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第8回「経営トップ」の立場からみたブレークスループロジェクト:導入に至る背景や課題意識とは 人が集まり、互いが成長する組織 ~人・組織への投資と、学習・成長の仕掛けによる戦略~

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

「ブレークスループロジェクトとはどのようなものか、頭では理解できても実感がわかない」。これはブレークスループロジェクトを紹介した際によく言われることです。ブレークスループロジェクトのような創発型プロジェクトは、MBA、いわゆる経営大学院で学ぶトップダウン型・分析型のフレームワークとは異なります。感覚、感情、思考、行動、共感といった経験価値的な要素が強いので、自分自身が参加したり、少なくとも実践の場を自分の目で見たりしないと理解できない側面が多いのです。

とはいえ、実践した人や組織の実態を描写した文章を読むことは、理解の促進に役立ちます。そこで今回からは、ブレークスループロジェクトを実践した人や組織について、①それを仕掛けた経営者、②プロジェクトリーダー、②プロジェクトメンバーの3つの立場から、実態を説明していきましょう。それぞれの立場で何を考え、どう感じたのかを見ていきます。

まず、ブレークスループロジェクトを導入するのはどのようなタイプの経営者でしょうか。また、どのような背景や課題意識から導入に至るのでしょうか。 

課題意識(1)「過去の価値観でのトップダウン経営」では組織は活性化しないと感じていた

部門組織の長やグループ企業の役員などに着任した経営トップの中には、着任早々、組織の構成員について次のような印象を持つ人が少なくありません。

「みな優秀そうで人柄もいいが、仕事を楽しんでやっているようには見えない」
「会議で自分から手を上げる人がほとんどいない」
「聞かれたら必要なことは答えるが、それ以上は答えない」
「自分の担当の仕事をこなすのが精一杯で、プラスアルファの仕事はしたがらない」
「最近辞めていく若手が増えたと聞く」

我々経営コンサルタントも、こういった状況に陥っている会社を頻繁に見かけます。いや、ほとんどの会社がそうだと言ってもいいでしょう。

多くの場合、このような組織体質の劣化をもたらしている原因は、外部環境が変化しているのに経営トップのリーダーシップやマネジメント手法が旧態依然のまま、という「ズレ」です30年以上前のバブル期までの組織の基本的価値観・行動パターンを、現在もなお維持継続しているために「ズレ」が生じるのです。こうした過去の経営スタイルを踏襲する上位者から認められ、昇格してきたいわゆるエリートタイプは、年代に関係なくそのままトップダウン経営を実行することが多いようです。

その一方、新たなタイプの経営トップもいます。彼らは前時代的なトップダウン方式に矛盾を感じた経験や、そんな環境で働くことに無力感を覚えた経験を持っています。エリートではなく、むしろ組織の中では傍流を歩いてきた人の方が多いかもしれません。彼らの見方は冷静で、「過去の価値観でのトップダウン経営」では組織は活性化しないことをよく理解しています。ブレークスループロジェクトを導入した経営トップの多くが、この新たなタイプです。

課題意識(2)現場に数名いる「面白そうな人」を組織活性化に何とか活かしたいと思っていた

新たなタイプの経営トップは、組織構造や仕組みよりも、組織の中にいる「人」に着目します。常に「だれか面白そうな人いないかなあ」と探しているのです。この場合の「面白そうな人」とは次のようなタイプです。

  • すぐ人と仲良くなる人。仕事以外の雑談を通じて友達になってしまう人
  • 個人の趣味でも仕事でも、何か自慢できる得意なことがあり、それを周囲も認めている人
  • 問題が生じてもいつも何とかしてしまう人。何であれ属人的な解決方法を持っている人
  • 仲間から人気があり、みんなが集まった時にいじられ役になる人
  • 自分の弱いところ・苦手なことを自覚しつつ、開き直っている人

こうした属性を組織論的にかっこよく言えば、「インフォーマルコミュニケーションにすぐれた人」「強みに徹している人」「独自の発想と行動力のある人」「サーバントリーダーシップに長けた人」などとなりそうですが、かえってわかりにくいかもしれませんね。でも、どんな組織にもこういう人が一人くらいいるのではないでしょうか。

ブレークスループロジェクトを導入する新しいタイプの経営トップは、就任後1~2週間でそういう人を見つけ出し、些細なことを褒めたり飲み会に誘ったり、「ちゃん付け」で呼んでみたりして「友達」の関係をつくります。そしてこの短期間の付き合いの中で、その人を表舞台に引き上げ、活かしていく方策を考えます。これは単なる親心とか社員を思う気持ちだけではなく、劣化してしまった会社・組織の活性化には、この「面白そうな人」の潜在力を引き出すしかないとわかっているからです。

ただし、その場合でも急にその人の人事評価を上げたり昇格させたりしてはなりません。「面白そうな人」自身もそれを望みません。仲間のやっかみを買えば仕事が楽しくなくなるからです。それよりも、もっとインフォーマルに近い、一見遊びのような自由で楽しいプロジェクトのリーダーを任せるほうが適切でしょう。すなわち、こうした人がブレークスループロジェクトのリーダーやメンバーに適しているといえます。

課題意識(3)純粋に顧客と社員のために仕事をしてみたかった

新たなタイプの経営トップは、自分自身が納得できる仕事をしたいと願うものです。それはつまり、自分の上司や自身の昇格昇進のため、会社の業績向上のためだけではなく、目の前のお客様が喜んでくれる仕事、社員の成長を目の当たりにできるような仕事を意味します。

会社というものは、どれほど立派な経営理念やパーパスを掲げていても、現実には少しでも収益を上げ、株価を上げることに汲々としている場合が少なくありません。しかし、そんな姿勢でいたら顧客も社員もついてきてくれるでしょうか。本来は、顧客・社員・取引先など周囲のステークホルダーに対する貢献が先にあり、業績はあくまでもそうした様々な努力の結果・成果であるはずです。

新たなタイプの経営トップは、純粋に顧客や社員のために働きたいと思い、行動しています。具体的には以下のようなことです。

  • 顧客の喜びを最優先に考え、そして顧客の喜びが社員の喜びになる環境づくりをする。
  • プロジェクト目標の達成よりも、社員の成長過程に注目し、それに喜びを感じる。
  • 社員がプロジェクトを本当に楽しんでいるかどうかに気を遣う。
  • 予期せぬ事態をむしろユーモアをもって楽しむ。
  • 自分の弱いところを積極的にさらけ出し、お互いが補完関係にあることを身をもって示す。
  • 経営トップとして、プロジェクトの結果および会社・組織の業績結果の責任をとる。

このように、新たなタイプの経営者は従来の「改革型」経営者と全く異なる価値観を持っています。組織をリードする際、明確なビジョンや改革ロードマップを示すことは少ないですし、詳細な戦略計画や精緻な経営管理もあまり用いません。そもそも、経営者本人も経営を「改革する」ことにはあまり自信がないというケースが多いようです。

そのような経営トップは、トップダウンの経営手法では現場は変わらないことをよく理解しているので、ボトムアップで仕掛けようとします。すなわち、組織・制度・仕組みを変えるのではなく、組織の中の「動ける人(=面白い人)」に注目してリーダーに登用し、その潜在力を引き出すことで組織に自発的な変化が起きるようにするのです。そして、その発想の原点にあるのはやはり、「すべての努力は顧客と社員のために」という確固としたフィロソフィ(哲学)だと思います。

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