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ミドルマネジメントの数字力 ~「横」「上」「下」の視点での計数マネジメント~

ニューチャーネットワークス 代表取締役
張 凌雲

組織パフォーマンス向上「グローバル・ビジネスリーダー」

ミドルマネジメントに求められる3つの視点

ミドルマネジメント層の厚さが、多くの日本企業の強みといわれる。「中間管理職」とも言われるマネージャー層が、強い現場力の源となっている。
よく言われるように、また私自身が一緒にお仕事をする企業の多くにおいても、ミドルマネージャーの多くは、確実に現場のメンバーに業務を遂行させるマネジメント能力(管理・統制能力)は高い。しかしマネージャーが見なければならないのは、自分のチームや部下だけではない。隣接する機能部門や事業部との調整が必要になってくるし、ときには全社的な経営判断を踏まえていなければならない。
ミドルマネジメントは、自分のチームの現場に対してという視点に加えて、経営層に対して、そして他事業・機能部門に対して、という3つの方向を向いていることが必要である。

コックピット級に必要となるマネージャーの計数管理

マネージャーは、数字で業務や事業を把握することが必要となる。たとえばチームのメンバーの業務進捗から、生産部門あるいは営業部門などとの在庫の調整、さらには経営資源のうち自分のチームに割くべき割合など、多くのことを同時並行的に考えなくてはならないからである。
一メンバーからマネージャーになるということは、数個の計測器だけを見ていればよかったオートバイから、多数の計器を見なければならない航空機のコックピットに乗り換えるようなものといえる。たとえば営業部門であれば、それまでは自分自身の売上やアカウントだけを意識していればよかったのが、マネージャーになるとチーム全体を見渡して、顧客や商品ごとの損益管理、部下のプロセス管理を行わなければならなくなる。
企業としても、マネージャーが計数管理できるよう、会計・財務に関する研修を行ったり自己啓発を促したりしている。また、OJTなどで予算計画の立案方法や財務データの見方についての説明を行っていることも多い。
しかし、数字の一般的な見方や考え方を教えているだけで、実際にはなんとなく財務諸表を見ているだけになってはいないだろうか? 研修で言われたからとりあえず計算してみたものの、なんだか実践的ではないようにも思われて、形骸化していることも多いのではないだろうか? 何のために、誰のために数字でのマネジメントを行っているのか、もう一度考えてみる必要があるかもしれない。

ミドルマネジメントにとって必要な計数の全体像

ミドルマネジメントの数字のリテラシーが高まらない原因の一つに企業における会計システムが高度化していることがある。マネジメントに必要なデータは、企画部門や管理部門が設定した分析指標の数値が「表示」されるため、自らが数字を認識しながらまとめ、分析する必要がなくなったこともその背景にある。
改めて計数管理の一般的な全体像を示すと、以下の図のようになる。

 

 
企業や業務によって、どのような指標をチェックするべきか異なる。それぞれの業務に合わせて考えなければならない。たとえば営業部門のマネージャーであれば、以下の図のような指標が必要となるだろう。

 

「横」「上」「下」の3つの視点での計数管理

上記の2枚の図のように、マネージャーは様々な指標を見ることが必要となるが、それぞれどのような場面で使うべきかを考えなければならない。
冒頭で述べたとおりミドルマネジメントは、「横」「上」「下」の3つの視点を持っていることが必要である。計数マネジメントにおいても、この3つの視点で考えることで、どの指標をどのような場面で何のために分析するのか、明確にすることができる。
①「横」の視点:事業の視点 (事業を成長させるための視点)
②「上」の視点:投資の視点 (経営資源獲得のための視点)
③「下」の視点:業務の視点 (自組織マネジメントとしての視点)

