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第1回 ブランド力があり、業績が良くても人が去り、衰退に向かう会社 人が集まり、互いが成長する組織 ~人・組織への投資と、学習・成長の仕掛けによる戦略~

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

ブランド力があり、業績が良くても人が去り、衰退に向かう会社

コンサルタントである私のところに、あるクライアントの部長から数年ぶりのメールがありました。その会社は日本でも有数の大企業なのですが、メールによれば最近多くの若手社員が辞めてしまうようになった、残っている若手も活気がなく、自分から進んで何かやろうという様子が感じられない、とのこと。若手がそのような問題を抱えているとミドル社員の負担が大きくなり、業績にも影響が出てくるのではないか、というご心配が綴られていました。ちなみにこの会社は、社長がトップダウンで進める経営改革の成果で3年連続最高益を達成しています。もちろん一流企業なのでオフィスも一等地の高層ビル。とてもきれいで福利厚生も平均以上です。

さて、その部長さんはじめ4名のミドルが来社され、2時間ほど話をしました。若手に関する問題についてはみなさん「これといった原因が見当たらない」とおっしゃいます。しかし話を聞いていくうちに、いくつか気になる点が出てきました。

一つ目は、職場での会話が極端に少ないらしいということです。若手同士もあまり会話しておらず、ほとんどの人はただパソコンに向かっている。執務室はいつもしんとしていてキーボードの音しか聞こえない、というのです。二つ目は、残業はほとんどないにも関わらず、多くの若手が仕事に大きな負担感を抱いているらしい、ということ。業務の内容を何度確認してもそれほど難しいものはないことから、どうも仕事すること自体に疲労感を感じているようなのです。

気になった点の三つ目は、今の若手は新しい挑戦を嫌う、というコメントでした。自分が入社した頃なら夢のように思えただろう仕事をオファーしても、今の若い人は興味すら持たないというのです。若手がこのような状態なので、ミドル社員も若手に話しかけにくくなり、今の社内の雰囲気は最悪とのことでした。

4人のお話をじっくり聴いてわかったことは、ここ5年間実施してきた経営改革で、不採算の商品は撤退し、無駄を徹底して省きIT化してきた結果、明確な分業と仕事の効率化が進んだということです。だから新型コロナ感染拡大の最中も、在宅で一人でも仕事ができるようになった。逆に言えば、チームで仕事をする機会も必要も以前より減ってしまったようです。

話を聴くうちに、この会社は何か大切なことを置き去りにしてしまったように思えてきました。

職場とは、人にとって大事な社会的コミュニティの一つです。社員が互いをよく知り、何気ない会話を楽しんだり、時には一緒に遊びに行ったりして、交流を深める場です。給与を得るだけでなく、顧客やその先にある社会に貢献し、プロとして、そして人間として成長できる場です。つまり職場とは、社員が仕事のみならず仕事以外のことも通して人生を楽しみ、時には苦しみ、その結果顧客や社会に喜ばれ、人として成長していく大事な場なのです。

この会社の場合、悪気はないものの無意識に、職場を「無駄なことを一切行わず、合理的な方法で、決められた成果を出す場」と定義づけてしまっているのではないでしょうか。その結果、若手社員は楽しみや成長の場としての会社への期待を失ってしまったのではないかと思いました。

コンサルタントとして私が危機感を持つのは、こういったことが、今回訪問を受けた企業以外でも多く見られ、その数が増えていっていることです。社歴が長い人は、様々な体験ができたかつての職場を知っているので、最近のIT化や生産性向上、合理化にも耐えられるかもしれません。しかし、新卒で入社していきなり効率・合理性だけの世界に放り込まれたらどうでしょう。会話する余裕もなく、決められたことをやるだけで、仕事のやりがいなど感じられないのではないでしょうか。だから、楽しいはずの仕事を与えても反応が無いのだと思います。会社という場に対し、無力感を覚えることを学習してしまっているのです。

企業が生き残るためには経済性が重要ですし、そのための生産性も重要であることは十分理解します。しかし、それによって人の期待やモチベーションまで阻害してしまっては、果たして本当に良い経営と言えるでしょうか? 一義的な意味で経済性中心の会社は、短期では成果が出たとしても中長期で成長することができるでしょうか? 

顧客は単に低価格化だけでなく、むしろ他には無い付加価値を求めています。そういった付加価値は、商品・サービスを提供する社員一人ひとりのクリエイティビティとそれを支えるモチベーションからこそ生まれるのではないかと思います。

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