エイジ」のリーダーからの提言
■インドにおける日本人マネジメント層の研修ニーズ
はじめに、インドの日本企業向けの最近の取り組みについてお話したいと思います。先日、インドで日本企業に勤める現地の方向けの公開セミナー実施にあたり、インドに展開している100社ほどの企業にインタビューを行いました。
どのような研修が必要かということで聞いて回ったのですが、当初の私どもの仮説としては、戦略構築スキルやロジカルシンキングにニーズがあると思っていま した。しかし実際、異口同音に日本人マネジメント層の皆さんが言うのは、ビジネスマインドやベーシックスキルといった、基本的な研修が必要だということで す。仕事観、仕事のやり方、仕事に対する意識を合わせてほしいということでした。それは商社でもメーカーでも同じような傾向が見られました。具体的には、 現地スタッフの方がタイムマネジメントができない、当事者意識が薄い、言い訳が多い、責任転嫁する、といった問題があるという認識だったのです。
そ ういった状況を踏まえて、私たちが公開セミナーでお話したことは、非常にベーシックでした。まずは日本人の習慣と考え方を理解してもらうことです。たとえ ば電車の時刻表の写真を見せてお話ししました。日本人では当たり前だと思うことでも、インドでは「なんだ、これは?」となります。時刻表が14分、17 分、20分となっていることに驚かれるわけです。急に同じようなことをインドで実現できるというのは叶わないかもしれません。でも必要なのは、日本人とし て、何をどこまで重視しているのかということを、はじめに伝えることでした。
■インドでの日本人像から考えるグローバル研修の方向性
一方で、インドの方からも日本人に対する不可解な点ということがもちろんあります。これまで多くの企業で研修を行ってきましたが、日本人マネジメントが同 席しているとインドの現地スタッフの方もなかなか本音を言ってくれません。マネジメントがいなくなると、私たちが質問攻めにされることもあります。
そこでよく言われるのは、日本の商習慣を紹介してほしいということです。具体的には、「とにかく意思決定が遅いのはなぜ…」「ミーティング中に腕を組んで 天井を向いているのはなぜ…」「グレーなことが多くてどうなっているのか分からないのだが…」「年中日本と電話していて指示を待っているのはなぜ…」と いったところです。こういうことがあると、インドの皆さんは「どうするんだ、早くしないと負けちゃうよ」という気持ちになっているんですね。
弊社では、インドをはじめアジアの様々な国の方々とのディスカッションを通じて、海外の方が日本をどう見ているかということについて実践的にクリアになっ てきています。やはり必要なのは、視野を広げて相手の国を理解し、その上で意見を主張しビジネスを進めることができる人材です。
現在、多くの会社で日本人の海外研修が盛んに行われていますが、その目的は、今しがたお伝えしましたようなインドでも、あるいはどのような地域でも活躍することができる人材を創るということだと思います。
では日本人として、どのような場所で研修を行うのが適しているのでしょうか。今回は、その一例として香港滞在型研修をご紹介いたします。
■グローバル感覚を肌で感じる都市・香港
香港と聞いて、どのような印象をお持ちでしょうか。世界一自由な経済、世界有数の金融都市、潜在競争力で第一位であること、こういったことが、特に実際に 行かれた方には感じられることだと思います。しかも東京から3時間半から4時間程度と、日本からのアクセスも大変いいというのも魅力です。
何より香港の魅力として、その人材が挙げられると思います。国籍やバックグラウンドが入り乱れる国際都市においては、国際感覚やバイタリティ、柔軟性、積 極性、サバイバル力、スピード感などを感じることができます。香港のエスカレータに乗ると、そのスピードの速さに驚きます。これは香港では働く人、稼ぐ 人、ビジネスパーソンを基準に社会システムが作られているということの現れです。このような場所で、バイタリティ溢れる人材と交流することで得られるグ ローバル感覚は非常に貴重なものです。
私どもパソナ・エデュケーションでは、香港での語学研修を実施しています。しかしこのような魅力的な場所での研修を、教室の中だけで完結させていてはもっ たいないです。そこでまず教室でタスクの準備をし、実際に街頭に出て道行く人にインタビューし調査をする、などというタスク解決型プログラムを実施してい ます。
研修生の中には英語が苦手な方もいらっしゃいます。そのような方には、とにかく人を止めて何か聞くというのはそれだけで大きなチャレンジになるわけです。 もし急いでいる人をつかまえてしまったり、早口に話す相手に話しかけてしまったりした場合、どのように対応するかというところも、現場での対応力、柔軟性 が問われてくるタスクです。
