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「顧客も株主もビジネスモデルの違いを見ている」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第61回

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

テスラの企業価値が日米独の代表的自動車メーカーの合計規模を超えた

米国電気自動車メーカーのテスラの企業価値が、「トヨタ、独フォルクスワーゲン、独ダイムラー、米ゼネラル・モーターズ(GM)の4社を合計した規模より上をいく」(日本経済新聞2020年10月20日朝刊)という記事がありました。この期待値の違いは何か?米国ベンチャー株式市場のバブルというだけでは説明できません。

それはテスラのビジネスモデルへの期待です。2019年発売したテスラの量販車種「モデル3」は停車中に車の基本ソフト(OS)を最新の状態にアップデートしながら基本性能、自動運転機能などを高めていくフルコネクテッド型と呼ばれるものです。これはクルマを購入後に10万円から100万円のソフトウエアのアップデートで価値が上がるビジネスモデルで、中古車だけでなく新車の価格形成や残存価値に多大な影響を与える可能性もあると言われています。

テスラはユーザーの使用の状況を見ながら常にソフトウエアの改良をしていけます。一方日本やドイツの老舗の自動車メーカーは、5年に一回のハード中心のフルモデルチェンジやその間のマイナーチェンジのタイミングで新たなソフトウエアを改良するため、ハードの開発サイクルに同期化させたバージョンアップしかできません。顧客は「どうせハードの進化と一緒にソフトも変わるのだからいま買わなくてもいい」となりがちです。

米国テスラと日本やドイツの自動車メーカーとの違いは、「顧客経験価値」の捉え方とビジネスモデル戦略にあるといえます。米国テスラは、クルマを購入した顧客がより高度な機能を楽しめる経験価値を、顧客の使用実態を把握しながらソフトを中心に開発するビジネスモデル戦略です。一方で日本やドイツの自動車会社は、ハードを中心にメーカーがリードし一方的に商品を提供するワンウェイのビジネスモデルです。電気自動車に特化した規模が小さいテスラですが、このようなビジネスモデル戦略により、成長の期待を獲得することに成功しています。

顧客経験価値重視の商品開発のビジネスモデル開発は、いかに質の高い顧客参加型のビジネスモデルを構築するかにかかっています。このようなビジネスモデル開発は以下のような点を重視して行われます。

①細かな各機能別の計画ではなく、顧客経験価値のビジョンをしっかり持ち、大括りに3年、5年単位のロードマップを描き、段階を踏んでビジネスモデルを開発していく

②ソフトウエアによる機能アップとそれらを機能させるプラットフォーム開発に注力する

③小さいコアのビジネスモデルを事業スタートアップ時に構築し、顧客やパートナーの変化を取り入れながら進化させる

④ビジネスモデルが確立するまで短期的に試行錯誤を繰り返すのをいとわない

⑤一旦ビジネスモデルが確立したら「顧客経験価値を向上させる情報」を顧客と共有することを目的に一気に投資し、閾値を超え寡占化する

トヨタやフォルクスワーゲン、ダイムラーは資金、クルマの技術も豊富に持ち、莫大な金額のIT投資ができる企業です。しかし、企業価値で言えばテスラの後塵を拝しています。違いは顧客経験価値を重視したビジネスモデルを開発できたかどうかです。

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