①「横」の視点:事業の視点
ミドルマネジメントは、自分の組織の目標達成だけでなく、自組織の活動が他の事業部門や機能部門にどのように影響するかという部門横断的な視点を持つ必要がある。たとえば営業部門のミドルマネジメントは自分の支店や営業所の収益管理だけに注意を払うのではなく、事業拡大のために最前線の情報を他部門へ伝えなければならない。
「横」の視点で必要となるのは事業全体を見渡しての損益管理の観点である。たとえば製品別、顧客別、エリア別などの収益把握や、受注価格を決定するための自社製品・サービスのコスト構造を把握できる能力である。言い換えれば、部分最適ではなく全体最適で損益を管理できることといえる。部門だけで商品の損益を見るのではなく、顧客に商品を販売した場合に会社にどれだけ利益が確保できるのかという視点で考えなければならない。
具体的には、「横」の視点で必要となる指標としては以下のようなものがある。

  • 製品/顧客別売上高
  • 製品別仕入原価
  • 製品在庫額/製品棚卸回転数
  • エリア別物流コスト
  • 顧客からのクレーム件数(開発部門と営業部門の連携などにて)

 
②「上」の視点:投資の視点
マネージャーの重要な役割の一つに予算計画がある。売上や利益計画などスタティックなものについては、過去のデータや自身の経験をもとに比較的容易に作成することができる方は多い。
一方で、投資を伴う予算計画に関しては、経営トップに対して投資対効果の根拠を示すことに苦慮する場合が多いように思われる。これは、単年度での予算計画の経験はあっても、中長期視点で収益シミュレーションを行う経験が少ないためではないかと思われる。
マネージャーは、どの程度の資源を投入すれば、どの程度の収益が見込めるのかなど、トップに対して数字で示すことが必要である。経営資源は有限であるため、経営トップは資源投下の優先順位をつけなければならない。ミドルマネジメントは、投資を伴う施策の優先順位を明確化するために、納得性のある目標売上と利益率を示せなければならない。
たとえば営業拠点の新設であれば、中期の目標売上、利益の根拠となるエリアの市場規模や成長率、競合企業のシェアや動向を踏まえてシナリオで立案できなければならない。そして、その目標を達成するために必要な人員、設備などのコストシミュレーションすることが必要となる。
具体的には、「上」の視点で必要な計数として以下のような指標がある。

  • 自組織の損益分岐点分析
  • 労働生産性
  • 有形総資産回転率
  • エリア潜在顧客数/競合拠点数
  • 投資の採算性と組織に求められる資本コスト
     

③「下」の視点:業務の視点
ミドルマネジメントの重要なミッションとして、中期経営計画などの上位の目標を自分のチームの目標に落とし込むことが挙げられる。また、メンバーの潜在的な能力を発揮させ、それぞれを成長させるということもある。
優れたマネージャーは、成果に至るまでの「関数」を明確にし、メンバーとともに認識を共有できる能力がある。中期経営計画を現場に落とし込む場合も、どの指標をクリアすれば目標が達成できるのか、部下に分かりやすく伝えることが必要である。
たとえば営業支店や営業所には、営業本部から目標として、昨年度対比110%、部門営業利益率5%、エリアでのシェア30%確保など、大まかな目標が与えられることが多い。マネージャーはこの目標を単純に個人の売上目標に割り当てるだけでは不十分であり、顧客の新製品提案数や見積り提案数などの先行指標まで落とし込む必要がある。また、提案から見積り、見積りから受注など営業プロセスのステップ(ランク)が上がるための目標達成率(確度)と、そのための施策まで示さなければならない。
すなわち「下」の視点で必要となるのは、チームでの先行指標の管理である。具体的には、以下のような指標がある。

  • 顧客開拓件数/訪問数
  • 営業/社内業務時間割合
  • 販売手数料
  • イベント実施回数
  • キャッシュコンバージョンサイクル/売上債権回転期間
     

こだわりの分析視点を持つ

今回はミドルマネジメントに必要な計数の全体像を示したうえで、「横」「上」「下」の3つの視点を示した。各視点で実践的に必要となる分析指標は、所属する組織や求められる成果によって異なる。今回のコラムを基に、それぞれのマネージャーが「こだわり」の指標を持っていただければ幸いである。日々の実践の中で、何をどのタイミングでどのように分析するのか、それぞれのノウハウを発展させていってほしい。
 

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