実際に現場の方と話したりディスカッションしたりすることで、語学力だけでなく様々なグローバルスキルを身につけて行くことができます。
■アイデンティティ理解の重要性への気づき
弊社は香港で日本語学校を運営していますので、その学生の皆さんとディスカッションの場を設定しています。パソナ・エデュケーションで日本語を学ぶ学生さ んは優秀な方ばかりで、香港大学を始め、世界トップ10に入る香港の名門大学の学生や、大手外資系に勤める社会人の方もいらっしゃいます。
そのよ うな人たちと様々なトピックについてディスカッションしていただくのですが、香港には日本のファンが多く日本のことについて色々と聞かれます。彼らに、日 本に行ったことがあるかと聞くと、“今年10回、今まで50回行ったことがある”、“飛騨高山のどこどこのお店が美味しいですよね”、というような回答が 返ってくることもあります。このような話を通じて、自分が意外と日本のことを知らないということに気づき、アイデンティティの重要性を再認識する機会にな るのです。
■グローバルスキル習得に効果的な実践型の企画研修
ビジネスプランを現場で考える研修というのも効果的です。ここでは一つ、実際に実施した研修の一部をご紹介したいと思います。研修の対象メンバーは、入社 数か月後の新入社員。目的はグローバル人材として活躍するビジネスパーソンとしての基礎力ということで、研修を通じて、今後自分たちにとって何が必要なの かを気づいてもらうということでした。
その際は20人を受け入れたのですが、TOEIC900点の方もいる一方で、300点台の方もいらっしゃる中、全て英語で実施するイマージョンプログラムで実施しました。
期間は1ヶ月、1週目は事業理解、2週目はマーケットリサーチ、3週目から4週目にビジネスプランを作成し、最終的に発表するという流れで行いました。実 際に店舗に出向いて調査したり、街頭でアンケートを行ったりとリサーチ方法や企画含めすべて自分たちで考えてやっていくものでした。
このような実践的なビジネスプランの作成を通じて、グローバルで活躍するために必要なスキルを身に付けてもらっていったのです。
■海外研修実施に際しての留意事項とパソナグループの特長
今ご紹介した研修もそうでしたが、いざ海外研修を実施する際には、現地にある支店との調整がポイントになることも多いです。おそらく人事の皆様が海外研修 を行う際にネックになることの一つとして、海外支店とどうやって連携するかということが挙がってくると思います。というのも海外支店としても忙しいのでマ ンパワー上研修生の受け入れが難しく、受入に関して特にメリットを感じてくれなかったりするわけです。
たとえば香港であれば、パソナ・エデュケーションとして拠点がありますので、その事前調整を行うことができたというのも、先ほどの研修の成功要因の一つ だったと思います。研修の最後には、現地のゼネラルマネージャの方が研修生の成長を、涙を流して喜んでくれたという場面もありました。支店のスタッフの方 にとっても刺激になったと喜んでいただけました。
私どもパソナとしては、長年の香港での活動を通じて様々なネットワークを有しています。研修実施 の際には、グローバル人材としての心構えなどの講話を、著名な方をお招きして実施することが可能です。たとえば、BloombergやBBC でコメンテータとしても活躍されているHSBCのマネージングディレクターや、日銀、日本商工会議所の代表の方などをお招きしたりしています。このように パソナデュケーションは、学生さんから著名なビジネスパーソンまでをお招きして生のグローバルビジネスフィールドに触れる研修の機会を提供しています。長 年の経験から危機管理体制も徹底しており、その点でもご安心いただいています。
今日は、今後のグローバル人材を育成するという意味で、インドでの活動を通じた気づきや、香港での企業様への貢献についてお話しさせていただきました。皆様の企業でのグローバル人材育成のご参考にしていただければ幸いです。
青田 朱実(あおた あけみ)
■所属・役職
Pasona Education Co. Limited 代表取締役社長
■略歴
東亜国内航空での教官、キャセイ航空乗務員としての経験を経て1987年にパソナ香港入社。1990年より現職。校長として学生総勢 3,000名の語学・社員研修企業の舵取りを行いながら、教官経験及び香港でのビジネス経験を活かし、5つ星ホテル・大手スーパー等の接客研修や日系企業 の社員・幹部研修を香港・シンガポール・マレーシア・インド・中国・日本などアジア各地で実施。近年は香港を拠点とした若手グローバル人材育成に力を入れ ており、多数のグローバル人材を国際社会に輩出。ユニークで説得力のある研修には各方面から高い支持を受けている。