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「ビジネスモデルという発想があって顧客経験価値は発展してきた」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第27回

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

ビジネスモデル企画とは、単に商品を作り販売するという単純な仕組みではなく、より高度な顧客経験価値を提供するために、他社と連携したり、商品以外の情報やサービスを提供するために、ビジネスの仕組みを工夫したりすることです。

ビジネスモデル戦略が注目されたのは、インターネットの普及が影響しています。インターネットが普及して、企業と顧客は双方向のコミュニケーションができるようになり、また自社の商品に他社の商品やサービスを組み合わせて紹介したり、さらにはAIを活用し、顧客の好みを推測し、提案したりといったことが可能になりました。インターネットなどITによってビジネスのやり方が大きく変わったのです。

インターネットの普及と同時に多くの市場が成熟し、顧客は単純にモノやサービスを購入するのではなく、経験価値を購入するようになりました。インターネットの普及と顧客経験価値重視の変化が、ビジネスモデル重視の流れをつくったといえます。

ITは我々の生活や仕事の隅々まで普及してきていますが、既存事業の多くは、ITを生産性向上や合理化などの範囲でしか利用していないケースが多いと思います。多くの日本企業は、フィジカルなモノやサービスにこだわるあまり、情報を使って仕掛け、構造でビジネスを構想する発想、思考の転換がしにくいのだと思います。

さて、ビジネスモデル企画はどのように行うのでしょうか。ビジネスモデル企画には大きく5つの要素があります。

1.顧客経験価値

どのような顧客経験価値を提供するか、その顧客経験価値は他社と比較してどのような独自性があるのか、その独自性は具体的にどこでどのように感じるのかを明確にします。顧客経験価値の定義は、商品コンセプトの段階で明確になっていると思いますので、ここではその再確認となると思います。

注意しなければいけないのが、顧客経験価値は、自社だけでなくパートナー企業も共同で提供するということです。ほとんどの産業では、一社だけでなく複数社で顧客経験価値を提供し、差別につなげています。パートナーも含めた顧客経験価値を企画する必要があります。

2.コアコンピタンス

コアコンピタンスとは自社の核となる強みです。コアコンピタンスがなければ商品の独自性も魅力も持たせることができませんし、有力なパートナーを引き寄せることもできません。また戦略の見直しによりコアコンピタンスが生かされる事業領域にシフトすることで、強い事業を構築できるかもしれません。コアコンピタンスを考える際に重要なのは、顧客やパートナーからの情報がコアコンピタンスにフィードバックされる仕組みを設計することです。そのフィードバックによりコアコンピタンスをより強くし、競争優位をつくり出すためです。

3.情報フィードバック

ビジネスモデルは、顧客、パートナー企業からの情報がフィードバックされ、コアコンピタンスを強化するシステムが設計されていなければなりません。そのために顧客やパートナー企業が情報をフィードバックすることでメリットを得られる仕掛けが必要です。素材メーカーのゴアテックス社は、防水性と通気性を両立させた素材をアウトドアアパレルメーカーに供給する際に、その性能が十分発揮できるようにアパレルメーカーと共同開発契約を結んでいます。またゴアテックス社の素材が組み込まれた製品にはゴアテックス社のロゴを裏地に入れることと、製品にタグを付けること(商標権付与)を契約に入れています。この契約によって、ゴアテックス社はアパレルメーカーの開発段階の情報を入手し、毎月のブランド別売上情報を取得していると考えられます。ゴアテックス社はこれらの情報フィードバックによりコアコンピタンスである技術力とマーケティング力を磨いています。

4.プラットフォーム

ビジネスモデルの中でプラットフォームとは、ビジネスモデルの基盤となるもので、社外のパートナーの組織、人、機器が自社のビジネスモデルにコネクトされ、自社からの情報、ノウハウ、商品やサービスなどが提供され、また社外パートナーから情報、ノウハウ、商品やサービスなどがフィードバックされるシステムです。

プラットフォームが他社に活用される理由は、高い経済性が得られるからです。そのためにプラットフォームには競争力のある技術、スキル、システムが必要となります。

プラットフォームは、ITシステムが中心になっている形態と、取引契約や知的財産面での契約などルールや制度が中心になっている形態と、その二つの融合した形態があります。例を挙げるとインテルのパソコンやサーバーのCPUは、商品と取引契約や知財によってプラットフォームを形成し、長期間市場で寡占状況を維持しています。インテルのCPUを除いては、パソコン製造ビジネスを考えにくい状況をつくりだしています。

ネット社会の複雑さが増す中で、現在あらゆるビジネスで様々なプラットフォームが生まれています。その一方でプラットフォームの淘汰が起こったり、GoogleやAppleなどのグローバルスタンダート化したプラットフォームの上にプラットフォームを構築したりするケースも多くなってきました。多くのプラットフォームのエコシステムの中での競争と共生が活発に行われています。

5.収益源

ビジネスモデル戦略は収益源を多様化させる可能性があります。かつては商品を販売して代金を回収するワンウェイ型のビジネスが多かったのですが、現在ではリース、レンタル、シェアなどの利用料を獲得するビジネスなど多様な収益獲得方法が開発されてきています。これは顧客がかつて商品を取得、所有することに注視していたことから、利活用重視、つまり経験価値重視にシフトしてきていることによるものです。これは商品提供者側にとっても良いことで、ワンウェイの関係を長期間維持できる可能性が見いだせたり、顧客の商品状況がデータで把握でき、マーケティングに活用できるなどのたくさんのメリットがあります。

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