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「目標達成の10原則」による突破力(前編)

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

■人生の成功は何によってもたらされるか?

人生の成功は何によってもたらされるのか? コンサルタントがよく言うような分析力やロジカルシンキングなどの思考方法だろうか? 有名教授の提唱する種々の経営戦略、マーケティング戦略のフレークワークを学ぶことだろうか? 成功した経営者の論じるリーダシップ論だろうか?
 
成功するための思考や方法論が世の中にあふれているが、それらは全てごく身近なこと、「目標を達成する力」という基盤的なものの上に成り立っている。全てのことは、目標を設定し、行動し、困難さを突破し、目標を達成するといった最も基本的な意識、思考、行動がベースである。
 
しかし、意外なほど目標達成に関しては経営課題として話題にのぼらない。もし話題になったとしても、多くはベテラン社員による個別の成功談であったり、もしくは単に機械的に目標をブレークダウンし、ガントチャートを描くといった当たり前すぎる手法を論じたりするものである。
 
つまりこれまでの目標達成に関する議論は2つの重要なことを見逃している。一つは、ダイナミックで連続した環境の変化であり、もう一つは目標達成の主体となる人や組織の感情、意欲、直観、臨機応変さなどの人間的側面である。
 
ニューチャーネットワークスでは、目標達成を、環境の変化に対する自己変革のプロセスであり結果と考えている。

■先のことが見えているから成功するのではない

多くの経営者と接してきて解ったことがある。それは、“偉大な経営者も決して詳細に先が見えているわけではない”。戦略コンサルタントの私としての実感は、“成功要因は「詳細な中長期の戦略計画の策定」ではない”ということである。成功する経営者、組織のリーダーは、3年、5年先の大きなビジョン、さらにその先の理念を強く持ち、大まかなシナリオは立てているが、細かな3年間の計画を持っているわけではない。中長期のビジョンを持ちつつ、半年、4半期、毎月、毎週の“変化する一回一回の局面”で真剣勝負しているのだ。その積み重ねが成功につながっているだけである。
 
反対に業績がよくない会社、組織の経営幹部ほど、詳細な中期計画、予算計画を求めがちである。スタッフはその作成とそれを実行するプロジェクトの計画に時間をかけ、目の前に迫った目標や課題を置き去りにしてしまいがちである。その結果成果が出ない理由をあれこれと悩み、後ろ向きの思考に時間を費やす。
これは個人も同じで、仕事のできない人に共通するのは、「1年から3年先が見えないこと」を悩むことに時間を費やし、結果に結び付くアクションがとられていないことである。
 
冒頭にも述べたが、そもそも環境変化を詳細に予想することは不可能である。一方、人間の特性とは、大小の環境変化に対応する柔軟性のある思考、発想、行動力を持つことである。環境変化の大きい現代において目標を達成するために必要なことは、将来を正確に予想し綿密な準備をすることよりも、人間が本来持っているダイナミックな環境変化に対応できる強さを引き出すことである。実際「先が見えている」はずの大企業や政府の大きなプロジェクト計画の多くは「失敗」している。大がかりな計画作りに注力しすぎ、本来の人の力を活かせていないからでなかろうか。

■なぜこれまでの目標達成の方法が通用しないのか。これまでと何が変わってきているのか?

 10年、20年前までは、詳細な戦略計画を策定することはある程度効果的であった。何が変化したのだろうか?ここでは大きく3つの要因を取り上げたい。

  • 1つ目は、戦略や計画を企画した時と、実行する時の現場が大きく変化してしまっていることである。
  • 2つ目は、その変化がどんどん連鎖して目標達成の成功要因もめまぐるしく変わっていくことである。
  • 3つ目は、環境だけでなく目標達成の主体となる人や組織も変化していることである。

 過去のようにあたかも決まった一定方向へ成長すると感じられた時代の目標達成の概念と、今のそれとでは大きく変わってきているのである。

■自己変革のプロセスと結果としての“目標達成の10の原則”

ニューチャーネットワークスでは、目標達成を「変化する環境に対する人・組織の自己変革のプロセスと結果」ととらえ、その過程をブレークスループロジェクトと呼び、国内外で多くのクライアントのプロジェクトを通じ、実践してきた。
 
今回のコラムではそこで得られた“目標達成の10の原則”のうち最初の5つをお伝えしたい。(次回に残りの5つをお伝えする)
 
原則1:90日という短期の目標を設定し、全力集中する
通説ではあるが、人の集中力は原則90日間が限界と言われている。相当に困難と感じられるプロジェクトでも90日程度であればなんとか集中できる可能性がある。そのためには90日で達成すべきゴールを設定する。これを“ブレークスルーゴール”と呼ぶ。“ブレークスルーゴール”では、理念、戦略、ビジョンなどの“戦略の意味”を失わない様に短期の定量的ゴールを設定する。
 
