「ドメイン戦略とは、顧客の心の中に、顧客との共創でつくるもの」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第55回
事業ドメイン戦略とは
これまでも何度か述べてきましたが、事業ドメイン戦略とは、事業領域のことです。どの範囲で事業を行うのかということを定義することです。独自の事業領域を定義し、展開することで、他社が入りにくい状況をつくり生き延びていくことを狙います。自然界を見ても似たようなことがあります。広い杉林には広葉樹や草花も生えにくく、杉の独自の領域をつくっています。日照のあまりいらないシダなどが少しはえているぐらいでしょうか。また、波打ち寄せる岩に松が生えていることがあります。そのような厳しい環境では他の植物は育ちにくく、松の独自の領域をつくっています。ビジネスでも、他社が生息しにくい領域を見つけ、独占すれば事業を順調に進めることができます。
顧客経験価値重視の事業ドメイン
顧客経験価値重視の商品開発では、この事業ドメイン戦略を、商品ベースではなく、顧客の経験価値領域をベースに構想します。その際に重要なのが起業の世界観です。顧客の経験価値に入ろうとすれば、まずは独自の価値観を共有しなければなりません。その世界観がドメインの基軸になります。そしてその世界観を実現するための独自の顧客経験価値領域がどこなのかを示します。
スターバックスコーヒーの事業領域はコーヒービジネスでもカフェビジネスでもなく「第3の場所」であるとよく言われています。自宅でもなく職場でもなく、自分らしさ、人間らしさが感じられる「第3の場所」を提供してるのです。実際もゆったりとした空間とインテリア、くつろげるソファ、急ぎ過ぎない親しみやすい接客、コーヒーの香り、そして訪れる顧客自身など、他にはない「第3の場所」を顧客とともに創り上げています。スターバックスに行けば、スターバックス独自の感覚、感情が生まれ、リラックスしたなかで、充実した思考体験やコーヒーや会話を楽しんだり、ちょっとしたクリエーションができたりします。そしてその体験を誰かとシェアしたくなります。こういった一連の経験がスターバックスでなければ得られないものなのです。
事業ドメイン戦略の検討項目
- 世界観(どのように人や社会やその未来を認識するのか)
- ターゲット顧客(どんな属性を持った顧客か)
- 顧客の置かれた状況、シーン
- 具体的な経験の対象
- その顧客経験価値を商品のどのような要素や方法で満たすのか(テクノロジー、ブランド、情報、ハードウエア、人によるサービス、On-line、Off-lineなど)
顧客経験価値重視のドメイン戦略の特徴
顧客経験価値重視のドメインは、単発の商品の提供ではなく、継続的なコンテンツ提供やコミュニケーションによって守られます。少しでもその連鎖が切れれば自社のドメインは、他社の侵入を許すかも知れません。また継続的なコンテンツやコミュニケーションは、ドメインを深化させたり、ずらしたり拡大させたりしてくれます。新商品や新事業の大きなプロジェクトを起こすことなく、活動の連続した先に新しい領域が見えてきますので、よりリスクの少ない方法といえます。
結局、顧客経験価値重視のドメイン戦略とは、顧客の心の中に、顧客との共創でつくるものであり、企業が一方的につくるものではないのです。