さらにそのゴールを達成するためのアクションとその数値目標を策定し、さらにその実行チェックの方法を決める。毎週、毎日、極端なことを言えば毎時間、小さなブレークスルーゴールを設定し、達成感を味わうことが重要である。小さな成功がポジティブにフィードバックされ、指数関数的に拡大されていく。90日も小さなことの積み重ねなのである。
 
原則2:目標を達成しなければいけない環境を人工的に作り出す
人間の本来の強さが発揮される環境とはどのような条件なのだろうか? みなさんもご経験があると思うが、それは “生きのこりのための時間が残されていない状況” “プライドにかけても成功しなければいけない状況” “競争上負けられない状況“ など、いわば “危機的状況” であろう。
 
だからと言って本当に危機的状況になるのを待っていてはいけないのは言うまでもない。そこでリーダーは、危機的状況を人工的に作らなければならない。そのために、組織のトップや周囲は、実行プロジェクトに対し、強い要求を突き付けることが重要である。例えば「インドネシアにおける代理店の製品シェアを15%から30%にアップさせる」といった、トップのビジョンを打ち出す。その場合日本の組織によくありがちな、表では「やります」と言いつつ裏では「やれるわけがない…」といった建前と本音は絶対に許してはならない。目標を自分自身のものにすること、強烈なオーナーシップ、当事者意識が必須である。そして目標は皆の前で宣言されるべきである。目標達成の過程では「ドラマチック」な状況、「のるかそるか」の状況など、何が起こるか解らない状況を体験し、むしろそれを楽しむことで、脳のストッパーが壊れ、過去の思考、行動を壊し、人の潜在能力を爆発的に発揮させるのである。
 
原則3:積み上げ発想を捨て、全てのことを結果から考える
変化の時代は「積み上げていけば結果が出る」という発想は全く通用しない。コツコツと努力したがそこは成功要因とは全く外れたところであったということは多い。特に優秀な大学を優秀な成績で卒業した秀才タイプは、「積み上げ」の習慣が身についていることが多い。
 
目標を達成させるためには「何が結果か?」と常に結果から考えることを思考習慣にする。まず中長期の結果をどうデザインするか、それが戦略ビジョンとゴールである。その次に、ビジョンとゴールを達成するためのシナリオを徹底的に考え、最優先課題を見つける。さらに、結果に結び付く、やらなければいけないことだけをリストアップし、アクションプランとし、その個々のアクションプランにも目標数字をつける。さらには環境変化や組織内の状況をみてビジョンとゴールを達成するための優先課題を変える勇気を持つ。
 
原則4:準備や詳細計画から入らず「アクション」から始める
最初に述べた通り、優秀な人ほど準備や計画に時間をかけてしまい、肝心の実行する時間があまり残されていないといった状況も少なくない。そこでお勧めしているのが以下のことである。

  • 1週間以上の準備や計画作業は絶対厳禁
  • 結果がすぐ出るアクションからスタートすること
  • たえずアクションの結果を、課題やアクションの優先順位の見直しに活かすこと
  • アクションの効果を毎日自分自身にうまくフィードバックすること
  • 日々の失敗を大げさに悔しがり、成功を大げさに喜ぶこと
  • 行動に基づく感性から得られたことを大事にすること

などである。アクションから学習することは驚くほど多いのである。
 
原則5:毎日、朝、昼、晩と目標達成を常に実感する
目標達成には90日間休まず絶えず目標を意識し、行動し続けることが大事である。継続して目標達成する人や組織は、目標から目を離さない。訓練により継続して考えることができ、行動しつづけてもしても疲れない大きなキャパシティを持っている。スポーツ、勉強、仕事、趣味など何かを通じて、集中力のハードルが取り除かれる経験をしている。仕事と遊びの境がなく、常に緊張しながらもリラックスして、リズムカルに仕事をする。朝布団から飛び起きたら助走もなく、すぐに目標のことを考えられる。
 
反対に目標をなかなか達成できない人・組織は、目標意識をたびたび休ませてしまう。仕事のことをすっかり忘れ土日を過ごす。月曜日に仕事に戻ってため息をついてしまう。後退した自分に気づき小さな失望感を味わうためである。
 
継続して目標に集中できるようになるには大げさなことはいらない。少しの訓練で十分である。次の様なことを心がけることが効果的である。

  • 毎週、毎日、毎時間のアクションとその目標を設定すること
  • 目標達成のアクションを1日の生活、仕事の最優先事項にすること
  • 最初の1週間、1ヵ月の継続を意識すること
  • 「達成した」「達成しない」を明確にすること。ゲーム感覚をもつこと
  • 前回よりも今回、昨日より今日、先週よりも今週、必ず前より良くするよう意識すること
  • 目標達成を第三者にチェックしてもらうこと
  • アクションの報告には3分以上時間をかけないこと

継続して考え続けることで、ライバル企業には思いつかない独自のアイデアが発想できる。
 
次回は“目標達成の10の原則”のうち残りの5つをお伝えする。

 

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